71 / 141
Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革
71.ウェスペル家の休日4
しおりを挟む
フレエシアは身支度を整えると、邸宅を出て馬車で学園へ向かった。
休日なので、正門は施錠されている。
そのため、学園の裏側、研究棟の近くにある小さな通用門へとまわった。
守衛に研究棟所属である身分証を見せ、門を開けてもらう。
すると、ちょうど前をカイル・ハモンドが歩いていた。
「カイル!」
「フレエシア様。おはようございます。」
カイルは研究者にしては男らしい顔立ちで背も高く、弟のジョンとも妹のマリーとも顔も雰囲気も似ていないが、ハシバミ色の髪の毛だけはそっくりだった。
高位貴族との付き合いもあるからか、研究棟所属の他の男性たちとは違い、いつもこざっぱりとした格好をしている。
そして、何度「年下だから呼び捨てにしてほしい」と言っても、高位貴族の令嬢である彼女を「フレエシア様」と呼ぶ、少し頑固な性格だ。
「あ、それ、マリー嬢のチョコレート?
私も今朝もらったよ。」
カイルが大切そうに持っている箱を指さしてフレエシアが話し始めると、カイルはフレエシアの方へ向き直り、大きく頭を下げた。
「今回は弟が迷惑をかけてしまい、申し訳ありません。
それに、妹はプリムラ様にずいぶんと救われたそうです。
ありがとうございます。」
「いいよいいよ。
結果的にはジョンも正気に戻ったんだし、私たちも大切な弟君にスパイみたいなことをさせてしまって、ごめんね。
マリー嬢もね、プリムラが仲良くしたかっただけだよ。」
「ジョンが役に立ちそうなら、どれだけでもこき使ってください。
ハモンド家はフレエシア様たちのためならば、何でも協力させていただきますので。」
「重いし、真面目過ぎるよ。カイル……。
まあ、何かあったらお願いします。」
フレエシアもカイルを真似して深々と頭を下げる。
二人は同時に頭をあげ、目が合うと微笑み合う。
「フレエシア様も研究ですか?」
「うん。
先日、リーリウムと殿下が依頼したマギア教授の研究の進捗状況が知りたくて。
それに、許可をいただけるなら、お手伝いしたいなと思って来てみたんだ。
カイルは何?
また新薬の研究しにきたの?」
「いえ、今日は調剤をしに。
明日必要なのに、ちょうど家のストックが切れてしまっていたのです。」
「そうなんだ。
薬草商も今日は休みだもんね。」
「はい。」
そんなことを話しているうちに、カイルの研究室の前に到着していた。
「それじゃあ、またね。」
フレエシアがそう言うと、カイルはまた深々と頭を下げた。
カイルと別れたフレエシアは、自分の研究室には寄らずにマギア教授の部屋へ向かう。
ドアをコンコンとノックすると「ふぁ~い」と、何とも間の抜けた返事が合った。
「先生、また徹夜したでしょ?」
フレエシアは朝の挨拶もせずに、ずかずかとマギア教授の部屋へと侵入していく。
「フレエシアちゃんも似たようなものでしょ。
目の下にクマができてるよ?」
マギア教授は、フレエシアのことを唯一“ちゃん”づけで呼ぶ。
最初はくすぐったかったフレエシアも、さすがにもう慣れた。
フレエシアが研究室に入ったのは、十三歳の時。
入学して数カ月で研究室入りしたのは、今も破られていない最年少記録だ。
しかし、それはフレエシアが優秀だっただけではなく、公爵令嬢だったことも影響していた。
すでに腐敗していた学園の上層部のご機嫌取りに利用されていたことは、本人も含め、周知の事実だった。
そのため、学園の上級生や研究棟の先輩の中にはフレエシアを白い目で見る者も少なくなかったのだ。
そんな中で、フレエシアを最もかわいがってくれたのがマギア教授で、マシューのような若い研究者たちとの間を取り持ってくれた。
それに、フレエシアの話を聞き、研究の方向性を導き出してくれた恩人でもある。
そのため、フレエシアはひそかにもう一人の父のように尊敬していた。
「先生はクマどころか、顔色がすごいことになってるよ……。
あ、そうだ、これ食べる?
びっくりするくらい元気になるよ!」
フレエシアはおやつに食べようと持ってきていたマリーのチョコレートを一かけら、マギア教授の口の中へ放り込む。
「うん? チョコレート? 初めて食べる風味だな?
あれ? ちょっと待てよ? これは……」
ぼそぼそを話し始めたマギア教授は、アイリの手紙を持って魔法石を触った。
すると、魔法石が紫色に変化した。
「え? 何事?
紫っておだやかじゃないね……」
紫は闇属性の色だ。
「フレエシアちゃん、このチョコレートすごいよ!
どこで売ってるの?」
「いや、売ってはないと思う。
プリムラのお友だちが作ってくれたやつだから。
それより、何が起こったのか説明してよ。先生。」
「多分、このチョコレートには魔力を増幅する効果があるんだよ。
それで、僕でもこの手紙に宿った魔法の属性を魔法石に送ることができたってわけ。
このチョコレート、何が入ってるの?」
箱の中には、あともう一つしかチョコレートが残っていない。
「分析しよう!」
「わー! ちょっと待って!
