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第一章 アクセルオンライン
6話 基本職選び
しおりを挟む「さて、チュートリアルも全て終わりました。最後に基本職とスタートする国を選んで、私の案内は終わりとなります。まずは基本職から選んでいただきます。」
アリエルがそういうと、先ほどまでネームを登録した時の用紙が、再び目の前に飛んでくる。
「そちらの用紙に選択できる職業が表示されておりますので、お好きな職業を選択なされてください。」
アリエルの説明が終わると、用紙の中にいくつかの文字が浮かび上がってきた。
「剣士、狩人、騎士、盗賊など攻撃を主体とする職業から、付与魔術師、召喚師、調教師、鍛治職人などのサポート職まで色々あります。集めた仲間と共に戦うか、後方支援にまわるのか、選択肢はさまざまです。」
「自分にも職業をつけられるのは新鮮だな…えっと…どれも甲乙つけがたいなぁ…」
そう言って悩むイノチの横から、エレナが顔をねじ込んで用紙を覗き込んでくる。
「どれよ!あたしにも見せなさい!」
「近いし…邪魔だなお前は!」
「何よ!!」
「そこまでですよ!お二人とも!!」
アリエルのとっさの仲裁に、エレナはガルルッと唸り声を上げながら、渋々離れていき、あるところで腕を組んで頬を膨らます。
そんなエレナを一瞥して、イノチは用紙に目を向け直す。
(ったく…体感型フルダイブVRってロマンがつまってるけど、キャラの性格が前に出過ぎてるよな…まるで、本物の人間みたいじゃん…とまぁそれは置いといて…職業職業!)
そんなことを考えながら、用紙に目を通しているとひとつの単語が目についた。
『エンジニア』
選択肢の一番下にそう書かれている。
(エンジニアか…こういったRPGでは、珍しい職業だな。でも、俺にお似合いではあるか…)
イノチの仕事は、実は「システムエンジニア」である。そして、意外にもその技術は会社で高く評価されているのだ。
そのため、ガチャ中毒も会社側が目を瞑ってくれているのだが…イノチ自身はそのことを知らない。
「よし、決めました!これにします!」
そういうと、イノチは悩むことなく用紙の中から『エンジニア』を選択する。用紙にタッチするとネームの下の職業欄に、『エンジニア』という文字が書き綴られた。
「では、次にスタートする国を選んでください。現在、選択可能な国が用紙に書かれていますので。」
アリエルの言葉に従って、再び用紙に目を向けると、文字が浮かび上がってくる。
『リシア帝国、島国ジパン、ジプト法国、北の国ノルデン』
「4つだけですか?」
「はい、現在は4つだけです。」
「国を選択して、何か変わることはあるんですか?」
イノチの問いかけにアリエルは、相変わらずめんどくさい奴だというように、静かにため息を吐き回答する。
「特になにも…強いて言うならば、各国独自の法や生活様式など違いがあります。そのくらいでしょうか。」
(なんとなくだけど、リシアはギリシア、ジパンは日本、ジプトはエジプト、ノルデンは北欧のことっぽい…それなら!)
「…なるほど、わかりました。じゃあジパンにします。」
そう言って『島国ジパン』をタッチすると、用紙の『始まりの地』という欄に『島国ジパン』と書き込まれた。
「これで全てのご案内は終わりました。最後にひとつだけ…この世界での時間は、あなた方の本来の世界とは違います。だいたいですが、ここでの3ヶ月があなた方の世界での1日といったところですね。」
「おぉ…それならけっこう長期的に楽しめるな!」
「ふん!」
喜ぶイノチの横で、エレナはまだ気に食わなさそうに腕を組んでいる。
「では、あなた方を最初の地へ転送いたします。ご武運を祈ります。」
アリエルがそう言うと、イノチとエレナの足元に魔法陣が浮かび上がる。
「うほっ!やっぱいいね!こういうの!」
イノチが喜ぶのも束の間、それが光り輝くと同時に、イノチとエレナの体は光の粒となり足元からゆっくりと姿を消していく。
「アリエルさん!ありがとうございました!!」
顔が消える寸前に、イノチが笑顔でそうアリエルに告げると、そのまま跡形もなく消えてしまった。
あとには光の残滓だけが残っている。
「…ふう、彼は今までで一番疲れたかもしれません…」
アリエルはそう呟くと、手に持っていた書類を整えながら、フワフワと背中の羽でとんでいくのであった。
◆
転送されたイノチたちは、とある森の中に姿を現した。
