悪役令嬢にならないための指南書

ムササビ

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Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革

66.アイリの休日1

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アイリは不機嫌だった。
アイリがアンドレアスを婚約者から奪った翌日、「悪役令嬢たち」はそろって学園を休んだ。
しかし、ヘンリクスに手紙を渡したのに何の音沙汰もなく、
マリーで気分転換をしようと教室を訊ねたが、マリーも学園を休んでいた。
そして、アンドレアスから衝撃の事実を聞いてしまった。

ジョンが裏切った。

小さなころからの幼馴染で、自分の言うことなら何でも聞いていたジョンが、なぜ自分から離れていってしまったのか原因がわからなかったのだ。

その日の夜、アイリは寮の厨房を借りて、お菓子作りに励みながら怒りを生地に込めていた。

「なんなのよ! ジョンのクセに!」

泡だて器がいつも以上のスピードで、ボウルの中の生地を仕上げていく。
ジョンが裏切り者であるなら、マリーを嵌めた真相が悪役令嬢側に伝わってしまっている。
アンドレアスが何も気づいていないようだったのが、せめてもの救いである。
アンドレアスとの仲は、プリムラが悪役とすることで成り立っているのだから、下手なことをしてマリーの事件の真相を知られるわけにはいかない。

「髪飾りをジョンから取り戻さなくちゃ。」

焦りすぎているという自覚はある。
伯爵家の令息であるアンドレアスと、このまま結ばれるのもいいのではないかという気もする。
次期宰相ともいわれる秀才であり、見た目も良く、物腰が柔らかく優しい、申し分のない相手だ。
だけど、ヘンリクスを諦めきれない。
驚くことに、アイリは純粋にヘンリクスのことを好きだった。
アイリが前世で遊んでいた乙女ゲームでの最推しキャラだった王太子。
ユニカ高等学院で初めて会ったときには、心臓が口から飛び出るかと思うくらいときめいた。

「これをつけていたら一発で虜にできるって言ってたじゃない……。」

アイリは右の手首にある細く繊細なブレスレットを眺める。
小さな赤色の宝石が照明の明りに反射して煌めいていた。
ボウルの中で仕上がった生地を鉄板で丸い形に焼いていく。
明日は週末で学園が休みなので、久しぶりにお菓子を売りに出かけることになっている。
そして、そこで会わなければいけない人物がいるのだった。

「明日、絶対に問い詰めてやるんだから!」

焼き上がった生地2枚に、仕込んでおいた餡子を挟んでいく。
アイリが作った「どら焼き」はこの世界にはないスイーツで、平民の間に口コミで評判が広がっていった。
砂糖以外の材料は安価で手に入るのも、アイリにとっては好都合だった。
砂糖はジョンの口利きで業者から仕入れることができていたが、今後のことを考えると頭が痛い。
アイリは、すべての餡子を包み終わると、きちんと後片付けをして厨房をきれいに磨き上げた。

翌朝、アイリは完成した大量のどら焼きを持つと、ピンクの髪を隠すようにスカーフを頭に巻き、いつも店を出している場所へと出かけた。
近にある顔なじみの食堂に預けておいた屋台セットをてきぱきと組み立てて、丁寧に紙に包んだどら焼きを並べれば、開店準備完了である。

(こんな姿、ヘンリクス様には見せられないわ……)

アイリは地味なワンピースに身を包み、平民のふりをしている自分を恥ずかしく思っていた。
だが、アイリは自分で生計を立てなければ生きてはいけなかったのだ。

(いつもきれいなドレスを着ている悪役令嬢には負けたくない。)

ヘンリクスと初めて会ったとき、隣にはリーリウムがいた。
シンプルながらも質の良さを感じるワンピースを着て、にこにことヘンリクスと笑い合う姿に激しく嫉妬をした。
ゲームの中の悪役令嬢はいつも厳しい顔をして、ヒロインにつらくあたっていた。
リーリウムも性格が悪く、傲慢に違いないのに、ヘンリクスがリーリウムを大切にしているのを見ると切なくなる。

(私がヘンリクス様を悪役令嬢から守らなくては……。)

そんなことを考えながら、アイリは、次々に来る客へどら焼きを売り続けていた。
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