分析しなくても、材料が分かる人がここにいるから!」
マギア教授が最後のチョコレートを持って行こうとしていたのを、フレエシアは慌てて阻止する。
二人はチョコレートが一つだけ入った箱を大切に抱えて、カイルのいる研究室へと向かった。
休日なので、正門は施錠されている。
そのため、学園の裏側、研究棟の近くにある小さな通用門へとまわった。
守衛に研究棟所属である身分証を見せ、門を開けてもらう。
すると、ちょうど前をカイル・ハモンドが歩いていた。
「カイル!」
「フレエシア様。おはようございます。」
カイルは研究者にしては男らしい顔立ちで背も高く、弟のジョンとも妹のマリーとも顔も雰囲気も似ていないが、ハシバミ色の髪の毛だけはそっくりだった。
高位貴族との付き合いもあるからか、研究棟所属の他の男性たちとは違い、いつもこざっぱりとした格好をしている。
そして、何度「年下だから呼び捨てにしてほしい」と言っても、高位貴族の令嬢である彼女を「フレエシア様」と呼ぶ、少し頑固な性格だ。
「あ、それ、マリー嬢のチョコレート?
私も今朝もらったよ。」
カイルが大切そうに持っている箱を指さしてフレエシアが話し始めると、カイルはフレエシアの方へ向き直り、大きく頭を下げた。
「今回は弟が迷惑をかけてしまい、申し訳ありません。
それに、妹はプリムラ様にずいぶんと救われたそうです。
ありがとうございます。」
「いいよいいよ。
結果的にはジョンも正気に戻ったんだし、私たちも大切な弟君にスパイみたいなことをさせてしまって、ごめんね。
マリー嬢もね、プリムラが仲良くしたかっただけだよ。」
「ジョンが役に立ちそうなら、どれだけでもこき使ってください。
ハモンド家はフレエシア様たちのためならば、何でも協力させていただきますので。」
「重いし、真面目過ぎるよ。カイル……。
まあ、何かあったらお願いします。」
フレエシアもカイルを真似して深々と頭を下げる。
二人は同時に頭をあげ、目が合うと微笑み合う。
「フレエシア様も研究ですか?」
「うん。
先日、リーリウムと殿下が依頼したマギア教授の研究の進捗状況が知りたくて。
それに、許可をいただけるなら、お手伝いしたいなと思って来てみたんだ。
カイルは何?
また新薬の研究しにきたの?」
「いえ、今日は調剤をしに。
明日必要なのに、ちょうど家のストックが切れてしまっていたのです。」
「そうなんだ。
薬草商も今日は休みだもんね。」
「はい。」
そんなことを話しているうちに、カイルの研究室の前に到着していた。
「それじゃあ、またね。」
フレエシアがそう言うと、カイルはまた深々と頭を下げた。
カイルと別れたフレエシアは、自分の研究室には寄らずにマギア教授の部屋へ向かう。
ドアをコンコンとノックすると「ふぁ~い」と、何とも間の抜けた返事が合った。
「先生、また徹夜したでしょ?」
フレエシアは朝の挨拶もせずに、ずかずかとマギア教授の部屋へと侵入していく。
「フレエシアちゃんも似たようなものでしょ。
目の下にクマができてるよ?」
マギア教授は、フレエシアのことを唯一“ちゃん”づけで呼ぶ。
最初はくすぐったかったフレエシアも、さすがにもう慣れた。
フレエシアが研究室に入ったのは、十三歳の時。
入学して数カ月で研究室入りしたのは、今も破られていない最年少記録だ。
しかし、それはフレエシアが優秀だっただけではなく、公爵令嬢だったことも影響していた。
すでに腐敗していた学園の上層部のご機嫌取りに利用されていたことは、本人も含め、周知の事実だった。
そのため、学園の上級生や研究棟の先輩の中にはフレエシアを白い目で見る者も少なくなかったのだ。
そんな中で、フレエシアを最もかわいがってくれたのがマギア教授で、マシューのような若い研究者たちとの間を取り持ってくれた。
それに、フレエシアの話を聞き、研究の方向性を導き出してくれた恩人でもある。
そのため、フレエシアはひそかにもう一人の父のように尊敬していた。
「先生はクマどころか、顔色がすごいことになってるよ……。
あ、そうだ、これ食べる?
びっくりするくらい元気になるよ!」
フレエシアはおやつに食べようと持ってきていたマリーのチョコレートを一かけら、マギア教授の口の中へ放り込む。
「うん? チョコレート? 初めて食べる風味だな?
あれ? ちょっと待てよ? これは……」
ぼそぼそを話し始めたマギア教授は、アイリの手紙を持って魔法石を触った。
すると、魔法石が紫色に変化した。
「え? 何事?
紫っておだやかじゃないね……」
紫は闇属性の色だ。
「フレエシアちゃん、このチョコレートすごいよ!
どこで売ってるの?」
「いや、売ってはないと思う。
プリムラのお友だちが作ってくれたやつだから。
それより、何が起こったのか説明してよ。先生。」
「多分、このチョコレートには魔力を増幅する効果があるんだよ。
それで、僕でもこの手紙に宿った魔法の属性を魔法石に送ることができたってわけ。
このチョコレート、何が入ってるの?」
箱の中には、あともう一つしかチョコレートが残っていない。
「分析しよう!」
「わー! ちょっと待って!
分析しなくても、材料が分かる人がここにいるから!」
マギア教授が最後のチョコレートを持って行こうとしていたのを、フレエシアは慌てて阻止する。
二人はチョコレートが一つだけ入った箱を大切に抱えて、カイルのいる研究室へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!
杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。
彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。
さあ、私どうしよう?
とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。
小説家になろう、カクヨムにも投稿中。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる