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第一章 アクセルオンライン
7話 強化と装備
しおりを挟む「アリエルっ!!強化…薬の使い方…教えてくれ!!」
『はいはい、いいですよ!ではまず、アイテムボックスの確認の仕方ですけど…』
「てっ…手短に!!時間がない!!」
『あっ…そうですか。まぁいいですが、取り出したいアイテムと個数を想像して名を言えば、手元に出ます。あとはその強化薬をキャラクターに飲ませるだけです!』
「わかった!!ありがとう!!…強化薬!!」
アリエルに言われたとおりにすると、手元に強化薬の入った小瓶が4本現れた。
「エレナ!!これ飲んで!!」
イノチは右手で持った4本の小瓶を、エレナの前に差し出した。
「なによ!!4つとも飲むわけ?!」
「1本の効果がわからないからな!とりあえず、今できる最大限であいつに勝つんだ!!」
「はぁ~わかったわよ…了解、My BOSS!」
そう言うと、エレナは4本とも口に加えて一気に飲み干した。そして、エレナの体が光を放ち始める。
「うっぷ…ってなにこれ…すんごく力が湧いてくるわ!?これなら…イケる!!」
エレナはイノチを適当な草むらに投げ込む。
「どわぁぁぁぁぁ!!!!」
草むらに頭から突っ込むイノチを尻目に、エレナは両足で急ブレーキをかけながら、腰にさしている短剣を2本抜き出すと、モンスターの方へと向き直る。
「さぁて…遊んであげるわよ!熊ちゃん!!」
◆
イノチは感動していた。
目の前でモンスターと美少女が戦いを繰り広げている光景に。
「すっ…すげぇ…ファンタジーのバトル…生で見るとこんなに迫力があるんだ…」
イノチは草むらから頭だけを出して、目の前の光景に感嘆の声を漏らす。
モンスターの攻撃をアクロバティックにかわし、隙を狙って斬撃を何度も叩き込んでいるエレナの姿は、まるでかの有名な"モハメド・アリ"の【Float like a butterfly, sting like a bee(蝶のように舞い、蜂のように刺す)】をイノチに連想させる。
モンスターの攻撃は単純ではあるが、一度受ければエレナの体など一瞬で粉々になりそうなほどの威力だ。
現に今、太い木の幹がその爪でえぐられていくところが見える。
それを軽々と避けるエレナに、イノチはついつい見惚れていた。
(あいつ…あたしが必死こいて戦ってるのに、何を惚けて…っと!)
着地した瞬間、エレナの頭の上をモンスターの手が通り過ぎていき、その風圧でエレナの茶色い髪の毛が舞っていく。
それをかわしたエレナは、モンスターの脇腹に斬撃を叩き込む。しかし…
(やっぱり…今のあたしの攻撃力じゃ、こいつの硬い皮は通らないわね!)
持っている短剣の刃は、モンスターの硬い皮に阻まれる。そのままモンスターの横をすり抜けたエレナは、いったん高い木の枝の上に飛び移って、体制を立て直した。
モンスターはエレナの姿を見失ったのか、キョロキョロと辺りを見回している。
「BOSS!!今のあたしの攻撃力じゃ、こいつを倒せそうもない!!このままだと、あたしもあんたもジリ貧よ!!」
エレナは持っている2本の短剣を鞘に戻すと、イノチに伝わるように、大声で話しかける。モンスターもその声に気づいて、咆哮を上げてエレナが立つ木をなぎ倒す。
エレナはタイミングを合わせて、別の枝に飛び移る。
「だから提案するわ!!さっきのSR武器をあたしに装備させて!!あれならこいつを倒せるわ!!」
再びモンスターは木をなぎ倒したが、エレナは別の木に飛び移った。
「えっ…SRの武器を装備させろだって!?」
エレナの声を聞いていたイノチは、一瞬、何をバカなと思った。
今の戦いを見て、エレナは確かに強いと思ったが、実際にレアリティは"R"なのだ。
イノチはこれまで、レアリティの高い武器は、同等以上のレアリティであるキャラクターに装備させることと決めていた。
そう思ったのだが…
今の状況を考えると、二人ともこのまま、あのモンスターの餌になりかねないのも事実なのだ。
(ここで判断を間違えれば、死んでペナルティとか受けるのかな…それならエレナを信じるか!!)
