魔女と精霊とグリモワール 〜精霊石の旅〜

RYU

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ドラゴンと、沈黙の怒りの炎

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無事に一日が終わると、セイラはブリギッドと息抜きに外に出る事にした。

闇の魔法学と悪魔学は、頭がパンクしそうでセイラは悲鳴をあげそうになった。

周りの人を誘おうにも、周りは緊張からかピリピリしていて話し掛けづらかった。それに、純血の良家の魔導士の家系の人ばかりで近寄り難い空気がある。他の教室の知り合いを誘おうにも、教室全体が近寄り難い空気感があった。


その日は、近くの郊外で国が主催する国家魔道士の大会があるようで、汽車に乗って出かけた。

「はぁー、難しいけど、ちょっと楽しいような、でも、怖いような…これが一級魔導士の世界なんだね…」

セイラは、外の景色をぼんやり眺めながらため息を漏らした。

「私も、もし、事故ったり巻き添えに、なったり死んだりしたら…と、思うと、やっていけるか不安だわ…」

ブリギッドも、げっそりとした表情をして、空を眺めた。



汽車に乗り15分程して、二人は会場に着いた。

会場内はドーム状に広く、5000人以上の魔法使いらで賑わっていた。

そこには、見慣れない新種のドラゴンや、珍しい魔道具やや屋台まであり、セイラの好奇心を注いだ。

会場の奥の裏口の近くで、出場する選手らが続々と姿を現した。

出場選手らは、全員最難関と言われる上級国家魔導士の資格がある。



「これより、

王立魔法省主催、

第七十二回 六冠大魔導祭 を開催いたします!

第一回戦から第四回戦の戦いの中で、一番点数の高い選手が優勝とします!」



司会者の張り上げた声が、会場内に響き渡った。



「ねぇ、見て!シリウス・クロイスとアーロン・ベガよ!」



ブリギッドは、眼を輝かせていた。



シリウス・クロイスは、純血で名門の魔導士の家系の御曹司であり、親が魔法省官僚のトップの役職である。

彼は魔導の才覚があり、遥かに年長の魔道士らの能力を凌ぐとも言われている。月光で映し出したかのような、陰りのある端正な顔立ちも、彼の魅力の一つだ。



アーロン・ベガは、年齢不詳の魔道界の御曹司である。彼の家族や出生も不明であるが、甘いマスクと屈託のない笑顔は多くの女性を虜にする。

また、彼自身も魔導の才覚があり、闇の魔術に対する防衛で、危険指定されている悪魔を葬ったとして有名だ。



「シリウスと随分差が出来ちゃったな…」



セイラは、どことなく寂しくなった。



幼少期、彼と仲良く遊んでいた。、魔導の事も色々教えてくれた。危険な時、彼は守ってもくれた。

人間とのハーフである自分にも、分け隔てなく接してくれていた。



だが、時が経つに連れて彼は段々疎遠になった。





当時は、純血主義者による差別や偏見がまだ絶えなかった。親は、それを危惧してセイラを魔界へは行かせないようにした。



セイラは、それ以来、親と疎遠になった。



今では、ゼミで時々会ったとしてもまともに口をきいてはくれない。寧ろ、険しい表情を見せるようになった。



定期的に魔法界に遊びに行けばよかった……と、後悔している。



彼は、一級より難関だとされる上級魔導士の資格を持っている。



純血の家系の魔女と交際していたといった噂もある。彼女は美人で165センチと長身、彼同様上級魔導士の資格がある。彼女の親も魔法省の高官だ。シリウスの身長は、183センチある。

同じ純血で長身で上級国家魔導士の資格がある、美男美女同士お揃いだろう。



人間とのハーフで、身長160センチ、一級魔導士の資格で苦戦している自分と彼のような才覚ある魔導士とは釣り合わないだろう。彼の幸せを願っているが、何処と無く胸がチクチクする。



彼が遠くに行ってしまうようで、二度と戻らなくなるような感じがして、セイラはそれが寂しくなった。



司会者が声を張り上げた!



