魔王の腹心だけど、実は王国のスパイです。

シロタカズキ

文字の大きさ
94 / 158

黒糸に捕らわれし神魔

しおりを挟む
魔王城の内部――
かつては知恵と魔術の粋を凝らして造られた威厳の回廊も、いまや瘴気に満ちていた。崩れた柱、血痕の残る壁、そして……無数に這う、蜘蛛の糸。

ジーク・ヴァルトハイムは黙々と歩を進めていた。《神魔剣エクレシア・ノクス》の刃はまだ黒く光り、周囲の闇を警戒する魔族の残滓すら斬り裂いていた。

「……退屈だな。」

その瞬間――天井から何かが降った。

「……!」

ジークの動きが、初めて鈍った。

粘着糸。

天井に潜んでいた《スパイダー・トラッパー》の狙いは、完璧だった。
一瞬で足元に広がった糸が、ブーツの底から脛、そして胴体へと絡みつき、まるで意志を持つかのように巻き上げていく。

「……下等な蜘蛛風情が、俺を止められると?」

ジークの腕が閃く。《神魔断罪剣》を振り抜こうとするが、その瞬間、背後から“もう一本”の糸が――脳幹を狙って放たれる。

――バシュッ。

動きが止まった。
いや、止められた。

蜘蛛の毒が微量、神経を麻痺させていたのだ。
《聖魔融合形態》によって耐性は高まっているはず――だが、魔族の瘴気と神聖の力が相反するジークの身体には、わずかに「隙」があった。

《スパイダー・トラッパー》の多脚が、天井を這うようにして降りてくる。
毒牙を剥き、巨大な眼球が、まるで獲物をじっくり味わうようにジークを覗いた。

「……喰えるか? 神か魔かもわからん、おぞましき半端者よ……」

ジークの瞳がわずかに揺れる。
かつては“魔族を斬る剣”として、誇りを持っていたその存在が、いまや魔王軍の罠にかかっているという現実。

だが――

「俺は……誰のために剣を振るう?」

呟きと共に、瞳の虚無が揺らめいた。

「誰であれ、俺の邪魔をするなら――《断罪》だ」

――爆ぜる。

黒翼が解放され、束縛された糸を、瘴気と聖光が焼き切る。
《聖魔融合形態》の第二段階、《神威制限解除》がその肉体を暴走させる。

天井の《スパイダー・トラッパー》が糸を切られ、悲鳴を上げる暇もなく斬り落とされた。

一閃――

「《神魔断罪剣:漆黒終刃(アポカリプス・エンド)》」

すべての糸が焼かれ、蜘蛛は断末魔すら残さず虚空へと消えた。

ジークは肩を揺らしながら息を整える。
その瞳に、一瞬だけ“怒り”と“苛立ち”が浮かんだ。

「俺に罠を張るとは、馬鹿なやつめ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

処理中です...