48 / 290
第一章 アクセルオンライン
47話 野盗の矜持
しおりを挟む「ヒャッハッハッ!持ってるもの全部置いていきな!!」
「いっ…命だけは…助けて!!」
商人の男は尻餅をつき、命乞いの言葉を震えながら吐き出す。
目の前には肩に剣を担ぎ、ニヤニヤと笑みを浮かべた男が立っていた。
この男、明らかに野盗だとわかる姿をしている。
片目は傷を負っているのか、眼帯をつけており、腕や足にもたくさんの傷が見受けられる。
おそらく数々の修羅場をくぐってきたのだろう。服装もシミや汚れだらけで至るところが破けており、ボロボロだ。
そして、二人の周りを数人の野盗が囲っている。おそらく眼帯男の部下たちだろう…同じような服装をしているからだ。
ほかにも何人かの仲間がいて、彼らは馬車の周りに立っている。その足元には、馬が首から血を流して息絶えていた。
荷台には火矢が放たれており、一部がパチパチと音を立てて燃えている。
眼帯男が商人へ剣先を向けて話しかける。
「積荷はなんだ!?」
「こっ…この先の『イセ』の街に卸す香辛料と…たっ…宅配の品をいくつか…」
「香辛料だぁ…?他には!?」
「そっ…それだけですぅ!!ひぃぃぃ!」
「それだけぇ!?肉とか酒とか!ないのかよ!」
「ありません!すみません、すみません…命だけは助けて…」
商人の男はそう言って、膝をついて頭を抱え、うずくまってしまった。口からは小さく「助けて」とつぶやき続けている。
「ちっ…ハズレかよ…仕方ねぇ、お前ら!とりあえず積荷を奪え!」
「へい、お頭!!」
眼帯男の指示で、部下たちが積荷を降ろし始めた。
その作業を一瞥すると、眼帯男は商人に向き直り、ため息をつく。
「残念だが積荷はもらう…で、あんたの命なんだが…」
その言葉に商人の男が顔を上げた。
涙と鼻水で汚れたそのみすぼらしい顔を見て、眼帯男は鼻で笑う。
「顔を見られちまったからな…ここで死んでくれや。」
「そっ…そんな!嫌だ…助けて!!」
「だーめだ。俺も悲しいけどよ、さよならだ!」
そう言って肩に担いでいた剣を振り上げる。
「あばよ!ヒャハハハハハハ!!」
剣が商人に向け、振り下ろされたその時だ。
「ぐわっ!」
「がぁ…!」
「やめ…がっ!」
周りで部下たちが叫び声をあげて、倒れ始めたのだ。
「…!?どうした、お前ら!」
「BOSS…逃げて…ぎゃあ!!」
振り向いた先、こちらに向かって叫ぶ部下の背中から、突然、血飛沫が飛び散る。
「なっ…何が起きてやがる!?」
突然の理解不能な出来事に、眼帯男は唖然として立ち尽くしている。
すると、すぐ後ろから女の声が聞こえてきたのだ。
「あなたは…ちょっとだけ寝ててちょうだいね。」
その言葉の後に首に衝撃を受け、男の意識は一瞬で刈り取られた。
・
・
・
「…うぅ…」
俺は頭の痛みに目を覚ました。
首が痛む…さっき衝撃が走った部分だが…記憶はある。
体をうねらせて、手足を動かそうとするが、まったく動かない。
どうやら縛られているようだ。
視線を周りへと向ければ、茶髪と桜髪の女が立っているのが伺えた。
茶髪の女と目が合う。
「…ん?気がついたようね。」
女はそういうと近づいてきて、俺の顔を覗き込むようにしゃがみ込んだ。
高い鼻立ちにきれいな二重。
こいつは上玉だ…その可愛らしい様相に、俺は思わず喉を鳴らし、舌舐めずりしちまった。
その瞬間、俺の顔面に硬い何かがめり込んだ。鼻から温かいものが流れていくのがわかる。
「がっ…痛えっ!!なにしやがる!!」
「…立場もわきまえずに欲情してる場合?あんたの部下は全員、取っ捕まえたわよ!!」
「なっ…なんだと!?」
「あんたたち、野盗の一味でしょ?そして、あんたがリーダーね。」
「なっ…なんのことだ?」
しらばっくれようと視線をそらしたが、そんな俺に、茶髪の女は再び拳を振り上げやがった。
「わっ…!!ちょっと待て!!そうだ、俺が頭だ!!認めるから殴るな!!」
「最初からそう言えばいいのよ…あんたの部下たちがみんなしゃべってるんだから。」
「なに!?あいつらめ~帰ったら覚えてろよぉ~!!」
「あんた…この状況で帰れると思ってんの?すっごい性格してるわね。」
女は立ち上がると、俺をみてあきれたように乾いた笑いを浮かべる。
すると、今度は男がやってきやがった。
ちっ…コブ付きかよ…
「ふぅ…こっちはあらかた尋問は終わったぞ。ポーションで治療もしたから死人はいない。」
「あら、BOSS。意外と早かったわね!」
「尋問はフレデリカが手伝ってくれたからね。」
「あんな輩ども、大したことないですわ。ちょっと踏みつけてやれば、簡単に全部吐きましたわ。」
桜髪の女だ…って、おぉ~!!