「では、1回戦を始めます!竜顎奪還戦です!!!尚、この大会は、五人の審査員の方が審査します。

予めくじ引きして決めたそれぞれのドラゴンと対峙して頂きます。ドラゴンは、ゴドールドラゴンと言う温和な種族の子供を選んでます。ドラゴンに危害を加えたと判断した場合、即、ペナルティが加算され、ペナルティが重いと試合中止とします。この回は、なるべく早くお宝の山からお宝を奪い取ったら、50点が加算されます!1番の選手、シリウス・クロイス選手!」



シリウスが、会場内に出て手を振った。



彼は、巨大なドラゴン間合いを取って、対峙した。



漆黒な光沢の鱗に覆われた、全長6メートルの巨大なドラゴンが、高さ10メートル程の瓦礫の山の上をグルグル飛び回っている。瓦礫の山には、エメラルドグリーンの宝石があった。



ドラゴンは、口から黄緑の炎を吐き出している。



シリウスは、一瞬瞠目するも、箒を携え歩み寄る。



「では、シリウスさん、良いですね?では、始め!!!」



司会者の合図と共に、シリウスは箒に跨ると稲妻のようなスピードでお宝の方まで突っ走った。



ドラゴンは、口から勢いよく朱色の炎を吐き出した。



シリウスは杖の先端から透明のシャボン玉のような巨大な膜が出現し、ドラゴンの炎を弾き出した。

ドラゴンの炎は、コバルトブルーの炎に包まれドラゴンを飲み込んだ。

ドラゴンは大きく暴れ回るも、弱体化し眠りについた。

シリウスは、その間に素早い身のこなしでお宝を奪い取った。

「シリウス選手!やりました!時間、5分間30秒、技術は……今、審査員の方々が吟味しています。」

会場内には、盛大な完成の渦が湧き上がった。


「流石だね……!」

「うん、凄いや!流石、シリウス、天才だな!」

彼はすっかり遠くの人のようで、セイラは何処と無く寂しい気持ちになった。彼から魔法のを教わったり、遊んだのが夢のようだ。

「技術点は、何と、60点!スピードと合わせ、総合150点です!高得点をマークしました!」


司会者の金切り声と共に、盛大な歓声が轟いた。


準備が終わると、司会者の元気な声が会場内に響き渡る。


「では、二番の方。アーロン・ベガさん、入って下さい!」


アーロンは、微笑みながら観客に手を振った。
辺りは、女達の黄色い声に包まれる。



「では、アーロンさん、準備は良いですね?では、始め!!!」



司会者の合図と共に、アーロンは箒に跨り宝の方まで突進した。



そのすぐ前方にはドラゴン。

アーロンは、杖の先端からナイトグリーンの光線を放ちドラゴンをグルグル包み込んだ。その光線は、蔦のような形状になりドラゴンを軽く拘束する。



ドラゴンは大きくバタバタもがこうとするも、

次の瞬間、動きがゆっくりになり眠りについた。



アーロンは瓦礫の山まで箒を飛ばすと、宝石を奪還した。



「アーロン選手、やりました!3分50秒!技術点は……なんと、100点!総合点は、175点です!!!」



辺りは、再び歓声が拡がった。



「流石、上級魔導士だね……」

セイラは、自分との力量の差に瞠目した。

他の四人の選手の戦いも、無事に終わった。


ドラゴンを眠り歌で眠らせる者や幻覚を見せる者、ドラゴン構いなく雷の勢いで素早くお宝を奪い取る者など、様々な上級魔法を、セイラとブリギッドは体感した。

しかも、どの選手もドラゴンを傷付けないように配慮しているようにも見えた。



シリウスとアーロンが、頭二つ分抜きん出て他の選手らを引き離していた。



15分程休憩が入り、

司会者が声を響かせた。



「では、第二回戦双極決闘を始めます!」



二人は、互いに向き合った。





アーロンは、笑みを浮かびながら大衆に手を振った。



この二人目当てに来る女性も多く、黄色い歓声が会場を渦巻いている。



「やっぱり、シリウスモテるんだね……」



