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第一章 アクセルオンライン
38話 タケルの過去
しおりを挟む「フレンドか…」
イノチは携帯のフレンド欄に表示されたタケルのIDを見て、そうつぶやいた。
エレナとフレデリカもその後ろを歩いているが、すこし気まずそうにしている。
三人は今、メイの待つ館への帰路についている。
タケルと別れた後、アクアドラゴンのところまで戻り、『ダリア』を含めた報酬を手に入れた。
もちろん、アクアドラゴンも仲間に加わった。今は、イノチの首で光る蒼い宝石のついた首飾りの中で眠っている。
しかし、ドラゴンをテイムするというテンション上がりMAX的なイベントも、イノチは特に喜ぶことなく終えたのだ。
そこからのイノチは終始無言だった。
帰りの廃坑道の中でも、登山道からでる馬車の定期便の中でも、街について館に向かって歩く今でさえも…
イノチはただ静かに、夕暮れの帰りの道を歩んでいるのだ。
「BOSS…大丈夫かしら…」
「そうですわね…元の世界に戻れない…これがBOSSにとって大変ショックなことだと言うことはわかりましたけれど…」
エレナとフレデリカはイノチを心配そうに見つめ、ため息を吐いた。
そうしていると、館の前に着く。
「おかえりなさいませ。」
エレナが玄関のドアを開けると、メイが出迎えてくれた。
いつものようにエントランスフロアに立ち、丁寧なお辞儀で三人を迎えてくれるメイだが、メイの言葉に元気よく答えるイノチの姿は、今はどこにもない。
ただ一言だけ「ただいま」と言うと、そのまま自室に行ってしまったのだ。
「わっ…わたくし、何か至らない点でも…あっ…ありましたでしょうか…」
「違うの…BOSSにとってショックなことがあってね…メイのせいじゃないわ。」
イノチの態度に焦るメイに、エレナとフレデリカは優しく声をかけながら、廊下を歩くイノチの背を見送った。
◆
数刻ほど前…
「死ぬだって!?なんでだよ…ゲームの中だろ、ここは!!」
「落ち着きなよ…この世界は現実の可能性が非常に高いって、さっき言っただろ?」
「だけど…死ぬって…死ぬってどういうことだよ!!馬鹿なこと言うなよな!!」
「だから、それを今から説明するんだ!少し落ち着けって!」
動揺して立ち上がり、声を上げて叫ぶイノチを、タケルは落ち着かせるように諭す。
エレナとフレデリカにも諭されながら、イノチは落ち着きなく再び腰を下ろした。
「まぁ、驚くのも無理はないさ。順序立てて説明するから落ち着いて聞いてくれ…」
イノチはその言葉にうなずく。
「まず、僕はこの世界に来て5年になる。」
「ごっ…5年…だって?!」
「うん、現実の世界だと一か月くらい経っているはずだけど、戻れてないからね。今、自分がどうなってるかもわからない…」
「そっ…そんな長い時間をこの世界で…」
「最初のガチャで彼女を…サリーを引き当てたんだ。彼女は『SR』だったから正直ここまでこれたのもあるね…ほんとに感謝してるよ。」
タケルはそう言うと苦笑いをし、サリーは後ろで頭を軽く下げた。
イノチはそんな二人を見て、彼を激しく罵倒した自分が恥ずかしくなるが、タケルは気にせず話を続ける。
「そこからなんとか生き延びて、僕はプレイヤーランクを20まで上げたんだ。そして、ちょうど3年前かな…クランを作った。僕と同じような境遇のプレイヤーが何人かいてね…みんなで話し合って立ち上げたのが『孤高の旅団』ってクランさ。僕はそこのリーダーをやってる。」
「クランか…みんなって…何人くらいいるんだ?」
「今は五人だね…」
タケルの表情に少し翳りが見えた。それに気づいたイノチは、おそるおそる問いかける。
「何かあったんだね…」
「あぁ…ある時までは、みんな本当にこれがゲームと思ってたんだ…脚が飛ぼうが腕が落とされようが、生きていればポーションで全て治ったからね。」
「……」
「だけど1年前、ジプト法国からきたプレイヤーがいて、彼がこの世界はゲームじゃないと教えてくれたんだよ。みんな、最初は信じなかったけど、彼の説明を聞いていくほどに思い当たることがあり過ぎた…」
