魔人狩りのヴァルキリー

RYU

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魔女の庭と賢者の石 ①

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緑一色の侘しい畦道の中を、サトコはひたすら歩き回る。
所々に田畑があり、時折案山子が立てられてある。

辺りは、蝉や蛙の鳴き声が煩く響き渡る。ここ、一時間近く、ぐるぐる彷徨い続けている。

今日は、小学校時代の先生に会う予定だ。先生は、サトコの恩師であり、中学時代不登校になった時も、気にかけてくれた。

バス停を降りて、10分程で目的地に着くはずなのだがら、未だに目印に辿り着けないでいる。

バスを降りてから、自分一人しかいなく強い不安感が襲ってくる。

約束の時間まで、あと10分程だ。

もしかしたら、間に合わないかもしれないと、サトコは大仰に溜息を漏らした。

ーと、田畑に一体の案山子があるのが見えた。

それは、今まで見てきた物とは異なり、何処か生きているかのような奇妙な感覚を覚えた。

つぶらな大きな瞳はキラキラ輝いており、長い黒髪は艶やかであり、まるで本物のようだ。

大きな麦わら帽子を被っており、だぶだぶのポロシャツとボトムスを身に付けていた。

口元は、何処と無く微笑んでいるような感じがした。

奇妙に思い、近付いて見るが、その案山子の身体は、木で出来ており、サトコは眼を疑った。

如何にも精巧に造られており、この辺りにベテランの案山子職人が居るのだろうか?と、サトコは思った。

しばらく畦道を歩き回ると、さっきの案山子と遭遇した。

「え…また、案山子…、さっき、あの場所にあった筈じゃ…」
サトコは、困惑した。

辺りの景色は全く異なるのに、何故、さっきの案山子がここにあるのだろうー?

首を傾げながらも、目的地を目指す。

「ええと…先生の家は…」

サトコは、スマートフォンのナビを確認しようとした。だが、スマートフォンは圏外になっており、サトコは感を頼りに畦道を歩き続けた。

ーと、眼前には目印の赤い屋根の家があり、サトコはホッと胸を撫で下ろした。

玄関前に行き、インターフォンを押す。

丸渕眼鏡の初老で細身な女性が、姿を現した。

「あら、サトコちゃん、久しぶりね。」
「山口先生、ご無沙汰しております。こんにちは。」
「ごめんなさいね…大変だったでしょう。さあ、中へ入って。」
山口先生は、サトコを中へと手招いた。
「すみません、ちょっとだけ、道に迷ってしまって…」
「いいのよ。この辺りは何もないから、大体の人は、迷うのよ。」
山口先生は、軽く困ったような顔をしスリッパを出すと、サトコを和室の居間へと案内した。
「そうなんですね…」
「ごめんなさいね。孫が熱を出して、ずっと付きっきりでね…今、あの子、二階で寝てるのよ。」
「いえ、それは、仕方のないことですをよ。」
「今、麦茶とお菓子用意するから、サトコちゃんは、ここでゆっくり寛いで頂戴ね。」
山口先生は、そう言うと、台所の方へと向かい茶菓子の用意をした。

室内には、懐かしいレトロな小物や洋人形や和人形が飾られており、サトコの心は癒された。

網戸の方を見ると、辺り一帯は山で囲まれており、喉かな田園風景が視界を覆った。

蝉の苦しそうに鳴く声が、煩く響き渡る。蛙のゲロゲロ声が、辺りに轟く。



サトコは、ふと、アオイの事を思い出す。

黒須は、彼女のことを、
『控え目ながらもとても芯の強い人』『凛としていて強い意志を持っていた』『自分のことはあまり語らす、ミステリアスで、神秘的な力を秘めている』『弱き者には優しく、非常に正義感の強い人』だと、評していた。

「アオイさんって、どんな人なんだろうー?」

サトコは、もっと彼女と話をしてみたいと感じた。

「サトコちゃん、お待たせ。」
山口先生が、麦茶と羊羹を運んできた。
「あ、ありがとうございます…」
サトコは、ぺこりとお辞儀をして麦茶を啜った。
「あれから、お変わりないの?ずっと、心配していたのよ?」 
「ええ。大丈夫です。相変わらず、施設のみんなと上手くやれてます。」
「それは、良かった。サトコちゃん、あそこの子供達から慕われてるみたいね?」
「いえ、自分が苦しんできた分、同じような境遇の子には、なるべく優しくしてあげたいんです。幸せになって欲しいから。」
「サトコちゃんらしいわね。さあ、お食べ。」
山口先生は、朗らかな笑みを見せた。サトコは、苦しんでいる時、先生に助けられてきた。
だから、自分も、先生のように人の苦しみに寄り添える、聖母のような存在になりたいと、思ったのだ。
サトコは顔を赤らめると、羊羹を一切れ摘んだ。

黒須は、サトコとアオイはそっくりだと言っていたが、何か、関連性はあるのだろうかー?

ーと、その時だった。

急に、ピクリと何か細い氷柱のような突き刺さるような奇妙な違和感を覚えた。

ハッとし、外の方を見ると、庭の向こう側に、例の案山子が立っているのが見えた。
しかも、それを取り囲むかのように、複数体の案山子がこちらの方を向いて立っているのだった。

「わっ!」
サトコは瞠目し、食べていた羊羹を詰まらせた。
「サトコちゃん…?」
山口先生は、瞳孔を揺らしながら、サトコの顔色を伺った。
「先生、あれ!」
サトコは、庭の向こう側をしきりに指さした。
「何かしら…あれ、さっきまで無かったけど…」
山口先生は、奇妙がり首を傾げた。

ーと、サトコが、山口先生から再び向こう側へと視線を戻したその時だった。

案山子達が、若干、近付いているような、そんな違和感を覚えた。

「先生、何か、近付いてないですか…?」
サトコは、眉間に皺を寄せてその奇妙な光景を眺めていた。
「そうね…でも、気の所為かもしれないわ。お互い、色々疲れていたみたいだからね。大丈夫だよ。この家は守られてるからね。」
山口先生は、震えた声で意味深な発言をすると、顔を背け麦茶を啜った。
「あ、そうだわ!サトコちゃんが、好きそうな本があるんだったわ!」 
山口先生は、パンと手を叩き奥の部屋の本棚から数冊の本を探した。

サトコは、彼女から恐る恐る眼を離し再び、外の景色へと視線を移した。

「えっ!?」

サトコは、驚愕し尻もちをついた。案山子の1団が、更に距離を縮めてきた。
今度は、はっきり顔が見える。

「サトコちゃん!」
ビクッと振り返ると、そこには血相を変えて佇む山口先生の姿があった。

「駄目よ。見ちゃ…」
彼女は、眉間に皺を寄せると部屋の窓を勢い良く全て閉めた。
「先生、どうかしたんですか?何か、知ってるんですか…?」
サトコは、不安になりながら山口先生の方を向いた。


それは、いつもの柔和で朗らかな彼女ではなく、まるで180度変わった別人格のような彼女の姿がそこにあったのだ。
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