47 / 290
第一章 アクセルオンライン
46話 いざ野盗討伐へいかん
しおりを挟む「はぁ…嫌だなぁ。めっちゃ嫌だなぁ…」
二頭の馬に引かれ、街道を進む馬車の荷台にイノチたちの姿があった。その横にはもちろん、エレナとフレデリカもいる。
馬車は『イズモ』へ続く街道を進んでいる。
「BOSS…いい加減、腹をくくりなさいよ。」
「そうは言ってもさぁ…さっき依頼を受けたばかりですぐに行けとか、心の準備ができてないよ…はぁ…」
「安心してですわ!野盗なんて、わたくしたちが一瞬で消し去って差し上げますから!」
「いや、それじゃクエスト失敗じゃん…今回は討伐っていっても、リーダー級を捕まえないといけないんだって。わかってるよね、フレデリカ…」
「ええ!もちろんですわ!」
後ろで大笑いしているフレデリカを見て、イノチは大きくため息をついた。
ギルド総館から自分たちの館へ戻った後、すぐにジパン国軍『イセ』駐屯の兵士がやって来た。
何やら急いでいた彼は、伝言を伝えにきたらしく、内容を聞いたイノチは顔を引きつらせた。
「えぇっ…森の近くで野盗を見たという情報があるから、すぐに行けってこと?!」
「はい…ご足労おかけいたしますが、どうかよろしくお願いします。」
「マジかよ。まだ準備もできてないのに…」
「必要最低限の物資は、こちらで準備しておりますゆえ、街から出る際は城門の衛兵室へお立ち寄りください。」
兵士は頭を下げると、すぐに去っていったのだった。
小さく揺れる荷台の上で、イノチはあいかわらずため息をついている。
「やっぱりこの依頼、受けるんじゃなかったな…」
「でも、あそこでアキンドにああ言われたら、断りにくいわよね。」
「うぅ…確かに。リュカオーンのことはアキンドさんおかげで、うまく誤魔化せたから良かったけど…」
「まぁ、いいじゃない。今回はモンスターが相手じゃないんだし、フレデリカの言うとおり、あたしたちがさっさと片付けるわよ。」
「そうですわ、そうですわ!オーッホッホッホ!!」
やたらとテンションの高いフレデリカ。いつになく上機嫌なのには理由があるのだが、それを見たイノチはもっと大きくため息をつく。
そもそもの目的であった『ダリア』の納品。その報酬は目が飛び出るほどの金額となった。
イノチたちが手に入れた『ダリア』は全部で570個にも及んだが、その内の一個をアキルドへ渡し、約束どおり50,000ゴールド受け取ったまではいい。
残りの569個の『ダリア』は、シャシイが提示した条件のもと、ジパン国へ譲渡したのだが…
現在の『ダリア』一個の相場は40,000ゴールド。アキルドの報酬が少し高かったのは、彼の計らいである。
しかし、単純に考えて40,000ゴールドを569個分…
40,000×569個…
2,300万ゴールドに近い金額になるぞ!!
イノチはシャシイの前で腰を抜かしかけた。
もちろん、シャシイたちもそんな大金は持っていないため、その場では前金だけもらい、残りは後日送られることとなったのだが…
その前金だけでも十分な大金だった。
館への帰路の途中、ジャラジャラとなる皮袋を見て、フレデリカはイノチの肩を叩く。
「ん…どうした?フレデリカ。」
「BOSS…約束ですわ。」
「え?なんか約束したっけ…?」
「肉…」
フレデリカは、恥じらうようにモジモジしながら、唇に人差し指を加えて懇願する。
その妖艶な様子に赤くなるイノチ。
「え…フレデリカ?急に…どうしたの?」
「もう…BOSSったらイヤですわぁ。約束したじゃない…高級なお肉を食べさせてくれるって…」
その言い方がなんとも艶かしく、色っぽ過ぎる。
「ふっ…普通に言えよ、普通に!!ったく、帰ったらアキンドさんに美味しい店を聞くから、それまで待っててよ!」
「やったですわ!!」
「なんだ?肉を食うのか?!我も食べるぞ!!」
飛び上がり喜ぶフレデリカの話に気づいて、今度はウォタが首飾りから顔を出す。それを見たイノチは、額に手を当てて天を仰ぐのだった。
・
・
・
「帰ったらアキンドさんに美味しい店聞くのはいいんだけどさ…」
「…?何か問題があるの?」
「考えてもみろよ…フレデリカとウォタだぞ?たらふく食わせたら、どんだけ懐に被害がでるかわかったもんじゃない…」
「確かにそうね…」
ため息をつくイノチの横で、エレナは顎に手を置いて考える。そして、思いついたように顔を上げた。
「まっ!どうにかなるんじゃない?」
エレナの言葉にイノチは、驚いた。
が、すぐに納得して外の風景に目を向けた。
(エレナに相談しても意味ないか…そういや、エレナもけっこう食べるよな…)
青空の下に、イノチの何度目かのため息が広がった。
◆
「だんなぁ…そろそろ指定区域ですぜ。」
御者の男がイノチたちに声をかける。
指定区域というのは依頼で指定された範囲のことだ。今回の場合は野盗の出没が多く見られる区域のこと。
イノチは生唾をごくりと飲み込む。
イノチたちは野盗たちを誘き出すため、森に入る前に商人を装った格好に着替えていた。
すでに街道の周りは木々で覆われ薄暗く、物静かな中、時折、獣の声などが響いていて不気味さを醸し出している。
イノチたちが最初に降り立った森。
シャシイやアキルドの話からすると、ここは『クニヌシの森』と言って、モンスターが多く生息し、本来は人が立ち入る場所ではないらしい。
しかし、『イズモ』の街と交流するために、大昔にこの街道が作られた。
当時はモンスターが多く出没したため、商人たちは護衛を雇って通行していたらしいが、封呪が施されて以来、基本的にモンスターの心配はいらなくなったというのだが…
イノチが心配そうに辺りをキョロキョロしていると、エレナが声をかけてくる。
「BOSS、心配し過ぎよ。どしっと構えてなさい。」
「そんなこと言ったってさ…こういうのあんまり慣れてないから、やっぱ不安なんだよ。しかも今回は自分たちが囮なだよね…」
「野盗といえば奇襲がセオリーですわ。しかしそれは、こちらが何も策なしにいれば有効というもの。わたくしたちは迎え撃つための準備がありますわ。」
「そうだぞ、安心せい。我の加護もついておるから、多少の傷ならすぐ治るしな。」
ウォタがイノチの懐からひょこっと顔を出して言う。
「まっ…まぁ、みんなのことは信用してるよ。」
イノチがそう苦笑いしたその時である。
遠くの方で、馬の高いいななきが聞こえたきたのだ。近くにいた鳥たちが一斉に森から飛び立つ。
「なっ…なんだ?…馬の鳴き声!?」
「だっ…だんな!この先で何かあったようです!!煙が!!」
「とりあえず向かってちょうだい!」
「へっ…へい!!」
エレナの指示に、御者の男が鞭を打つと、ゆっくりと歩いていた馬たちは荷馬車を引いて走り出す。
「いっ…いきなり当たりかな!」
「わからないわ…でも、血の臭いがする!」
エレナは鼻をクンクンさせ、街道の先を睨みつけるように見つめている。フレデリカもウォタも、皆同じ方向を見据えているようだ。
先の空に一本の煙が立ち上っている。
イノチたちはそれを目指して、馬車を走らせるのであった。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる