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絶望の生配信
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「えー、みんな今日も見てくれてありがと!『さきまる』こと早乙女紗希です!」
都内にあるワンルームマンション。鮮やかなオレンジブラウンのポニーテールを揺らしながら、紗希はカメラに向かって満面の笑みを振りまいていた。フォロワー二十五万人を抱える彼女の配信画面には、絶え間なく称賛のコメントが流れていく。
だが、その瞳の奥には拭いきれない疲労が滲んでいた。バズるために、裏社会を配信のネタにした報い。彼女はまだ、自分が踏み込んだ世界の深さを理解していなかった。
同時刻。数百メートル離れた路上で、警察の制服を着た男がスマホを耳に当てていた。久保田健――山本組の「手駒」へと成り下がった警察官である。
「……はい。特定しました。彼女の住所は、世田谷区の――」
久保田の声は、自らの汚職に対する罪悪感よりも、ただ目の前の義務を早く終わらせたいという投げやりな響きに満ちていた。その情報を受け取ったのは、漆黒のスーツを纏った篠崎亮介だった。
配信は続いていた。
「えっ、なんか玄関の方で音がしたかも?」
紗希が怪訝そうに首を傾げた、その瞬間。
カチリ、という小さく冷徹な音が響いた。
ピッキングによって解錠されたドアが、ゆっくりと、だが拒絶を許さない力強さで開かれる。
「……誰?」
カメラの死角から、長身の影が室内に滑り込んだ。
配信画面のコメント欄が凍りつく。視聴者たちの目には、紗希の背後に立つ、鋭い切れ長の目をした男の姿が映っていた。顎に小さな傷痕を持つ、死神のような男。
「俺の罪を配信すれば、友の仇をうてると思ったのか?」
篠崎の低く、計算されたように静かな声がマイクに拾われる。
紗希が悲鳴を上げようとした時には、すでに篠崎の手には鈍く光るナイフが握られていた。
「待って、お願い! 何でもするから――」
「お前はもう知っているはずだ。もう助かるすべなどないことを」
篠崎の腕が、冷徹な効率性をもって動いた。
無駄な暴力は嫌うが、必要な処刑を躊躇うこともない。
画面が激しく揺れ、倒れたデスクライトが紗希の絶望に歪む顔を照らし出した。飛び散った鮮血が、パステルカラーで彩られた可愛らしい部屋の壁を汚していく。
生配信の接続が途切れる直前、何万人もの視聴者が目撃したのは、カメラを一瞥もせずに返り血を拭う篠崎の横顔だった。
数分後。
『人気インフルエンサー「さきまる」、配信中に襲撃され死亡か』
ネットニュースの速報が、無機質な文字列となってタイムラインを埋め尽くした。
都内にあるワンルームマンション。鮮やかなオレンジブラウンのポニーテールを揺らしながら、紗希はカメラに向かって満面の笑みを振りまいていた。フォロワー二十五万人を抱える彼女の配信画面には、絶え間なく称賛のコメントが流れていく。
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同時刻。数百メートル離れた路上で、警察の制服を着た男がスマホを耳に当てていた。久保田健――山本組の「手駒」へと成り下がった警察官である。
「……はい。特定しました。彼女の住所は、世田谷区の――」
久保田の声は、自らの汚職に対する罪悪感よりも、ただ目の前の義務を早く終わらせたいという投げやりな響きに満ちていた。その情報を受け取ったのは、漆黒のスーツを纏った篠崎亮介だった。
配信は続いていた。
「えっ、なんか玄関の方で音がしたかも?」
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カチリ、という小さく冷徹な音が響いた。
ピッキングによって解錠されたドアが、ゆっくりと、だが拒絶を許さない力強さで開かれる。
「……誰?」
カメラの死角から、長身の影が室内に滑り込んだ。
配信画面のコメント欄が凍りつく。視聴者たちの目には、紗希の背後に立つ、鋭い切れ長の目をした男の姿が映っていた。顎に小さな傷痕を持つ、死神のような男。
「俺の罪を配信すれば、友の仇をうてると思ったのか?」
篠崎の低く、計算されたように静かな声がマイクに拾われる。
紗希が悲鳴を上げようとした時には、すでに篠崎の手には鈍く光るナイフが握られていた。
「待って、お願い! 何でもするから――」
「お前はもう知っているはずだ。もう助かるすべなどないことを」
篠崎の腕が、冷徹な効率性をもって動いた。
無駄な暴力は嫌うが、必要な処刑を躊躇うこともない。
画面が激しく揺れ、倒れたデスクライトが紗希の絶望に歪む顔を照らし出した。飛び散った鮮血が、パステルカラーで彩られた可愛らしい部屋の壁を汚していく。
生配信の接続が途切れる直前、何万人もの視聴者が目撃したのは、カメラを一瞥もせずに返り血を拭う篠崎の横顔だった。
数分後。
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