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第二章 始まる争い
4話 ゴゴゴゴゴッ
しおりを挟む「『ランク戦』かぁ…」
イスに座るミコトは、足をぶらぶらさせながら、自信なさげに下を向いた。
「うん。いつ開催されるかはまだわからないけど、近々始まるのは間違いないみたい…そして、その『ランク戦』はプレイヤー同士が戦い合って…」
イノチはそこまで言って、口を止めた。
これ以上先を言っても良いことなどない…ミコトの不安をいたずらに煽る必要などないと思ったからだ。
頭を振って気を取り直し、イノチは再び口を開く。
「『ランク戦』を戦い抜くための準備として、明日、みんなに提案しようと思ってたんだけど、その前にせっかくだからミコトに意見を聞いておこうかな…」
「…ん…意見?」
顔を上げるミコトに、イノチは笑顔で話しかけた。
「さっきも言ったけど、『ランク100』を目指す必要性が出てきた…だから、明後日からは『超上級ダンジョン』に挑戦していこうと思うんだ。」
ダンジョンには難易度が設定されている。
現在、『アクセルオンライン』上に現れているダンジョンには、超初級、初級、中級、上級、超上級、超級、神級のダンジョンがランダムに生成され、その位置をマップで知ることができる。
ダンジョンは、難易度が上がれば出現するモンスターも強くなり、階層も多くなる。
しかし、その詳細情報には出現モンスターの情報が記されているし、難易度にも適正ランクが設定されているため、自分たちがどこに挑戦できるか一目でわかると言うわけだ。
『超初級』で虫の大群に追いかけられたイノチは、その設定がどこまで信用できるのか定かではないと思っているが…
とはいえ、あの頃とは違い、ランクを80まで上げたイノチとミコトは、すでに『上級ダンジョン』まで攻略していたのだ。
「『超』がつくくらいだから、敵モンスターの強さも格段に上がる…平均 Lv.は75くらいだね。モンスターのタイプによっては苦戦を強いられるかもしれない。要は危険が増すってこと…どう思う?」
「…そうだね。でも、ウンエイさんの言葉を信じるかどうかは別として、ランク戦に備えて『ランク100』を目指すには、どんどん難しいダンジョンに挑戦していかないとダメだよね。森や鉱山に出るモンスターも、基本的にそんなに強くないし…」
確かにそうだとイノチも思った。
RPGという設定にしては、通常エンカウントするモンスターがそんなに強くない。
倒せばアイテムや経験値はドロップするから、初心者にはもってこいだが、ある程度からのランク上げにはあまり適しているとは言えないのだ。
(まるで効率よくランク上げさせるために、『ダンジョン』があとから追加されたみたいだ…ウンエイたちが管理する世界と『アクセルオンライン』というゲーム。そこに何かあるってことかな…)
「それに…」
イノチが少し考えに耽っていると、ミコトが少し悩んだように口を開く。
「それにね…最近ゼンちゃんがもっと強い敵と闘いたいって言って聞かないんだ。」
「えっ…ゼンさんが…?」
「うん…私は、順序よく進みたいって言うんだけど、強い敵と闘った方が効率的だろって…」
どこかの誰かも同じようなことを言っていたと、イノチは思い返す。
ガチャで手に入れたキャラクターは、血の気が多くなるのか…それとも単にそういう性格のキャラクターを引いてしまったのだろうか…
この世界で仲間になったウォタは、あまりそういうことを言わないから、なおさらそう感じる。
そんなことを考えつつ、苦笑いを浮かべながら、イノチはミコトに声をかけた。
「なら、なおさら明日は喜ぶんじゃないかな。朝食が終わったらみんなに話そう。で、明日は『超上級』のための準備をする!」
「うん、そうだね!」
笑顔で微笑んだミコトに、イノチはついつい見惚れてしまう。
鼓動が高鳴り、耳が熱くなるのがわかる。
ミコトもそんなイノチに気づいて、顔を赤らめてうつむいた。
二人の間に、再び沈黙が訪れた。
時計の針が戸惑いなく、その歩みを進めていく。
虫たちの小さな合唱が、夜風の匂いとともに窓から入り込んできた。
「あのさ…!」
「あっ…あの!」
とっさに上げた声が重なり合う。
「あっ…」
「あ…」
頬を染めたまま、二人の視線が交差し合う。
「ぷっ…ククク…アハハハハ!」
「え…あれ…?」
突然、お腹を抱えながら必死に笑いを堪えるミコト。そんなミコトにイノチは少し混乱気味だ。
「ごめん…ククク…ごめんね…なんかおかしくって。」
「俺…おかしなこと言ったかな…」
「違うの。今みたいに人と見つめ合うなんて、私、今までしたことなかったんだけど…それなのに今は、見知らぬ世界でイノチくんと話してる。」
笑いながら目に浮かぶ涙を指で拭うミコト。その涙がどんな感情から流れたものか、今のイノチに知る由はない。
「ミッ…ミコト、あのさ…」
イノチが何か決心したような表情で、ミコトに声をかけたその時だった。
「ちょっ…あんたたち、押さないで!!倒れる…倒れ…っ!!」
エレナの声が聞こえたかと思えば、バーンッと部屋のドアが開かれ、エレナ、フレデリカ、メイ、そして、ウォタとゼンが雪崩れ込んできたのだ。
「なっ…お前ら!!何やってんだ!!」
「やばっ!!逃げるわよ!!」
エレナの声に、フレデリカとメイ、そしてゼンは一目散に部屋から逃げ出していく。
「お主ら…まっ…まて!」
バンッ!
「なっ…!?」
一歩逃げ遅れ、あたふたと部屋から出ようとしていたウォタの目の前で、扉が突然閉まる。
そして、その横には暗い笑みを浮かべるミコトが立っていたのであった。
「ウォタさん…?」
その背には、『ゴゴゴゴゴッ』という謎の地鳴りが可視できるほどのオーラを放っていたのだった。
◆
「ふぅ…」
"ウンエイ"と名乗った女性は、部屋に入るとフードを外した。
再び、薄暗いモニタールームで、指をパチンッと鳴らせば、メインモニターの画面だけがつく。
その前のイスに座ろうとして、ハッとした。
「首尾はどうじゃ?」
いつの間にか後ろにいる人影。
筋肉質な上半身と腰に巻いた白い布。
顔は…暗くてよく見えない。
しかし、明らかにウンエイの額には汗がにじみ、緊張が溢れ出ている。
「どっ…どうしてこちらへ…いつお戻りに?」
「さっきじゃ…そしたらたまたまお主を見かけてな。…で、どうなんじゃ?」
「いらっしゃらない間に『ランク戦』の開催が決定しました。このままではと思い、先ほど接触を…」
「ふむ…」
男は顎に手を置く。
それに対して、ウンエイはごくりと唾を飲み込んだ。
二人の間に重い空気が流れ、沈黙が訪れる。
そして、再び男が沈黙を破る。
「あいわかった。引き続き頼む…それと…」
「はっ…はい!」
振り返ることができずにウンエイが返事をすると、男は思いついたままを告げていく。
「『解析』の機能はあれでいいのだが、『開発』と『分析』はもう少し性能を強化…それに加えて元ある『書換』の性能も上げといてくれ。」
「かしこまりました…」
その言葉を聞くと、男は口元で白い歯が見えるほどニカッと笑い、「期待しとるよ」と言い残して、暗闇に消えていった。
「相変わらず、突然なお方ですね…」
大きく息を吐き出し、汗を拭うウンエイの目の前では、イノチが映るモニターが煌々と光っていた。
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