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冷酷なる報告
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王国軍総司令部の作戦室。
夜の帳が降りる中、燭台の炎が揺らめき、漆黒の影を壁に落とす。
重厚な机の向こうで、王国の軍部総司令官ライナルト・フォン・エーデルハイトは腕を組み、カスパール・ヴェルナーを見据えていた。
壮年の将軍の鋼のような眼差しには、一片の迷いもない。
「報告しろ、ヴェルナー。ルシアンの動きは?」
カスパールは淡々と答えた。
「ダガン・ボーンアローは死亡しました。殺したのはルシアンです。」
ライナルトの眉がわずかに動いた。
「……確認は取れたのか?」
「確実です。」カスパールは断言した。「それだけでなく、ゼルクスという魔族に罪を擦りつけ、魔王軍の中でさらに信用を得た。見事な手際です。」
ライナルトは鼻を鳴らし、満足げに頷いた。
「そうか。」
「ルシアンは魔王軍で確実に信用を得ています。魔王レグナスは、もはや彼を腹心として見ている。」
「しかし逆を言えば、時間の経過とともに、彼は魔族側に傾倒する可能性があるということです。」
「貴様の部下にそんな甘い感傷があるとでも?」
カスパールは微かな笑みを浮かべた。
「彼は、感情を排した道具として訓練されました。ですが、道具も使い続ければ傷つき、磨耗し、時に歪む。」
カスパールはしばし沈黙した後、静かに口を開いた。
「……ルシアンの出自について、ご存じですか?」
ライナルトは少し眉をひそめた。
「聞いている。半魔だろう? 魔族の血を引くことが奴の能力の一端になっていることもな。」
「ええ。ですが、詳細は知られていないはずです。」
「ルシアン・ヴァルグリム。彼の母は、王国の貴族の娘でした。」
ライナルトの表情が変わる。
「……貴族?」
「ええ。だが、彼女は魔族に囚われ、魔王軍の将校の一人に弄ばれ、ルシアンを身ごもった。」
「……」
「彼女は生還しましたが、すでに身籠った子供をどうすることもできず、王国で忌むべき存在として蔑まれました。ルシアンは、王国の中で『魔族の血を引く者』として差別され、あらゆる場で疎まれながら育ったのです。」
ライナルトは冷ややかに笑った。
「なるほどな。ならば、あの半魔の奴は王国に忠誠を誓うしかない。魔族の血を持つが故に、人間の世界では居場所がない。ならば、王国のために生きるしかないだろう。」
カスパールは肩をすくめた。
「ええ、今のところは。しかし、逆もまた然りです。」
「何?」
「彼は人間の世界では居場所がない故に、少しずつ魔族側の思想に傾倒していく可能性がある。」
ライナルトは鼻を鳴らした。
「その時は、不要な駒を処理するだけだ。」
カスパールは狐面の下で微笑んだ。
「ええ、それは当然のこと。もしそうなれば、その時は私が直接手を下します。」
夜の帳が降りる中、燭台の炎が揺らめき、漆黒の影を壁に落とす。
重厚な机の向こうで、王国の軍部総司令官ライナルト・フォン・エーデルハイトは腕を組み、カスパール・ヴェルナーを見据えていた。
壮年の将軍の鋼のような眼差しには、一片の迷いもない。
「報告しろ、ヴェルナー。ルシアンの動きは?」
カスパールは淡々と答えた。
「ダガン・ボーンアローは死亡しました。殺したのはルシアンです。」
ライナルトの眉がわずかに動いた。
「……確認は取れたのか?」
「確実です。」カスパールは断言した。「それだけでなく、ゼルクスという魔族に罪を擦りつけ、魔王軍の中でさらに信用を得た。見事な手際です。」
ライナルトは鼻を鳴らし、満足げに頷いた。
「そうか。」
「ルシアンは魔王軍で確実に信用を得ています。魔王レグナスは、もはや彼を腹心として見ている。」
「しかし逆を言えば、時間の経過とともに、彼は魔族側に傾倒する可能性があるということです。」
「貴様の部下にそんな甘い感傷があるとでも?」
カスパールは微かな笑みを浮かべた。
「彼は、感情を排した道具として訓練されました。ですが、道具も使い続ければ傷つき、磨耗し、時に歪む。」
カスパールはしばし沈黙した後、静かに口を開いた。
「……ルシアンの出自について、ご存じですか?」
ライナルトは少し眉をひそめた。
「聞いている。半魔だろう? 魔族の血を引くことが奴の能力の一端になっていることもな。」
「ええ。ですが、詳細は知られていないはずです。」
「ルシアン・ヴァルグリム。彼の母は、王国の貴族の娘でした。」
ライナルトの表情が変わる。
「……貴族?」
「ええ。だが、彼女は魔族に囚われ、魔王軍の将校の一人に弄ばれ、ルシアンを身ごもった。」
「……」
「彼女は生還しましたが、すでに身籠った子供をどうすることもできず、王国で忌むべき存在として蔑まれました。ルシアンは、王国の中で『魔族の血を引く者』として差別され、あらゆる場で疎まれながら育ったのです。」
ライナルトは冷ややかに笑った。
「なるほどな。ならば、あの半魔の奴は王国に忠誠を誓うしかない。魔族の血を持つが故に、人間の世界では居場所がない。ならば、王国のために生きるしかないだろう。」
カスパールは肩をすくめた。
「ええ、今のところは。しかし、逆もまた然りです。」
「何?」
「彼は人間の世界では居場所がない故に、少しずつ魔族側の思想に傾倒していく可能性がある。」
ライナルトは鼻を鳴らした。
「その時は、不要な駒を処理するだけだ。」
カスパールは狐面の下で微笑んだ。
「ええ、それは当然のこと。もしそうなれば、その時は私が直接手を下します。」
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