魔王の腹心だけど、実は王国のスパイです。

シロタカズキ

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黒糸に捕らわれし神魔

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魔王城の内部――
かつては知恵と魔術の粋を凝らして造られた威厳の回廊も、いまや瘴気に満ちていた。崩れた柱、血痕の残る壁、そして……無数に這う、蜘蛛の糸。

ジーク・ヴァルトハイムは黙々と歩を進めていた。《神魔剣エクレシア・ノクス》の刃はまだ黒く光り、周囲の闇を警戒する魔族の残滓すら斬り裂いていた。

「……退屈だな。」

その瞬間――天井から何かが降った。

「……!」

ジークの動きが、初めて鈍った。

粘着糸。

天井に潜んでいた《スパイダー・トラッパー》の狙いは、完璧だった。
一瞬で足元に広がった糸が、ブーツの底から脛、そして胴体へと絡みつき、まるで意志を持つかのように巻き上げていく。

「……下等な蜘蛛風情が、俺を止められると?」

ジークの腕が閃く。《神魔断罪剣》を振り抜こうとするが、その瞬間、背後から“もう一本”の糸が――脳幹を狙って放たれる。

――バシュッ。

動きが止まった。
いや、止められた。

蜘蛛の毒が微量、神経を麻痺させていたのだ。
《聖魔融合形態》によって耐性は高まっているはず――だが、魔族の瘴気と神聖の力が相反するジークの身体には、わずかに「隙」があった。

《スパイダー・トラッパー》の多脚が、天井を這うようにして降りてくる。
毒牙を剥き、巨大な眼球が、まるで獲物をじっくり味わうようにジークを覗いた。

「……喰えるか? 神か魔かもわからん、おぞましき半端者よ……」

ジークの瞳がわずかに揺れる。
かつては“魔族を斬る剣”として、誇りを持っていたその存在が、いまや魔王軍の罠にかかっているという現実。

だが――

「俺は……誰のために剣を振るう?」

呟きと共に、瞳の虚無が揺らめいた。

「誰であれ、俺の邪魔をするなら――《断罪》だ」

――爆ぜる。

黒翼が解放され、束縛された糸を、瘴気と聖光が焼き切る。
《聖魔融合形態》の第二段階、《神威制限解除》がその肉体を暴走させる。

天井の《スパイダー・トラッパー》が糸を切られ、悲鳴を上げる暇もなく斬り落とされた。

一閃――

「《神魔断罪剣:漆黒終刃(アポカリプス・エンド)》」

すべての糸が焼かれ、蜘蛛は断末魔すら残さず虚空へと消えた。

ジークは肩を揺らしながら息を整える。
その瞳に、一瞬だけ“怒り”と“苛立ち”が浮かんだ。

「俺に罠を張るとは、馬鹿なやつめ」
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