61 / 290
第一章 アクセルオンライン
60話 ダンジョン最下層
しおりを挟むそのまま進んだ3階層では、コックローチとバグズたちが襲いかかってきたが、どちらもゼンの活躍でことなきを得た。
ゼンは、最初はしぶっていたものの、ミコトにお願いされて、仕方なく炎を吐き散らかしていた。
しかし、最後は血が騒いだのか、2階層でも見せたブレスを、虫たちに思いっきりお見舞いしていたのである。
この階層では、イノチとミコトはあまり経験値を入手できなかったものの、特に問題もなく、一同はそのまま4階層へと足を進める。
4階層。
この階層の造りも、3階層と同じであった。
整った石造りの床や壁に、等間隔に並んだ黄色に灯る松明。
それを見れば、難易度も3階層と同じだとわかった。
この階層で出てきたのは、コックローチ、バグズの他、ゴブリンが加わっていた。
エレナやフレデリカも、虫への恐怖や嫌悪感より闘いの血が勝ったようで、大暴れの活躍だ。
二人とも目をギラつかせ、ダガーを振りまわし、魔法を爆撃のように放っていた。
それを見ていたイノチは、モンスターに対してもはや、憐れみと同情しか浮かばなかった。
4階層も無事にクリアできた。
経験値はけっこう手に入ったと思ったのだが、イノチは未だ『19』のまま、ミコトは『17』になっていた。
一同は最下層を目指す。
・
・
「遂にきたな。」
イノチは5階層への階段を降りると、そうつぶやいた。
今までの階層とは雰囲気がまるで違う。
薄暗く、空気が生温かい。
壁も天井も床も石造りではなく、何かの鉱石を削って造られており、大理石のようにきれいで滑らかだ。
そして、壁に灯る松明は赤色。
「明らかにダンジョンのボスの階って感じだな。」
「どんな奴らが出てこようが、切り刻んでやるわ!」
「オーッホッホッホッ!いいえ、わたくしの魔法でボッコボコですわ!!」
「ぬはははははっ!その意気である!」
「おっ…お前らなぁ…はぁ…」
横で眼をギラつかせている二人と一匹に、イノチはため息を吐きつつミコトに向き直る。
「ミコト、この階層で最後だ。気を引き締めて行こう!」
「うっ…うん!」
「ゼンさんもよろしく!」
ゼンはイノチの言葉に、無言でうなずいた。それを確認して、イノチはエレナたちへと向き直る。
「モンスターの気配は?」
「今のところ…いないわね。」
「…なら、先へ進もう!」
一同は陣形をとり、ゆっくりと進み始めた。
「ここ…なんだか気持ち悪いね…」
「そうだね…今までとは違って、生臭いし空気も重い…ミコトは、大丈夫?」
「…うん、イノチくんがいるから大丈夫だよ!」
「…え!俺…?いや…あっ…そうかな…」
「ゼンちゃんやエレナさんたちもいるし…私は頼ってばっかで、あまり役に立たないけど、みんなの事、信頼してるから!」
「そっ…そうだよね!!みんないるもんね!!あはっ…あはははは…」
ミコトの言葉に一瞬ドギマギしたイノチだったが、早とちりだったことに気づいて苦笑いする。
それを見たエレナとフレデリカも、おかしくて笑っているようだ。
イノチはひとつ咳払いをすると、気を取り直して前を向いた。
少しずつ、広間が近づいているのが見える。
最下層…気を引き締めねば。
そして、このダンジョンをクリアしたら、ミコトには真実を伝えなくてはならない。
ここはゲームの世界ではない、ということを…
ダンジョンをクリアして、自信のついたミコトなら、その事実を受け入れられるだろうか。
イノチにはそれが不安で堪らなかった。
何度か話そうとは思った。
しかし、彼女が落ち込む姿を想像すると、言葉が出なくなってしまう。
自分はなんとか乗り越えた。
いや、乗り越えたなんてかっこ良いものではない。
なんとか自分を保っているだけ。
エレナたちが居てくれるから、平然としていられるだけなのだ。
自分をただ、ごまかしているだけなのかもしれないが…
(ミコトがもし落ち込んでしまったら…俺らは彼女を支えてあげることができるかな…痛てっ)