先ほどとは逆に、光の粒子がイノチとエレナの、それぞれの体を頭から構成し直していく。
「…ここは、森の中か。」
転送が終了すると、イノチはキョロキョロと辺りを見回した。
薄暗い森の中。
上を見上げても、空はほとんど見えないほどに周りの木々の背は高い。右を見ても左を見ても、草木しか見えないのである。
「最初の転送地点がこれかよ…」
ぶつくさと文句を言うイノチに対して、エレナはまだ怒っているようだった。一切、イノチには話しかけずに、ずっと腕を組んだままなのだ。
そんなエレナに痺れを切らしてか、イノチから声をかける。
「…まだ怒ってんの?」
「……ふん。」
「…えっと何に怒ってるかわかんないんだけど、とりあえず…ごめん。」
「…っ!?」
イノチは謝り方の選択肢を誤ったようだ。
余計にエレナの機嫌を損ねてしまったようで、イノチはどうして良いかわからなくなってしまう。
(…女の子ってめんどくさいなぁ…しかし、女の子と付き合ったことないから、こんな時どんな言葉をかけたら良いかわかんないし…)
今までRPG系のゲームしかしてこなかったイノチにとって、こういった状況は未知の領域なのであった。
(…はぁ、恋愛系のゲーム…一回くらいしとけばよかったな。)
そんなことを考えつつ、もう一度エレナに声をかけようとした瞬間、イノチの動きが停止した。
そして、エレナも近づいてきたイノチを横目で一瞥すると、彼が不自然に止まっていることに気づいた。
「…?なによ…どうしたわけ?」
「…し…」
訳がわからず、疑問を投げかけるエレナに対して、イノチは口をパクパクさせている。
エレナはそんなイノチに苛立ち始める。
「はぁ!?何言ってるの?聞こえないわよ!!」
「……しろ…」
「じれったいわね!なんだっつうのよ!」
「うしろ!うしろだって!!」
「はぁ?うしろがなんだって言うのよ…」
自分の後ろを指差して叫び出したイノチにあきれながらも、エレナはゆっくりと振り返る。
エレナ…驚愕。
エレナの身長など優に超えるであろう熊のようなモンスターが、小さく唸り声をあげて、二人を見下ろしていた。
「…なっ…?!いつのまに…」
エレナが構えようとした途端、そのモンスターは周りの木々を揺さぶるほどの咆哮を上げた。
(こいつ…やばいっ!!!)
エレナはその瞬間、瞬時の判断でイノチを担いで走り出した。
モンスターは逃げていくエレナたちを見ると、グルルっと唸り声をあげてその後を追いかけ始める。
「おっ…おい!あいつ…追っかけてきてるぞ!!」
「わかってるわよ!!あたしたちのこと…食べる気なんでしょ!!舌を噛むから黙ってなさい!!」
お尻を前にして、エレナの肩に担がれたイノチは後ろから追いかけてくるモンスターを見て動揺を隠せない。
いくらフルダイブの体感型ゲームだからといっても、あんな怪物に襲われて動揺しない人などいないだろう。
「どっ…どうすんだ…よ!あいつ…少しずつ追いつい…てる!」
今のエレナより、モンスターの方が素早さが早いのか、その差は徐々に縮まりつつある。
エレナは木々の反動をうまく活用して逃げているが、当のモンスターは木などおかまいなしに一直線に追いかけてきているのだ。
「やっ…ばいな!追いつかれちまう!!」
「うっさいわね!!集中してんだからごちゃごちゃ言わない!」
その時であった。
イノチの頭の中にアリエルの言葉が響いてくる。
『イノチさ~ん、ごめんなさい。ひとつお伝えし忘れてたことがあって…』
「なっ…なんだよ!!今…すごぉぉぉく…お取り込み中だ!!」
『…そうなんですか!あら~どうしましょうかね。ほら、強化薬の使い方…後で教えるって言ったまま忘れてたんですよね。』
「なっ…んで、そんな大事なこと…を!!」
『どうしましょう…取り込み中なら後でまたかけ直しましょうか?』
「……っっっ!!?」
「何をさっきからごちゃごちゃ言ってんのよ!誰と話してんの?!」
肩の上で独り言をつぶやくイノチに、エレナが問いかけた。
「アッ…アリエルが…強化…薬のこと、伝え忘れてたって…!」
「…っっ!!」
それを聞いて、エレナはすぐにイノチに指示を出す。
「それ!早く聞きなさい!!」
「なんで…だよ!!」
「このままだとあいつに追いつかれちゃうでしょ!!はやく!!」
モンスターはすでに、二人の数メートル後ろに迫っている。
「聞いてどう…すんだ!?」
「あんたバカなの?!あたしを強化するのよ!!!」
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