近くでみりゃ極上じゃねぇか!桜髪に巨乳たぁ、そそるねぇ!グヘヘへへッ…
って、治療だと?どういうことだ?
その瞬間、俺の腹に何かが突き刺さった。一瞬息が詰まって、咳が止まらなくなる。
「ぐぼっ!!ゲッホ…ゲホッゲホッ…」
「その人…大丈夫か?」
「ああ、こいつ?心配する必要なんかないわ…こんな状況でも欲情できるなんて、神経が図太いったりゃありゃしないわ!」
「フフフ…いいじゃありませんか。尋問のしがいがあるというもの…」
咳き込みながらも、俺は桜髪女の言葉を聞いて、無意識に唾を飲み込んじまった。
しかし、ビビってばかりじゃ、頭としての威厳が保てねぇ。
「おっ…俺は屈しねぇぜ!野盗の矜持ってもんが…あっ…あるからな!!」
そうは言ったが、女に痛ぶられるのは嫌いじゃねぇ。ついつい、顔がニヤけちまった。
「おい…頭の顔、見ろよ。」
「あ~…また悪い癖が出てんな。」
「相変わらずだよなぁ…」
離れたところで、まとめて縛り上げられている部下たちは、口々にそう話す。
そして、声を合わせて大きなため息をついたのだった。
◆
「まったく…一時はどうなるかと思いましたが…なんとか順調のようでなにより… しばらく見守っていて正解でしたね。」
モニタールームにいた女性は、小さくため息をつくと、デスクに置いてあったマグカップを取り上げた。
香ばしい香りと口にしたときに感じる仄かな酸味が、疲れた心を温めてくれるようだ。
「やはり、この"コーヒー"は美味しいわね。取り寄せてよかった…」
目を閉じ、頬に手を当てて、ふぅと息を吐く。
「しかし、彼にそんな過去があったとは…せっかく良い逸材を見つけたのに、危うく壊れてしまうところでしたわ…御方たちも、好き勝手に人材を探すのはいいのだけれど、少しは彼らの背景にも目を向けてほしいものね…」
女性はマグカップをデスクに置いた。
モニターには、小さなアクアドラゴンとギャーギャー言い合いをするイノチの姿が映っている。
「しかし…アクアドラゴンを従えるとはね。偶然だとしても、これほど面白いことはないわね。」
ニヤリと笑う口元は、今までの淑やかさとは程遠い、歪んだ笑みが浮かび上がる。
が…
「おっと…いけません。」
女性はモニターには薄らと映る自分の表情に気づいて、すぐに元の顔に戻った。
ピピピピッと何かのアラームが鳴り響く。
「あら…?また呼び出しかしら…面倒だけれど、仕方ないわね。」
女性はイスからゆっくりと立ち上がり、モニタールームの出口へと歩いていく。
そして、ドアノブに手をかけたところで、モニターへ再度振り向くと、口元に笑みを浮かべた。
なにを考えているのかわからないが、暗がりと相まって、恐ろしく感じられる笑みを…
彼女が出て行った後には、薄暗い部屋につけっぱなしになったモニターの明かりが煌々と影を作り出していた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる