#ヤクザの女に手を出した大学生

シロタカズキ

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侵食される聖域

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  中野翔のアパートは、六畳一間のありふれた学生の部屋だ。散らかった講義のレジュメや、飲みかけのペットボトル。晴人は今夜、そんな部屋に泊まっていた。

 だが今、悪夢のような現実が、執拗に晴人の精神を削り取ろうとしている。

「……嘘だろ、さきまるが」

 晴人は、借りた毛布の上でスマートフォンの画面を凝視していた。
 ネットニュースのトップを飾る、扇情的な見出し。早乙女紗希が、配信中に篠崎に襲われ、命を落としたという。

 震える指先で画面を消したその時、手元でバイブレーションが鳴り響いた。
 表示された発信元は――父の久我健太。

 晴人は反射的に通話ボタンを押し、耳に当てた。
「父さん? 悪い、今夜は友達の家に――」
『……俺だ。』

 血の気が引いた。
 耳に届いたのは、温厚な父の声ではない。氷のように冷たく、一切の感情を排した、あの男の声だ。

「……篠崎」
『一人で家に帰ってこいよ、久我晴人』

 篠崎の声の背後で、押し殺した吐息が聞こえた。地方公務員として真面目に生きてきた父が今、どんな状況にあるのか。想像するだけで、晴人の心臓は壊れた時計のように激しく脈打った。

 プツリ、と一方的に通話が切れ、静寂が戻った部屋の中で、晴人は立ち尽くした。
 
「晴人? どうしたんだよ、真っ青な顔して」
 奥でカップ麺を啜っていた中野が心配そうに声をかけるが、その声すら遠く感じる。

 平凡な人生を嫌い、刺激を求めていたはずだった。だが、裏社会の闇が日常という聖域を土足で踏みにじった今、晴人を突き動かしているのは好奇心ではなく、逃げ場のない剥き出しの恐怖だった。

 晴人は上着をひったくるように掴むと、夜の街へと飛び出した。
 背後で中野が呼ぶ声も聞かず、彼は篠崎に指定された、自らの家へと走り出した。
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