シリウスは、すっかり向こう側の人間だ。彼とお近付きになりたい女性は、それなりに多い筈だ。



「でも、彼の意思が重要じゃない?セイラ、彼と思い出あるでしょ?」



ブリギッドが気を遣うも、

セイラは、喉の奥がつっかえたかのような感覚と胸に重苦しさを感じていた。

「違うよ、そういうのじゃなくて、彼はただの友達だよ!」

セイラは、無理して明るく振舞った。



「では、お二方、良いですね!これは、10分勝負です!では、始め!」



始まるや早々、アーロンが、飄々とした表情でシリウスに向かって何かを話したように見えた。



シリウスの眉間が再びピクリと動いた。



アーロンの杖の先端が、ナイトグリーン色に点滅した。



そして、大きな螺旋の渦を成して

シリウスを取り囲んだ。

激しい旋風をを撒き散らしながら、業火はシリウスに執拗にまとわりつく。



それは樹木の幹に姿を変えて、シリウスをがっちり押さえ付けた。



シリウスは、瞠目し、口を軽く開けた。



「おーーーー!これは凄い技です!アーロン選手、いきなり大技にでました。具現化魔法であります!」



司会者は、キンキン声を立てて声を轟かせた。



アーロンは、得意気に何やら語りかけているようだった。



シリウスは、無言で佇んでいるだけだ。



だが、そこには静かな怒りが彼の内面を渦巻いているようだった。





その時だった。



大地が大きく震えた感覚を、覚えた。



「ねぇ、これ、やっぱマズいんじゃ……」

ブリギッドが眉毛を寄せて、試合を凝視している。



「……うん」



シリウスは、滅多に怒らない。

どんなに、自分が馬鹿にされようが弄られようが、軽く眉を寄せるだけで感情を表には現さない。



だが、彼が二度だけ強く怒った時があった。



それは、大切な人達が侮辱された時だ。



その内の一人が、彼の友人が虐められた時だ。

彼の友人は、悪魔の血が流れていると馬鹿にされ除け者扱いだった。

彼の育ての神父も、人間だと馬鹿にされた。シリウスも、その神父からお世話になっていた。



シリウスは、怒って馬鹿にした同級生らにコップを投げつけた。



もう一人の時は、シリウスの憧れの大魔導士が侮辱された時だった。その大魔魔導士は大切な者の為に大罪を犯して、一時期牢獄に囚われの身だった。



彼は復帰すると、今までの罪滅ぼしに闇の魔導士と戦った。最後に闇の魔道士に敗れ悪魔の手により亡くなった。



『大罪を犯した罰が当たったんだ』

『囚人だったし、大して強くなかった』

『今頃、地獄行ってるよ』と、魔導学校の同級生らは他人事のように面白半分に小馬鹿にした。



温和で淡々としていたシリウスは、この時は人格か豹変し怒り狂って馬鹿にした者らを殴りつけ、物を叩き付けた。



彼は誰かの為に本気で怒れる、優しい人だ。ハーフである自分も守ってくれていた。



会場内に悲鳴が轟く。



シリウスの足元に、ひびが走る。

地面が軋む音が、やけに大きく響いた。



彼は一歩前へ出る。



その瞳は凪いでいる。

だが、その奥――深海の底で、何かが崩壊しかけていた。



シリウスの眼光が、鋭くなった。

彼は、静かにアーロンを睨みつけている。

アーロンは動きを止め、眼を細めて意味深に微笑んで何かを語ったいる。



シリウスは、静かだ。

普段、滅多に叫びや怒鳴りを表には出さない彼が、こんかいは、強い怒りの感情を内側に溜めているようだった。

それが、かえって恐ろしい。

彼の内面では、熱いマグマがブツブツ煮えたぎっているようだった。



シリウスを取り囲んだアーロンの幹は、バキバキと静かに音を立てた。



次の瞬間、彼の周囲の空間が大きく歪んでいった。

激しい旋風の渦がコバルトブルーの炎を撒き散らして、バチバチと激しい火花を上げていた。


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