魔人狩りのヴァルキリー

RYU

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天国と地獄 ②

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その女子高生には、間違いなく霊が取り憑いていた。

歪んだ般若のような形相、青白い肌、不規則に揺れ動く瞳孔。

これは明らかに、今居る少年と状態が同じだ。

「もしかして…あの霊…」
少年は、急に不安な顔をした。

女子高生は、その場でパタリと倒れた。

二人は、急いで彼女の元へと駆け寄った。
彼女は、気絶していた。サトコは、急いで聖水を顔面に掛けた。

彼女の顔色は元通りに戻り、サトコは安堵した。

「この聖水は…?」
「あ、これ…?これは、知り合いから貰ったお守りなの。霊障にあった直後に掛けると、気分が元通りになるんだ。君にも、あげるね。」
サトコは、少年に聖水の入った小瓶を手渡した。
「ありがとう…」



向かい側の商店街の路地の方から、買い物袋を携えた藤巻が姿を表した。

彼女は、遠くの方で手を振っている。
彼女の口の動きから、藤巻は
『 サトコちゃん、こんな所で何やってるの?』と、言っているようだった。

「あ、藤巻さん…?!」
「え、?!あ…」
少年は、急に不安な表情になった。

「…いや…」
少年は、酷く怯えている。
「彼女は、私の居る施設の人だよ。」
だが、少年は激しく怯えている。
「どうしたの?」
「僕、帰る!」
少年は、その場をダッシュで立ち去った。

藤巻が、横断歩道を渡ってやって来て、女子高生の身を案じた。
「彼女大丈夫…?」
「うん、ちょっと、気絶したみたい。」
「病院呼ぼうか…?」
「うん、そうした方が良いのかな…?」
サトコは迷った。霊障にあい倒れた事についてどう説明すればいいのだろうかー?

女子高生が、うっすら目を開けキョロキョロ辺りを見渡した。
意識が戻ったようだ。
「あれ…私は…」
「大丈夫ですか?気絶してましたよ。今まで、そういうこと、ありませんでしたか…?」
「え…?いえ、そんな事は…」
女子高生は、訝しがり首を傾げた。
どうやら、彼女が霊障に合うのはこれが初めてのようだ。
「あ、ありがとうございます。これから約束があるんで、では。」
彼女はぺこりとお辞儀をし、首を大きく傾げながらこの場を去った。

「サトコちゃん、帰りましょうか?」
「藤巻さん、ごめんなさい!急用を思い付いたから、先に帰ってて…」

サトコは、研ぎ澄まされた霊感を頼りに少年の後を追う事にした。

あの少年から感じられる、硫黄のような線香のような奇妙な匂いは、明らかに自分が対峙してきた霊のものと類似していた。

奇妙な匂いを頼りに歩いていくと、住宅街の中まで入って行った。

50メートル先の豪勢な二階建ての家の前に、少年の姿があった。

家の扉が開き、母親が顔を赤くして出迎えていたのが見えた。
少年が、家の前で母親が腕組みしながら彼を睨みつけている。

サトコは、恐る恐るその家まで近付き傍にある電柱の影に隠れた。

「陽太、あんた、何してたのよ…?机を投げ飛ばして、取っ組み合いになったとか…」
「母さん、何、言ってるの?」
少年は、困惑し眉を八の字に潜めた。
「私、被害者の親にペコペコ頭を下げたんだからね。本当に、恥をかかせて…」
母親は、顔を赤くし捲し立てている。
「僕は、何もしてない!ホントだよ。寧ろ、僕は被害者の方だよ。アイツらが、友達を…」
陽太は、必死になって弁明する。
「言い訳は、許しません!さあ、家の中に入って…」
母親は、語尾を強め少年の耳を強く引っ張った。
「痛い…!」
少年は、悲鳴を上げた。


すると、少年の顔が、急に青白くなり瞳孔が小刻みに揺れ動いた。上下左右、斜めにと、不規則に揺れている。

ーと、少年の口調が急に変わった。

あの、噴水広場の時と同じ現象だ。


「僕の事を、虐めるの?」
少年の眉と目は、急に吊り上がり左右非対称な笑みを浮かべた。

「陽太……どうしたの…?」
母親は、急に不安な顔になった。


「虐めは、未経験な者にとって、想像のつかないものなんだろうね。」


「何言ってるの…?陽太…」

「本当の地獄は、味わった者にしか分からない。だから、僕が制裁を与えてやったのさ。奴らに、地獄というものを教えてやったんだよ。」

「」

「地獄を見れば、いいんだ。」

少年の目が、瞳孔が大きく収縮する。


ーどうしよう…やっぱり、黒須に…

だが、サトコは手をキツく掴まれた。
振り向くと、そこに藤巻の姿があった。
「サトコちゃん、帰るわよ。」
「藤巻さん…ついてきたんですか?」

「私は、あなたの保護者でもあるのよ。サトコちゃんの身の安全に気を配るのも、私の役目でしょう?」

彼女の様子が、何処かおかしい。

「でも、この男の子の様子がおかしくて…」
サトコは、カーテン越しの

「あら、あの少年…?サトコちゃんのお友達なの?」
藤巻が、サトコの顔を覗き込む。
「…藤巻さん、あの…」
彼女の笑みに、底知れぬ違和感のようなものを感じた。
「今日、知り合ったばかりでしょう?だって、サトコちゃんは正直なんだもの。」
彼女の満面な笑みは、普段見るような自然なものとは、全く異なっていた。笑顔の内側に、奇妙な魔物のようなものが棲みついている、そんな感じだった。




線香の匂いが、ツンと鼻を刺激した。

施設や地域で起こる、不可解な霊現象。


施設で霊現象が起きた時、何故か、藤巻さんの姿だけ見た記憶がない。

今は、それ所ではない。

「すみません、この少年は霊に取り憑かれてるんです。今すぐ除霊しないと…」
「あら、面白そうね…ちょっと、見てみましょうよ。」
藤巻は、愉快そうな笑みを見せた。
彼女の手が、がっしりサトコの右手をキツく掴み続けており、サトコは身動き取れない。

「ち、ちょっと、藤巻さん…?!」
サトコは、瞠目した。
それは、まるで鉄の塊に固定されているかのような強烈な力だった。
いつも温和で朗らかな彼女のイメージが、ガラリと変わる。

ーと、サトコの右手は、青紫色に変色していた。

左手を何とか動かし、右ポケットまで伸ばそうとした。

「サトコちゃん、これ何?」
藤巻の方を見ると、彼女はサトコのサジタリウスを手に取り、恍惚とした表情でそれを見ていた。

この拳銃は、一般の人間には見えない筈だ…

何で、彼女にそれが見えるのだろうかー?

「藤巻さん、あなた、何者なんですか…?」
「私…だから、言ったでょう?あなたの保護者よ。」


サトコは、ハッとし少年の方を向いた。

少年は、母親の首根っこを掴み高々と持ち上げている。

「お前にも、本当の地獄を見せてやるよ。」
少年は、いつにも増しておぞましい表情でゲラゲラ嘲笑っていた。
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