「BOSS…そろそろですわ。気を引き締めなさい。」
イノチは、皆が立ち止まったことに気づかず、前を歩くフレデリカの背中にぶつかってしまう。
「ごっ…ごめん!広間に着いたのか?」
「えぇ…でも妙なのよ…まったくと言っていいほど、モンスターの気配がない。」
「ですわ…わたくしの索敵にも何もかからない…」
一同は、広間の入り口で目を凝らし、警戒したまま辺りを見回すが、均等に並ぶ赤い松明以外、何もない空間がそこには広がっている。
すると、ウォタが突然顔を出した。
「気をつけろ…誰かおるぞ。」
「あぁ…いるな。しかも強い…」
ウォタの言葉に、ゼンも相槌を打ちながら顔を出す。
「いっ…いるってどこに?」
「そうよ…ここには誰もいな……っ!?」
「どうした…エッ…エレナ?」
突然、エレナは黙り込み、イノチの問いかけには答えない。
ジィッと前を見据えたまま、その額には汗が滲んでいる。
フレデリカも同じだ。
まったく話さなくなり、前だけ見据えているのだ。
二人ともいつものギラついた眼ではなく、その眼には少し焦りがにじんでいるようだった。
イノチはその視線の先へ顔を向ける。
赤い光が届かない中央の真っ黒な空間。
そこには暗闇しか見えない。
ジッと目を凝らしてみる。
すると、薄らとだが人影があることに気づいた。
それはゆっくりと暗闇から姿を現していく。
出てきたのは…体格からするとおそらく男だろう。真っ黒なフードで顔を隠しており、口元しかわからない。
「人型の…モンスター…ではないよな。」
イノチの疑問には誰も答えなかった。
エレナもフレデリカも、男の雰囲気に恐れを抱いているように見える。
すると、男はニヤリと笑って、イノチたちに話しかけてきた。
「お前たち…プレイヤーだろ?」
「なっ…なんでそれを!!」
イノチは男の言葉に驚愕する。
なぜ、男から『プレイヤー』という言葉が出てきたのか。
理解できずにいるイノチをよそに、男は話を続ける。
「そこの女…よく逃げられたな。助けてくれたのは、そのナイト様か?」
その言葉には、誰も答えない。
男は訝しげにミコトを指差すと、再び口を開いた。
「お前だ、お前。赤いチャイナ服の女!もう忘れちまったのか?」
「え…え…」
「くっ…黒いフード…!?そうか!もしかしてお前、この子を襲ったやつか!?なんでそんなことを!!」
「ハァ…お前に話してねぇんだけど。まぁいい…理由か?そんなもんはねぇよ。同じプレイヤーと知って、とりあえず殺しとこうと思っただけだ…これからに備えてな…」
「これからに備える?なっ…何を言ってる…どういう意味だ!」
男は肩をすくめ、ため息をつきながら、腰に備え付けたダガーを抜き出した。
真っ黒な刀身だが、吸い込まれそうなほど透き通っている。
「別に話に来たわけじゃねえ…お前らにはここで死んでもらう。」
男はゆっくりと歩き出した。
手に持つダガーを上に放り投げ、クルクルと回転して落ちてくるそれを受け取り、また放り投げる。
曲芸のようにダガーを扱いながら、ある程度のところまで近づいてくると、パシッとダガーを受け止めて男は告げた。
「まずは…お前からだ!!」
その瞬間、男はイノチに向かって一直線に飛びかかった。
「うっ…うわっ…!」
「ちぃ…っ!」
「くっ…!」
一瞬でイノチの数メートル手前に迫る男。
男の予想外の速さに、エレナたちの反応が少し遅れる。
フレデリカが、イノチの前で庇う体勢をとる。それと同時に、エレナが男とイノチの対角線上に体を滑り込ませた。
対して、男は特に問題にする様子もなく、突進しながらエレナに向かって、左手に持ったダガーを下から上に振り抜いた。
エレナは、持っていた2本のダガーを抜いて、それを防ごうと構えたが…
キンッ!
乾いた金属音が響き、真っ赤な鮮血がイノチやフレデリカ、そしてミコトの体に飛び散る。
それに気づいたミコトの叫び声が、広間中に響き渡った。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる