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第一章 アクセルオンライン
47話 野盗の矜持
しおりを挟む「ヒャッハッハッ!持ってるもの全部置いていきな!!」
「いっ…命だけは…助けて!!」
商人の男は尻餅をつき、命乞いの言葉を震えながら吐き出す。
目の前には肩に剣を担ぎ、ニヤニヤと笑みを浮かべた男が立っていた。
この男、明らかに野盗だとわかる姿をしている。
片目は傷を負っているのか、眼帯をつけており、腕や足にもたくさんの傷が見受けられる。
おそらく数々の修羅場をくぐってきたのだろう。服装もシミや汚れだらけで至るところが破けており、ボロボロだ。
そして、二人の周りを数人の野盗が囲っている。おそらく眼帯男の部下たちだろう…同じような服装をしているからだ。
ほかにも何人かの仲間がいて、彼らは馬車の周りに立っている。その足元には、馬が首から血を流して息絶えていた。
荷台には火矢が放たれており、一部がパチパチと音を立てて燃えている。
眼帯男が商人へ剣先を向けて話しかける。
「積荷はなんだ!?」
「こっ…この先の『イセ』の街に卸す香辛料と…たっ…宅配の品をいくつか…」
「香辛料だぁ…?他には!?」
「そっ…それだけですぅ!!ひぃぃぃ!」
「それだけぇ!?肉とか酒とか!ないのかよ!」
「ありません!すみません、すみません…命だけは助けて…」
商人の男はそう言って、膝をついて頭を抱え、うずくまってしまった。口からは小さく「助けて」とつぶやき続けている。
「ちっ…ハズレかよ…仕方ねぇ、お前ら!とりあえず積荷を奪え!」
「へい、お頭!!」
眼帯男の指示で、部下たちが積荷を降ろし始めた。
その作業を一瞥すると、眼帯男は商人に向き直り、ため息をつく。
「残念だが積荷はもらう…で、あんたの命なんだが…」
その言葉に商人の男が顔を上げた。
涙と鼻水で汚れたそのみすぼらしい顔を見て、眼帯男は鼻で笑う。
「顔を見られちまったからな…ここで死んでくれや。」
「そっ…そんな!嫌だ…助けて!!」
「だーめだ。俺も悲しいけどよ、さよならだ!」
そう言って肩に担いでいた剣を振り上げる。
「あばよ!ヒャハハハハハハ!!」
剣が商人に向け、振り下ろされたその時だ。
「ぐわっ!」
「がぁ…!」
「やめ…がっ!」
周りで部下たちが叫び声をあげて、倒れ始めたのだ。
「…!?どうした、お前ら!」
「BOSS…逃げて…ぎゃあ!!」
振り向いた先、こちらに向かって叫ぶ部下の背中から、突然、血飛沫が飛び散る。
「なっ…何が起きてやがる!?」
突然の理解不能な出来事に、眼帯男は唖然として立ち尽くしている。
すると、すぐ後ろから女の声が聞こえてきたのだ。
「あなたは…ちょっとだけ寝ててちょうだいね。」
その言葉の後に首に衝撃を受け、男の意識は一瞬で刈り取られた。
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「…うぅ…」
俺は頭の痛みに目を覚ました。
首が痛む…さっき衝撃が走った部分だが…記憶はある。
体をうねらせて、手足を動かそうとするが、まったく動かない。
どうやら縛られているようだ。
視線を周りへと向ければ、茶髪と桜髪の女が立っているのが伺えた。
茶髪の女と目が合う。
「…ん?気がついたようね。」
女はそういうと近づいてきて、俺の顔を覗き込むようにしゃがみ込んだ。
高い鼻立ちにきれいな二重。
こいつは上玉だ…その可愛らしい様相に、俺は思わず喉を鳴らし、舌舐めずりしちまった。
その瞬間、俺の顔面に硬い何かがめり込んだ。鼻から温かいものが流れていくのがわかる。
「がっ…痛えっ!!なにしやがる!!」
「…立場もわきまえずに欲情してる場合?あんたの部下は全員、取っ捕まえたわよ!!」
「なっ…なんだと!?」
「あんたたち、野盗の一味でしょ?そして、あんたがリーダーね。」
「なっ…なんのことだ?」
しらばっくれようと視線をそらしたが、そんな俺に、茶髪の女は再び拳を振り上げやがった。
「わっ…!!ちょっと待て!!そうだ、俺が頭だ!!認めるから殴るな!!」
「最初からそう言えばいいのよ…あんたの部下たちがみんなしゃべってるんだから。」
「なに!?あいつらめ~帰ったら覚えてろよぉ~!!」
「あんた…この状況で帰れると思ってんの?すっごい性格してるわね。」
女は立ち上がると、俺をみてあきれたように乾いた笑いを浮かべる。
すると、今度は男がやってきやがった。
ちっ…コブ付きかよ…
「ふぅ…こっちはあらかた尋問は終わったぞ。ポーションで治療もしたから死人はいない。」
「あら、BOSS。意外と早かったわね!」
「尋問はフレデリカが手伝ってくれたからね。」
「あんな輩ども、大したことないですわ。ちょっと踏みつけてやれば、簡単に全部吐きましたわ。」
桜髪の女だ…って、おぉ~!!
