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第二章 始まる争い
3話 意外なスキル
しおりを挟むベッドの上で寝転がるイノチ。
手には携帯端末を持ち、何やら操作を行なっている。
「ランク85か…」
小さくつぶやくイノチの目には、プレイヤーランク『85』の表示と、開放された機能『ランク開放』の文字が映し出されている。
"ウンエイ"と名乗る女性の訪問後、一同は気持ちを切り替え、ランクアップのために『ダンジョン』へ潜っていた。
2週間毎日戦い続けた結果は、確実に出ており、イノチはもちろんのこと、ミコトもプレイヤーランクを『80』まで上げることに成功したのだ。
イノチは『ランク開放』をタップする。
画面には所持しているキャラ、装備、アイテムの一覧が表示されている。
その中で、エレナの名前とイノチが装備する『ハンドコントローラー』の文字だけが明るく表示されていた。
「あいつの言うとおりか…『ゲンサイ』、彼はいったい何者なんだ。それに『ウンエイ』…」
考えに浸っていたイノチは、突然ドアがノックされたことに気づいく。
「はーい、いるよ。」
「あっ…あの…イノチくん、私…ミコトなんだけど…」
「ミッ…ミコト…!?どうしたの?」
ドア越しで、何やら恥ずかしげに話す可愛らしい声に、イノチはドキッとして飛び起きると、急いでドアを開けた。
「遅い時間に…ごっ…ごめんね。少し…話せないかな。」
目の前にはピンクを基調としたパジャマ姿のミコトが立っていたのだ。
薄いピンクと白のストライプ柄の上下をまとい、お風呂上がりなのか、髪は少し慣れている。
そして、シャンプーの甘い香り…
「もっ…もっ…もちろん!どうぞっ!」
その可愛らしくも妖艶な雰囲気にドギマギしながら、イノチはミコトを部屋の中へと案内した。
イスを自分の袖でサッと拭き上げ、イノチはミコトをイスへ座らせると、ぎごちない動作で、自分は元いたベッドに腰を下ろす。
なぜかわからないが、鼓動が早い。
イノチは胸に手を置いて、何度か小さく呼吸をした。
ミコトもこういうシチュエーションには慣れていないのか、下を向いており、その耳は少し紅潮しているようだ。
「きょっ…今日はお疲れ様。」
「うっ…うん…」
「ラッ…ランク80まで上がって良かった…ね。とりあえず最初の目標はクリアできた…」
「そっ…そうだね。」
話したいと自分から言ったわりに、ミコトの返事は淡白なものだ。
少しの間、二人に沈黙が訪れる。
「なんか…あった?」
イノチが再び口火を切る。
それに対してミコトは、小さく息を吐き出すと、スッと顔を上げて話し始めたのだ。
「今日のあの女の人の話なんだけど…」
その言葉に、別の意味でイノチの鼓動が鳴る。
「あの時のイノチくん、なんか様子がおかしかったよ…女の人が消えた時、なんかギクシャクしてたって言うか…私たちとは違う反応してた…」
イノチは答えられず、ミコトを見つめていた。
内心では驚いている。
ミコトはあの時、自分の不自然さに気づいていたのだ。
うまく隠したつもりだったが、そんな洞察力を持っているなんて…意外だった。
「そもそも…あの人はなんの目的で来たの?ただ紅茶の話をするためにイノチくんを訪ねて来たんじゃないよね?」
ミコトの顔には、疑心が浮かんでいる。
その勢いにイノチは、唾を飲む。
「"ウンエイ"って、人の名前じゃなくてゲームを管理する側の人たちのことでしょ?でも、この世界はゲームじゃないんだよね?なんでそんな人がいるの?しかも、なんでイノチくんを訪ねてきたの?」
疑心の中に宿る、悲しくも力強い瞳。
それは、この世界の真実を伝えた時と同じ目だった。
彼女の芯の強さが、ひしひしと伝わってくるその目に気圧されながら、イノチは大きくため息をついた。
「正直な話…あのウンエイと名乗る女性がなんで俺のところに来たのかはわからない。」
話し始めたイノチを、ミコトは真っ直ぐと見据えている。
「あの人は俺たちに『ランク戦で生き残ってほしい』って言ったんだ。」
