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そのはち
しおりを挟む翌朝、熱が下がってスッキリ目が覚めました。
一つ伸びをして、空気の入れ換えに窓を開けようとカーテンを開けたら、寮の塀の外にでっかいボロ雑巾が落ちているのが見えました。
ボロ雑巾の名はパヴェル・バーベリ。
昨日、王立学園を卒業した兄様の友人で……雑巾ではなかったはずですが。
当たり前ですが、女子寮に許可のない男性は入れません。
「バーベリ先輩? どうしたんですか?」
「リェーナ……愛している」
窓を開けて声をかけると、ボロから告白されました。
はて。
あんなに欲しかった言葉なのに、全然トキメかない。
「リェーナ」
いやいや、そんな「きゅ~ん」って顔されても。耳も尾もないですからね。
あなたが態度できちんと示してくれたんですよ? 私はもう勘違いしません。
それにしたって、なんでそんなにボロボロなんですか?
はあ……?
バーベリ先輩が大きな声で話す「事情」とやらは、とんでもないものでした。
卒業パーティーでは王太子殿下とイエヴァ・コルスナ様との御成婚が発表されたとか。
「え、バーベリ先輩、フラれたの?」
「違う!! やめてくれ!!」
バーベリ先輩がコルスナ様の側にいたのは、コルスナ様の護衛兼虫除けとしてだったとか。
バーベリ先輩とコルスナ様は、昔から王太子殿下のお茶会仲間だけど、とても仲が悪いとか。
王太子はコルスナ様の三歳上なので、すれ違いで学園を卒業するため、絶対に恋愛関係にならないバーベリ先輩を護衛につけたとか。
バーベリ先輩がコルスナ様の護衛を引き受けたのは、私たちの領地の間の山賊討伐に国軍を投入してもらうための王太子からの条件だったとか。
コルスナ様がバーベリ先輩の嫌がる姿を見たいがために、恋人のフリに力が入ったとか。
「いつもキノコばっかり口に突っ込みやがって」
バーベリ先輩、昔キノコに当たってから、苦手だもんね。
いやいや、あんだけ見たことない優しい顔してたし。私に手紙もほとんどないし。
「好きな子に向ける顔と仕事で一緒にいるだけの奴に向ける顔が同じなわけない。手紙は……」
バーベリ先輩が私に出してくれた手紙は検閲され、私への気持ちが書いてあるものは全て王太子殿下に没収されていたという。
コルスナ様と恋人だと公言はしないが、否定もしてはならない約束をしたがためだったとか。
「ようやく、昨日の卒業パーティーでお役御免となるから、自分の婚約者はリェーナだと披露しようと、きちんとサマリン家へドレスと招待状を贈ったのに、まさか学園に入学していて、あのイエヴァと恋人だと勘違いしているなんて! 昨日母上から「自分は学園で恋人がいるのに、なんでリェーナちゃんと婚約出来てると思ってるの? 腐ればいいのに。サマリン家から、一応贈られたドレスは娘に送っておきましたが、ご子息はどういうおつもりで? って手紙を頂いた母の気持ちが分かりますか? 母は恥ずかしい!」と手紙が来て、とっくに成立してるはずの婚約も保留になってるなんて……! 昨日、リェーナは来ないし……!! あいつら寄って集って手加減ないし!!」
ヨレヨレでボロボロの正装姿のバーベリ先輩は、そう一気に捲し立て、地面に突っ伏してべしょべしょに泣き出しました。
まあ! バーベリ家のおば様ったら。
お父様からだと思ってたあのドレス、バーベリ先輩からだったの? 招待状はなかったけど、きっと、お父様たちが気を使ってくれたのね。恋人がいるバーベリ先輩からの招待状がなくても在学生はパーティーに参加できるもの。
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