近くでみりゃ極上じゃねぇか!桜髪に巨乳たぁ、そそるねぇ!グヘヘへへッ…
って、治療だと?どういうことだ?
その瞬間、俺の腹に何かが突き刺さった。一瞬息が詰まって、咳が止まらなくなる。
「ぐぼっ!!ゲッホ…ゲホッゲホッ…」
「その人…大丈夫か?」
「ああ、こいつ?心配する必要なんかないわ…こんな状況でも欲情できるなんて、神経が図太いったりゃありゃしないわ!」
「フフフ…いいじゃありませんか。尋問のしがいがあるというもの…」
咳き込みながらも、俺は桜髪女の言葉を聞いて、無意識に唾を飲み込んじまった。
しかし、ビビってばかりじゃ、頭としての威厳が保てねぇ。
「おっ…俺は屈しねぇぜ!野盗の矜持ってもんが…あっ…あるからな!!」
そうは言ったが、女に痛ぶられるのは嫌いじゃねぇ。ついつい、顔がニヤけちまった。
「おい…頭の顔、見ろよ。」
「あ~…また悪い癖が出てんな。」
「相変わらずだよなぁ…」
離れたところで、まとめて縛り上げられている部下たちは、口々にそう話す。
そして、声を合わせて大きなため息をついたのだった。
◆
「まったく…一時はどうなるかと思いましたが…なんとか順調のようでなにより… しばらく見守っていて正解でしたね。」
モニタールームにいた女性は、小さくため息をつくと、デスクに置いてあったマグカップを取り上げた。
香ばしい香りと口にしたときに感じる仄かな酸味が、疲れた心を温めてくれるようだ。
「やはり、この"コーヒー"は美味しいわね。取り寄せてよかった…」
目を閉じ、頬に手を当てて、ふぅと息を吐く。
「しかし、彼にそんな過去があったとは…せっかく良い逸材を見つけたのに、危うく壊れてしまうところでしたわ…御方たちも、好き勝手に人材を探すのはいいのだけれど、少しは彼らの背景にも目を向けてほしいものね…」
女性はマグカップをデスクに置いた。
モニターには、小さなアクアドラゴンとギャーギャー言い合いをするイノチの姿が映っている。
「しかし…アクアドラゴンを従えるとはね。偶然だとしても、これほど面白いことはないわね。」
ニヤリと笑う口元は、今までの淑やかさとは程遠い、歪んだ笑みが浮かび上がる。
が…
「おっと…いけません。」
女性はモニターには薄らと映る自分の表情に気づいて、すぐに元の顔に戻った。
ピピピピッと何かのアラームが鳴り響く。
「あら…?また呼び出しかしら…面倒だけれど、仕方ないわね。」
女性はイスからゆっくりと立ち上がり、モニタールームの出口へと歩いていく。
そして、ドアノブに手をかけたところで、モニターへ再度振り向くと、口元に笑みを浮かべた。
なにを考えているのかわからないが、暗がりと相まって、恐ろしく感じられる笑みを…
彼女が出て行った後には、薄暗い部屋につけっぱなしになったモニターの明かりが煌々と影を作り出していた。
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