かつて、魔女だった君へ~異形の怪人と殺戮の乙女~

RYU

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逢魔の呼び鈴

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    その青年が奇妙な魔物に遭遇したのは、おぼろげに満月が浮き出た夕暮れ時のことであった。



 その日は夕暮れ時のクリスマスイブで、町は赤、青、黄、緑など、煌びやかなライトや飾りが繁華街を彩っていた。明るく軽やかなイブの曲が鳴り響いていた。若者たちがケーキの箱やら酒が沢山入った袋を持ち、浮かれていた。そんな中、天野マコトはボサボサの癖の強い黒髪に、くたくたの革ジャンとジーンズ、微かに土がこびりついたスニーカーという、ラフな恰好をしていた。左手には、スーパーの食材の入った、ブカブカのビニール袋をぶら下げていた。長身で顏は端正だが、全体的に野暮ったい雰囲気を醸し出しており、全てが台無しになっている。

 ふと、後方で若い女の黄色い声が聞こえてきた。10メートル位後方で、若い男女のカップルが手をつなぎながらべったりくっついて歩いているのが見えた。女は久しぶりに会った男とのデートで、ワクワクしている。男は、子供をなだめる様な感じで苦笑いしていた。

「ねー、先輩、クリスマスの夢を見ると、何か素敵なことが、起こるみたいよー」

「だから、俺は、そーゆー占いだとか胡散臭いの信じないの。」

「でもね、この夢占いよく当たるんだよ。神聖なイベント、ワクワクの象徴だって。それを心から楽しむ夢は、心が満たされている証拠で、現実の世界でも幸運が起こるんだってよ。絶対、正夢だよ。」

「あほらしい・・・」

男は眉を八の字にして、彼女の頭をやさしく撫でた。



ー夢ね・・・-

 

 そういえば、たまに奇妙な夢を見ることがある。

炎に包まれた黒い革ジャンの長身の男-。顏はよく見えないが、どことなく自分と似ているのである。

 本当に、最近ろくな夢を見た覚えがない。何か、黒い服のとんがり帽子の少女と会話をする夢ー、その少女に追いかけられる夢ー、時折聞こえる自分の名前を呼ぶ甘ったるい声ー、そんな奇妙な夢が正夢であって欲しくないのだがー。



「キャー、なにこれー。」 

    女の甲高い声に再び振り返ると、急に寒気を覚えた。女の影が奇妙に変形し、そこからスライム状の黒い塊がぶくぶく泡を立てているのが見えた。そのスライムの様なモノは、次第に人の形になっていった。そして、スライムはとんがり帽子の黒服の女に姿を形成した。黒服の女は肌が不気味なほど色白く、右手には杖を携えていた。

「な・・・、な、何だよお前・・・、」

    男はその奇妙な光景を見て、尻餅をついていた。彼女の方も男の腕を組む力を強め、わなわな震えている。マコトの身体は益々寒気が強くなり、鉛のような重苦しさと吐き気を覚えた。

 すると、黒服の女は少女の口の中に吸い込まれるように自ら侵入してきた。彼女に成り代わった化け物は近くの男をじっと見つめると、深く息を吸った。男は掃除機に吸い取られるようにあっという間に少女の口の中に飲み込まれた。
    地面に目を移すと、そこには魔女のような姿をした影が人を吸い取る様が見えた。
    そして、男は骨だけの姿になると、体勢を崩し、倒れた。魔物は、光のない冷徹な眼差しで悠然と辺りを眺めている。そこで、低く口を開いた。

「何だ。ここは楽園だと聞いて、何か面白いものかと聞いたが、大した事ないんだな。」

 ドライアイスのような、冷たく乾いたハスキーボイスである。さっきまでの若い女のの高い声とはがらりと変わった。マコトは身震いした。

「化け物だ!」

 群衆は蟻のように散り散りになった。少女の姿の魔物は深呼吸した。を吸い尽くした。群衆はたちまち髑髏の姿になり、ドミノ倒しのように倒れた。



ーコイツは死神なのだろうか?ー



 まるでハロウィンのようなホラーの光景を現実に見ているのである。青年は目をクルクル泳がせ、その奇異な様に頭が追いつけないでいた。



―まずい、まずい、まずい、まずいぞ!・・・-



 しかし、魔物は青年に一瞥するが、物でも見るかのような感じであり、気だるげにそのまますり抜けて行ってしまったのだった。








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