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ごーお
しおりを挟む「あ」
「危ない。……さあ、きちんと掴まって? ジアが転んでしまったら大変だ。やっぱり心配だから抱き上げてもいいかな?」
「み、みんなが見てるわ。……恥ずかしいからダメ。あ」
「……ではもっと側に。……はあ、早く結婚したい、ジア」
「ルー……」
ハイハイハーイ。クソ甘ーい。
ただ自分家の庭を散歩していて、ほんの少し足を取られた次姉と、ただ次姉に触りたいだけの腹黒狸が腰を引き寄せた「いちゃいちゃ」を見せられて、ソラはげんなりした。
なんでこうなってるかって?
見合いの日にツンした腹黒狸が、怒って帰ったジア姉様に後日デレた。
デレた腹黒狸のその落差に、ジア姉様キュンして実にあっさり墜ちた。
以上!
やさぐれてるって?
そりゃそうよ! 相手を交換して「そら、舐める、ぽ」は回避できると思っていたのに! 相手の交換を申し出る前にこうなっちゃったんだもん。
「ソラ、ルイスを見ていないで僕を見て?」
忠犬タロがにこやかに、けれども拗ねたようにソラに言った。
忠犬タロ公……。
ソラは、タロがペシェル家に日参してくるなんて、思ってもみなかった。
見合いの日から、具合が悪いと帰ったソラへのお見舞いに始まり、毎日花や贈り物が届き、時間が空けばタロは短時間でもペシェル家にやって来て、二人でお茶をすることが日常と化していた。
まとまった時間が空けば、観劇や公園に連れ出され、マーヤに「デートじゃん」とニヤニヤされていた。
今日も庭を散歩する次姉たちの姿を見ながら四阿で向かい合い、ソラとタロはお茶を飲んでいる最中というわけである。
「ソラ?」
きゅーん、とご主人様を見上げて耳が垂れている姿に見える。
本当に犬っぽいんだよなぁ。
しかし、タロのそんな姿を見ても、ソラは冷静だった。いくら何でもソラにだって分かることがあるのである。
この二人は別にペシェル家の姉妹に一目惚れしたとかいう奇跡が起こっているわけではなく、「王配」という役目から「魔石鉱脈の守護・管理・活用」という役目を王から仰せつかり、遂行しようとしているだけなんだと。
なんだかなぁ。
高位貴族の責任とか義務とか、見ててなんか可哀想になってくるんだよなぁ。
この二人は自分の意思と関係なく、ずっと王配候補として生きてきたのだろうな。
初恋とかどうしたのだろうか。
好きな人とか、この人が好きだと気付いても隠し通して蓋をして、気持ちを殺さねばならなかったのだろうなと思うと、憐れで。
十代の青い春だよ? 甘酸っぱくて塩っぱくて恥ずかしい思い出の無い十代だとしたら、子どもが子どもでいられない責任はまわりの大人にあると思う。
十九歳のタロ様が私を女性として扱ってくれるなんて、大学生が中学生をそうやって扱うのと同じだと思ったら、理由が無きゃやらんだろうなぁ、と引いてしまう。もしくはそういう趣味嗜好か。それはそれで引くわ。
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