そう考えたイノチは、声を上げてエレナに伝達する。
「その提案のった!!上に投げるぞ!!」
そう言うと、アイテムボックスから【グレンダガー(SR)】を取り出して、イノチはモンスターの頭上高くにそれを投げ上げた。
「良い判断よ!My BOSS!!」
再び、なぎ倒された木から飛び上がり、エレナはモンスターの真上に飛んできたそれをキャッチすると、2本の短剣を鞘から抜き出す。
赤黒く光る刀身が、エレナの顔をはっきりと映し出している。
(レアリティってすごいわ…これならあいつを真っ二つにできそう…フフ)
湧き上がる力を感じて、エレナの目がギラリと光った。そのまま空中で体を反転させ、木の枝を下から上にしならせる。
そして…
一瞬、イノチの視界からエレナが消えた。
次に気づいた時には、モンスターの後ろに着地して膝をつくエレナと、上を向いたままピクリとも動かないモンスターの姿が視界に映っている。
(何が起きたんだ…?)
エレナが何をしたのか、まったく見えなかったイノチは、勝負の行方を固唾を呑んで見守る。
すると、エレナがゆっくり立ち上がると同時に、モンスターの体は頭から縦に二つに分かれて倒れ込んだのだ。
「…ふぅ…BOSS!終わったわよ!」
そう告げてエレナは額の汗を拭うと、受け取ったグレンダガーを鞘にしまう。
そして、近づいてきたイノチにそれを手渡してきた。
「…ん?どうしたんだ?」
「どうしたって…誰に装備させるかはBOSSが決めることでしょ。あたしは一時的に借りただけ…」
そう言ってエレナは、グレンダガーをイノチに押し渡す。その様子は少し寂しそうだ。
イノチは受け取ったグレンダガーに目を向けると、少し考えてエレナにそれを再び渡した。
「これはエレナが装備して!」
「…っ!?なっ…どうしたのよ、急に…」
突然のことにエレナは動揺を隠さずにいる。そんなエレナに対して、イノチはゆっくりと口を開く。
「さっきはごめん…別にケンカしたいわけじゃなかったんだけど…俺、あまり女の子と話すの慣れてないから…」
そうこぼすイノチは、恥ずかしげに頭をかいている。それを見たエレナも少し赤くなった顔を背けて、返事をした。
「…まぁ、謝るなら許してやっても良いけどね…」
「なんだよ…素直じゃないなぁ…エレナって…ツンデレじゃん…ハハハ」
エレナの素直じゃない態度に笑いが込み上げてくる。そんなイノチの態度に、エレナは不本意だとさらに顔を赤らめている。
「ばっ…違うわよ!…ったく…」
「…とにかくエレナのおかげで助かった!ありがとう!」
そんなイノチの笑顔に、エレナは笑みをこぼす。
「どういたしまして、My BOSS。」
互いにそう交わして、二人は笑い会うのであった。
◆
「…せっかく人が親切で教えてあげたと言うのに!」
アリエルはプリプリしながら、切れた通信機を置く。
「最近の若者は礼儀がなってないよ、まったく…」
そうこぼしながら、デスクの上の書類を整えていると、後ろから声をかけられた。
「アリエルさん…調子はいかがですか?」
「じょ…上官殿!なぜこのような場所に!?」
アリエルは眼鏡を整えると、立ち上がって姿勢を正した。
「…先ほどのプレイヤーについて、少々お聞きしたいのですが…」
そう言いながら、上官と呼ばれる女性は、静かに歩き、アリエルの横を通り過ぎる。
「とっ…と言いますと?」
アリエルは少し動揺しながら質問で返す。
すると女性は、スッとアリエルに顔を向けて、無表情で問いかけた。
「あのプレイヤーの名前は?」
「プッ…プレイヤーネームは"イノチ"でございます。」
「ふむ…SRは何が出たのですか?」
「二刀武器の短剣【グレンダガー】でございます。」
そこまで聞いて、その女性は何かを考えるかのように目をつむる。
そして、ゆっくりと目を開くと、アリエルに静かに話しかける。
「彼の動向は、私が見ていきますね…」
「はっ…はい!」
女性はアリエルからイノチが登録した用紙を受け取ると、そのまま静かにその場を後にした。
アリエルは、まるでとつぜん嵐が来たかのように、驚いたままその後ろ姿を見つめているのであった。
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