魔王の腹心だけど、実は王国のスパイです。

シロタカズキ

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緑の媒介者(ミーディエーター)

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黒い根がうねる森。
闇の瘴気が空を覆い、戦場はまるで命の断末魔のように震えていた。

ルシアン、リリア、ブラッド。
それぞれが散り散りに、ドルアマグナ配下のダークトレントと交戦している中――

一人、戦わずに立ち尽くす少女がいた。

花風の姫、ローラ・セレスティア。

「やめて……もう、やめて……っ!」

彼女の目から、一滴の涙が零れる。
指先が震え、胸に抱いたブローチ――森の花びらを象ったそれが淡く光を放つ。

その瞬間だった。

辺り一面に、風が吹き抜けた。

緑の風。
花の匂いを帯びた優しい風。

そして――

「……咲いて」

ローラの祈りに応えるように、大地が脈動する。
彼女の周囲、瘴気が満ちたはずの空間に――花が咲いた。

それは毒に侵された森を打ち破るように、光の花弁を一斉に開く。
ローズウッド、精霊草、風舞う小花(スピラ・ウィンド)……失われたはずの聖森の種たち。

まるで“森そのもの”が彼女の存在を祝福するように。

「……何だ、これは」

戦闘の只中にいたルシアンが思わず振り返る。
そこには、花の中心に立つローラの姿。

純白のドレスが、風にたなびく。

そしてその頭上――小さな蝶が羽ばたき、
彼女の瞳が、碧ではなく“深緑の光”を帯びていた。

「精霊の加護……いや、これは……《森の女神》の意志か?」

そのときルシアンの中に、“本能的な畏れ”がよぎる。
魔族としての血が、「跪け」と命じていた。

《千根輪葬》を放っていたドルアマグナが、突如として動きを止める。
無数の根が、静かに地に戻る。

彼の“胸核”が淡く光る。

その光は、ローラの花と同じ波長を持っていた。

『……此の気配……遥か古(いにしえ)の、森の息吹……』
『汝は……《選ばれし花風》……《緑の媒介者(ミーディエーター)》……』

大地が震える。
ドルアマグナの巨体が――ゆっくりと膝を折った。

膝を突き、深く、頭を垂れた。

それは、千年の森を率いる黒樹が見せた最大の敬意。

『我が根は、女神の命に従う……汝こそは、新しき調停者……』

戦いが止まり、トレントたちもまた、武器を下ろした。

「……あの子、本物だね」

リリアが息を呑む。
その声は誰にも聞かれないほど、静かだった。

ブラッドも、「ローラぁ……神様みたい……」と呟きながら、液状の体をキラキラと揺らす。

「……調停者、だと?」

ルシアンの目がローラに向けられる。

自分は“架け橋になれ”と魔王に言われた。
だが今――彼女こそが、世界を繋ごうとしている。

「お前……何者なんだ、ローラ・セレスティア」

ローラが微笑む。

「私は――ただ、みんなが仲良くしてほしいって、そう願ってるだけ」
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