「ジプト法国っていうと、世界に点在するうちの国の一つだよね。そのプレイヤーは今どうしてるんだ?」
「…さぁ、わからない…でも、リュカオーンのことを教えてくれたのは彼さ。こいつは『キーモンスター』と呼ばれているユニークモンスターだとね。」
「キーモンスター?」
「そう、『キー』は鍵って意味さ。この世界には、そいつらが何体もいるらしいんだけど…それらを全て倒すと『女神の像』というアイテムが手に入るみたいなんだ。それがあれば元の世界に戻れるらしい…」
「『キーモンスター』…『女神の像』…元の世界に戻れる…か。その『女神の像』っていうのはどんなアイテムなんだろう。」
「それについて詳しくはわからない…けど、僕らはその『女神の像』を目指すことにしたんだ。そして、法国からきたプレイヤーと協力して、このリュカオーンを討伐することにしたのさ。」
タケルはそこまで話すと、少し離れたところに横たわっているリュカオーンの死骸を指さした。
「…だけど、その時の戦闘で僕らは、仲間を何人か失ったんだ…」
タケルが悔しそうな表情を浮かべた。
イノチも自分から問いかけることができず無言でいると、タケルが再び口を開いた。
「死んだと思われるのは三人…思われるってのは、確かめる術がないからだね。でも、彼らの遺体はその場で光の粒子となって消えてしまった…一緒にいたキャラクターや装備なども全て一緒にね。」
それには、後ろで話を聞いていたエレナたちも、驚いた表情を浮かべている。
「でも、もしかしたら生き返ってるかも…例えば教会とか神聖な場所でさ!」
「僕らもそう思った。そう思ってこのジパンを隈なく探したよ…でも、そんな場所はなかったし、彼らとも今日まで会っていない…もし生きているなら、普通はクランメンバーを頼ると思うんだけどね。」
イノチの仮定にタケルは首を振る。しかし、イノチは諦めない。
「もしかしたら、生き返る国はランダムでここジパンにはいないのかも!」
「確かにその可能性はあった。でも、すぐに違うとわかったよ。ある事実によってね…」
「ある事実…?」
タケルは首を傾げるイノチに、自分の端末のある画面を見せた。
「これは僕のフレンド一覧だよ…この三人がそのメンバーだ。」
「こっ…これ…事実って…まさか…」
タケルが指し示す三人の名前を見て、イノチはすぐにピンと来た。その三人のプレイヤーネームと他のメンバーの名前には明らかに違いがあったのだ。
「…想像の通りさ。名前がグレーアウトしているんだ。死んだらフレンドを解除されるとしても、グレーアウトは明らかに不自然だろ?」
その言葉は妙に納得感があった。
確かにその通りだ。
フレンド解除されるなら一覧から消せばいい。わざわざグレーアウトする仕様がわからない。
イノチは、再び訪れた得体の知れない不安感とゾワゾワと背中に感じる不快感に身をよじる。
「君に話すことではないかも知れないけど…」
考え込むイノチに対して、タケルが寂しげに口を開き、端末のあるプレイヤーネームを指さした。
「そのメンバーの中に女の子がいてね…これだね、プレイヤーネーム"きなこ"…彼女もリュカオーン戦で死んでしまった一人なんだけど…」
タケルが話の途中で口ごもった。
うつむいて目を閉じたタケルは、そのプレイヤーのことを思い出しているようだった。
「もしかして…その子は君の…」
「あぁ、大切な人とだけ言っておくよ。」
静かに声をかけたイノチに対して、タケルは一言だけ告げた。
イノチの心に、やるせない気持ちが広がっていく。
自分がゲームだと思っていたこの世界は、思いもよらない過酷な世界だった。
涼しい顔して笑っていたタケルも、たいへんなつらい経験をしていたのに、ちょっと動揺して彼に罵声まで浴びせて、自分はなんて馬鹿なんだろうか…
おかしいと思いつつ、ゲームだからと自分を誤魔化していたことをイノチは恥じた。
ヘラヘラ笑って過ごしてきたことを恥じた。
真っ黒な陰りが、少しずつイノチの心を支配していった。
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