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4、メイル兄様と私。

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私の部屋に迎えに来てくれた執事長メリールと共にメイル兄様が待つ執務室へと向かう。

途中、メイル兄様の従者の1人がたっている。

確か名前は…トゥイ。
茶髪に黒目の可愛らしいけどちょっと不思議な人です。

メリールの案内はここまで。
ここからはトゥイが案内してくれる。

メイル兄様の執務室に向かう廊下は決められた人しか通れません。詳しい理由は分からないけど、加護の力が関係しているらしいです。妹である私ですら普段から許可を得ないと通れません。

執務室の前まで来てトゥイがノックすると、中からメイル兄様のもう1人の従者が出てくる。

銀髪に黒目の女性に見間違うような綺麗な男性。
彼の名前はラン。常にメイル兄様の近くにいるお兄様の片腕的存在です。

「ティナ様お待ちしておりました。陛下がお待ちです。」

ランが私を部屋に招き入れる。

部屋に入ると書類に目を通してるメイル兄様がいる。

「陛下。ティナ様がいらっしゃいました。」
「ああ。」

ランの言葉にメイル兄様は書類から顔を上げて私を見ると、軽く息を吐きながら私に近づいてくる。

「ティナ。夜会会場でランベスト公爵子息から婚約破棄を突き付けられたとの事だが…詳しく聞こうか。」


メイル兄様はそう言いながら私をソファーへ座らせてくれる。

そしてメイル兄様はランとトゥイをチラッと見てから自身も向かいのソファーに座った。

メイル兄様が座ったのと同時にトゥイは部屋を出ていきランは私達にお茶を出してくれる。

「で、どうして婚約破棄なのだ?何があった?」
「えーと…なんかマイク様は弟の婚約者と恋仲になったらしく…」

「…弟の婚約者?…恋仲?」

メイル兄様は意味がわからないとでも言うように眉間に皺を寄せる。

「あっ。マイク様の弟のローライ様と婚約者は先日破談になっているそうです。」

私がそう付け加えるとメイル兄様の眉間の皺はより濃くなる。


「それで、マイク様はもう私の事を婚約者として見る事が出来ないと…私はうるさいし、もう子守はうんざりだと言われました。」

メイル兄様から怖いオーラが出ている。
部屋の気温が2、3度下がる。

「ほう…言われた事はそれだけか?」
メイル兄様は顎に手を当てて私を見透かす様に言う。

「他に?」

頭の中にゲイル兄様が言った「兄上を怒らせるなよ」の言葉が浮かぶ。

私は躊躇うが、隠しておいたところでメイル兄様にはいつか知られるだろうと腹をくくる。

「私は皇族という立場を利用して他の御令嬢達にかなり酷い対応をしているとか…私は無意識に高飛車とか…人を見下して自分の過ちに対して悪いとすら思わないのかとか…」

私がボソボソと告げると部屋の中が急にぐんっと圧が掛かる。


メイル兄様の威厳の力だ。

「で?」

…で?まだ話せと?
もうあまり言いたくないのですが…でもメイル兄様のなんでも見透かすような視線に隠し事は出来ないと直感で感じる。

「…皇族とはいえ、いずれ公爵家に降嫁しマイク様のお陰で公爵夫人になるのだかはマイク様に対してもっと敬うべきだ…と」


私がそう話すと同時にメイル兄様の威厳の力が大きくなる。
グンっと制圧される力に耐えられなくて冷や汗が出てくる。

話には聞いていましたが、私自身メイル兄様のこの力を経験するのが初めてで戸惑いを隠せない。


「陛下…お怒りはごもっともですが、覇気の力を抑えて下さい。ティナ様がお可哀想です。」

そんな私を見てランがしれっとメイル兄様に言う。
それと同時にメイル兄様からの圧が緩和されていく。

私はホッと息を吐く。

ランはメイル兄様の圧に対して全く動じない。
なんで平気なの?


「すまないティナ。あまりにも腹が立って。」
メイル兄様は髪をかきあげて申し訳なさそうな顔を私に向ける。

「いえ。私の為に不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。」

私が頭を下げるとメイル兄様はその頭を優しく撫でる。

「お前はランベスト公爵子息を慕っていたのか?」

慕っていた?
慕っていたかどうかと聞かれると別に慕ってはいなかった。

婚約者だから愛しく思わなきゃ…
仲良くやっていかなきゃ…
とは思ってはいたけど、ずっと一緒にいたいとか会えない時間が寂しいとか感じたりはしなかった。


「いえ…別に。そこまでは…」

「じゃあ問題ない。婚約破棄をそのまま受け入れよう。ただ、こちらもそんな馬鹿げた婚約破棄を黙って受け入れられない。ランベスト公爵家にはそれなりの罰を受けてもらおう。」

罰…?

「マイク様の…ランベスト公爵の家を壊したり、首を跳ねたりするのですか?」

私が真面目に言うと後ろから笑い声がする。

振り向くと先程部屋を出て行ったトゥイがお腹を抱えて笑っていた。

「ティナ様の陛下に対するイメージってそんななんですね。」
「トゥイ。」

メイル兄様は低い声でトゥイの名前を呼ぶとトゥイは笑うのを辞めてメイル兄様に近づいていく。

「ティナ。私はそんな物理的な罰を与えたりはしない。罰と言っても政治的観点でだ。」

メイル兄様は困ったような顔でそれだけ言うとトゥイに目線を移す。

トゥイは頷いてから私の方を見る。

「夜会会場は荒れてたよ。怒り狂ったランベスト公爵がマイク氏とゴーイン伯爵令嬢を夜会会場から外に追い出して『もうこの家には帰ってくるな』と勘当宣言。その後、夜会会場に戻ってマイク氏を廃嫡して弟のローライ様を次期公爵に任命するって発表してた。で、今日の夜会は早々にお開き。もうじきランベスト公爵がこっちにくるよ。」

それだけ言ってトゥイは私に微笑む。

この短時間でトゥイは私がいなくなった後の夜会会場の情報を収集してきたって事?

ほんの10分位よ?私はただただ驚く。

「ランベスト公爵が来ても通すな。追い返せ。」
「御意」

メイル兄様がそう言うとトゥイはまたどこかに行く。

「トゥイは有能な密偵なのですね。」
「まぁな。」
私がボソリと呟くとメイル兄様は優しく笑う。

そして私の頭にポンと手を置くと私の顔を覗き込んで優しい顔を向ける。

「お前に対してそんな事を言う奴と一緒になってもお前が後々苦労するだけだ。こうなって良かったのかもしれないな。今後の事は私に任せろ。今日はもう休め。」

そう言って微笑むとメイル兄様は私から離れていく。

うん。やっぱりメイル兄様は優しくてかっこいい。


私が一人で納得しているとクスクスと笑いながらランが近づいてきて、私をソファーから立たせてくれる。

「お部屋までお送りします。」


そのままメイル兄様の執務室を出てランは私を部屋まで送ってくれる。

ランにお礼を言って部屋に入ろうとした時、ランが急に私の右手を掴むと手首にひんやりとしたテープを貼った。


何事かと思い右手に目をやると明らかに赤く腫れていた。

あっ…マイク様に掴まれた手…
そういえばずっとズキズキしていた。


「陛下に気づかれなくて良かったです。かなり腫れてきていますね…応急処置ですので痛むようなら医務官に見せてください。」

そう言ってランは包帯を巻いて私に微笑んでから頭を下げてそのまま帰って行った。


高スペック過ぎる。


メイル兄様に女気がないのはやっぱりこの2人のどちらかが?

想像してしまう。
ランとトゥイ…どちらがメイル兄様の本命なのかしら?




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