Undergroundシリーズ

鴻上縞

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『Underground rabbiT』

終章

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「冬弥、久しぶり。元気してんの?つかまた背伸びた?生意気だな」
 手を振って近付いて来た青年が、少しむくれた顔を見せた。
「元気ですよ。雪さんは?」
「全然変わりないよ。あ、慎太郎呼ぶ?隆司さんはね、今日ダメだから」
 雪さんと山室さんがどうなったのかは分からない。けれど今でも山室さんの話しをする雪さんは、まるで子供みたいに嬉しそうで、思わずドキッとする位切ない表情をする。
 白井さんと雪さん。人を愛する事の出来ない、二人の違い。山室隆司と言う男の存在。俺にはとうとうその意味が分からなかった。だから、白井さんは俺の前から姿を消したのだろうか。
「冬弥?」
 訝し気に覗き込まれ、慌てて笑って見せた。
「来てくれますかね?」
「俺の呼び出し断るなんてあの猿には出来ねえよ」
 言うが早いか雪さんは電話をかけ始めた。ヤクザ相手に物怖じするどころか喧嘩腰な所は相変わらずだ。変わらない姿に思わず笑みが零れた。

 僅か半年前の事なのに、遠い昔の事のような気がする。結局俺の本当の父親が誰か、将生さんとの関係も何一つハッキリとは分からなかった。知る術がないし、俺自身知りたくもないから調べなかった。
 将生さんの居場所は、未だアンダーグラウンドラビットで働く雪さんすら知らないらしい。慎太郎さんも山室さんも聞いたけれど知らないの一点張り。皆隠しているのかもしれないが、この人達がそう簡単に口を割るとは思えない。だからもう、良い事にした。俺は長い長い夢を見ていた。そう思う事にしたんだ。

 電話を切った雪さんが思い出したように俺を見上げる。
「仕事してんの?」
「してますよ。学校も通い始めました」
 昼間の仕事が終わった後にこの春から定時制の高校に通う事にした。少し年のいった一年生だけど、同級生には七十四歳のお婆ちゃんもいたりするから、俺はまだマシな方だ。
「へえ、偉いじゃん。頑張れよ」
「うん」
「取り敢えず何食いたい?奢ってやるよ」
 得意気な顔が子供っぽくて、思わず笑ってしまった。
「回らない寿司かな」
 バカ野郎と言って軽くど突かれて、俺達は夜の街を肩を並べて歩き出す。
 ふとビルの隙間にチラリと東京タワーが姿を現した。濃いアンバーの照明に照らされた、優しい姿。思わず込み上げる胸の痛みに視界がブレる。滲んだ光が淡く世界を包み込み、まるで駆け抜けるように、思い出が通り過ぎて行く。

 白井将生さん。俺はきっとあなたの事を忘れません。誰もが口を揃えて人を愛せない人間だと言うけれど、俺にとってあなたと過ごした一年と言う短い日々は、かけがえのない物でした。愛される事を知らなかった俺が、嘘でも愛される喜びを知る事が出来たから。
 まだ暗い暗い裏の世界を生きていますか?あの優しい手で、誰かを抱いていますか?今は、幸せですか?東京タワーを見る度にあなたを思います。
 騙されてた癖にバカだと思う?それでも嘘の隙間にほんの少し、俺には感じた物があったんだ。騙され続ける事が幸せだとは思う。だけど嘘はいつか必ずバレるものだ。こうして幕を引いてくれたのは、あの人に僅かに残る良心の様な気がした。そして何より俺を初めて抱き締めてくれた人だから、信じたいと思った。だからこそ今も白井さんに会いたい。その願いは浮いては沈み、消える事は無い。

 秋口の冷たい風に滲んだ涙が冷やされて行く。空に輝く少ない星が、優しく瞬いた。生きていればいつかは会える。その希望を胸に、俺は、今日もこの世界を生きて行く──。




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