刻まれる1/4乗の物語

ハル

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雨の日も風の日も side N

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  私の朝は比較的早い方だと思う。ここでの比較対象は私以外の家族ということになるのだけれど。
私が目を覚ます頃に皆はまだ夢の中に居て、時折イビキや寝言を交錯させながら私をクスっとさせる。

ここは田村家である。家族構成は父の浩二(単身赴任中)、母の優子、私ナナ、妹の遥、飼い猫の虎鉄。
飼い猫を人数に入れても怒られないのであれば5人家族でーす!と言いたい。
父(単身赴任中)は4年程前から新幹線に乗って1時間半の二つ隣の県に一人旅立っている。
赴任の話が出た時にはすでに長期になることが予想されていたらしいが、父が月イチでこちらに帰ってくればいいと言うので持ち家を引き払ってまでは着いて行かなかったようだ。
お父さんっ子である私にとっては少し、というかかなり寂しい事件だったのだけれど、その月イチが他に代えようもないスペシャルデイになったことは言うまでもない。

そのために普段生活を共にしているメンバーは母親と妹と飼い猫だけということになる。
飼い猫はともかく、母親と妹を起こすのはいつでも私の役目だ。
別に自ら志願してやっているわけはないのだが、家族の中で朝に強い人物を掲げるとすればそれがどうやら私しか居ないのだ。

母親に関しては二・三度声をかけてあげることで割とすぐに現実へと戻ってきてくれるのだが、妹に関しては正直考えるだけで頭が痛くなる。
何と説明すればいいのだろうか。
妹に関しては、実は夢の中の方が現実なのではないかと思う程にとにかく起きないのだ。

「お母さん、起きて。ウォーキングに行く時間だよ」
声をかけるがそれだけでは起きないので何度か体を揺する。
ちなみにこのウォーキングは、数年前から健康の為だと言って私と母親で始めたものだ。
妹ならばそんな時間があるならギリギリまで寝ていたいと言うだろう。
私の朝が比較的早いというのは、この日課のおかげでもある。
そうしてようやく母親が目を覚ます。
「ああ、おはよう。今日も早いね」
まだ半分夢と現実を行き来しているような表情でそう答える母親。
今日はどんな夢を見ていたのだろうか。
私は毎朝のこのやり取りが割と嫌いではなかった。
起き抜けの母親はぬくぬくの布団の引力に半分持っていかれながらも、のそのそと体を起き上がらせ、そして天にも昇る程の背伸びをする。
吸い込まれそうな程大きなあくびと共に。
私はそこまで見届けたあと、1階のリビングへ降りていく。
寝起きの水分補給をしている途中に続いて母親も降りてくる。
そのままリビングのカーテンを開け、部屋に光を呼び込もうとする。

しかしこの日は入ってくるはずの日差しの代わりに、雨粒が窓をノックしていた。
「やだ!今日は雨じゃないの!」
私は特に雨も風も億劫になる要因にはならないのだが、母親はそうではないらしい。
「今日は、やめとこうか?」
母親を気遣ってそう尋ねてみた。
しかし母親も一度決意した意志は固い方なので、何だかんだ言いながらもウィンドブレーカーを羽織って準備し始めていた。
まだ秋とは言えど雨の日の朝は寒い。
母親は冷え性なので尚更だろう。

「あんた、そのままの格好で大丈夫かしら」
私は大丈夫という意味で頷く。
私は朝に強い上に寒さにまで耐性があるようだ。まあ、便利な体だとは思う。
そしてまだ少し億劫そうな母親と共に外へ出る。
母親は傘を持ち出していたが、私は邪魔になるのでいらないと伝えた。

実は結構この習慣が好きな私は、外へ出るとテンションが上がってしまう。
そうなってくるともう少し体を動かしたくなって時々ジョギングを挟みながらコースを進んでいく。
「ちょっと待ってちょうだい!」
そんな母親の懇願を無視してしまうことも度々あった。
母親は歳の割に若々しく美人な方ではあるので、毎朝犬の散歩をしているご近所さん達とすれ違っては良く褒められている。
しかし、やはりこのような場面ではやはり歳相応なのだ。
確かに今日は雨も降っているからペースを合わせるべきだろう。傘を差しながらの母親に本気ウォーキングは辛いはずである。

だいたいウォーキングに当てる時間は30~40分程。家から15分程の場所にある公園を折り返し地点として、来た道を戻るコースだ。
今日は雨のせいか知らず知らずの内に母親も早足になっている。ちょうどいい具合に体が暖まってきた頃だったが仕方ないだろう。
あと500m程で家だ。
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