「ランク戦で…?」
「うん。それにはもっとランクを上げろって…『100』まで上げればなんとかなるって。」
「なんでそんなことをイノチくんに…」
首を傾げるミコトに、イノチは話を続ける。
「理由はあるらしいけど…教えてくれなかった。でも…この世界については少し教えてくれたよ。」
「この世界に…ついて?」
「うん…」
・
・
『この世界はいったいなんなんだ!』
『そうですね。当たり前の疑問ですよね。いいでしょう…少しだけ教えて差し上げます。』
ウンエイは、目の前で止まっているエレナを一瞥すると、紅茶のカップをテーブルへ置いた。
『この世界は我々が管理する世界、通称『バシレイア』と呼んでおります。ここには、あなたがいた地球と同じように自然に溢れ、国が成り立ち、人々が生活しています。』
無言で聞いているイノチをよそに、ウンエイは話し続ける。
『最初に聞いたと思いますが、このジパンの他にも、大きい国がいくつかあります。西のリシア帝国と南のジプト法国などです。北のノルデンは少し小さ目ですが、それらも皆、ここと同じように人々が生活している。地球と少し違うのは、科学はあまり発展しておらず、魔法があること。それと人族以外にもモンスターを始め、多くの種族が存在することかしら。』
『ちょっと待て…俺がいた地球には、ダンジョンとかプレイヤーランクとか、そんなもんはないぞ!経験値で強くなるとか…まるでゲームじゃないか!』
『あぁ…それもこの世界の特徴ですね。あなたにわかりやすく言えば、RPGやラノベ的な要素が含まれている…?』
『…っ!じゃあなぜ、中途半端は部分が多いんだ!ステータスやキャラのレベルなんて、RPGとかには重要な要素だろ?!』
『中途半端とは心外ですね…リアリティ、より現実に近いと言ってください。わたしが考えたシステムなのですから…』
声を荒げるイノチに対し、ウンエイは冷静に答えているが、中途半端という言葉には少し反応を見せ、チラリとイノチを見る。
そして、小さく咳払いして、紅茶のカップに手をかける。
『とにかく、私たちはこの『バシレイア』という世界を管理する者で、この世界は地球とは別の世界。そうご認識ください。』
そう言うと、彼女は紅茶を口に運んで一息ついた。
『…じゃあなんで、俺ら地球の人間がこの世界に呼ばれるんだ。しかもゲームを装って…』
『それは言えません。』
カチャッと、カップとソーサーが音を立てる。
『なぜ言えない。』
『それも言えません。』
すまし顔でニコリと笑みを浮かべて、ウンエイはそう答えた。まるで「察しろ」とでも言っているかのように…
『くそっ…なら、ゲンサイとは何者だ。』
『それは教えてもいいですよ。彼はこの世界を一度クリアした元『プレイヤー』。女神の像を集めて、一度元の世界に戻った人間です。』
『一度クリアした元『プレイヤー』…?ならなんで、この世界にいるんだ?』
『詳しい理由は私にもわかりませんが…彼はこの世界に戻りたいと強く願ったようです。』
『強く願った…?それだけで来れるのか…?』
『まぁ、彼がこの世界に戻った経緯など、今となってはあまり関係ありません。問題は彼がクリア当時の強さを持っている、と言うことですね。』
(クリアってことは、ユニークモンスターを全て倒したってことか…それなら、あの強さにもうなずける…)
ウンエイは再び紅茶を口に運んだ。
『そこまではわかった。他にもいろいろ聞きたいけど、どうせ教えてくれないんだろ?』
ウンエイは、カップを持ったままニコリと笑う。
『はぁ…なら、今日は何のために来たんだ?』
『それが本日の本題です。』
ウンエイは丁寧にカップをソーサーの上に置いた。そして、イノチをジッと見つめている。
その顔には先ほどとは違い、真面目な表情が浮かんでいた。
イノチはゴクリと唾を飲み込む。
そして、ウンエイの言葉に耳を傾ける。
『それは『ランク戦』が始まるからです。』
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