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第二章 始まる争い
11話 できること
しおりを挟むミコトたちは破竹の勢いでダンジョンの攻略を進めていた。
現在、20階層。
『超上級ダンジョン』は今までのダンジョンとは違い、階層ボスは5階層ごとに出現するようだ。
各階層で襲いくるモンスターは、エレナとフレデリカ、そしてゼンが薙ぎ払っていく。
しかし、ミコトはというと…
「ミコト!魔法を頼む!」
「えっ…ええっと…あれ…?」
「ボサっとしてないで!フレデリカ、カバーお願い!!」
「まかせろ…ですわ!紅き炎を司りし豪炎の主よ、その力を持って、我らに仇なすものを灰塵に帰せ!インフェルノ・フレアァァァァ!!」
フレデリカの魔法陣から放たれた轟炎が、トロールとアイアンゴーレムたちを包んでいく。
地獄の業火に焼かれ、大きく響き渡るモンスターたちの断末魔。
ミコトはつい耳を塞いでしまった。
肉の焼け焦げた臭いと鉄の溶けた熱気があたりに蔓延している。
「うっ…!」
真っ黒に焼き上がったトロールの死骸。
ドロリと落ちた目玉が見えて、ミコトは吐き気をもよおしてしまう。
「ミコト…大丈夫か?」
「うっ…うん…大丈夫だ…うっ!」
ゼンがミコトに寄り添い、声をかけている。そんなミコトを見て、エレナはため息を吐いた。
「ミコト…大丈夫かしら…」
「あの様子だとまだまだですわ。」
「そうね…まぁ、確かに初体験の時は躊躇するもんだから、気持ちはわかるんだけど…」
「覚悟が足りないのですわ…あの子には…」
「あんた…けっこうスパルタ派なのね。」
腕を組んでそっぽを向くフレデリカに、エレナは苦笑いを浮かべた。
そして、しゃがみ込んだミコトに近づく。
「ミコト…?大丈夫?もうすぐ階層ボスが現れるけど、どうする?
「……」
「…エレナ、ミコトは少し休ませる。階層ボスは任せていいか?」
答えられないミコトに代わって、ゼンがエレナへ言葉を返す。
「えぇ…わかった。二人は少し離れたところで見といてもらえる?」
「あぁ…頼む…」
ゼンに連れられて離れていくミコトの背中を見送ると、エレナはフレデリカの元へと戻る。
「出てきましたわ。」
前をジッと見据えるフレデリカが、顔を向けることなくエレナに声をかけた。
広いフロアの中心に現れた一つの大きな影は、歩く度にその質量を強調している。
額には2本の角、口には鋭いキバがあり、瞳は赤黒く光っている。
筋肉質な体と両手に持つ血痕付きのナタのような武器が、力強さと残虐さを明確にしている。
「あいつは…オーガね。で、やり方は?」
「いつも通りですわ。」
「あんたに譲ってばかりなのは癪だけど…BOSSとはぐれている今、わがままは言ってられないか…」
エレナは、腰から引き抜いた2本の短剣を、クルクルと回転させて逆手に持ち替えると、疾風のごとくその場から駆け出した。
フレデリカも魔力を練り、エレナとの連携に備える。
「まずはお手並み拝見ね!はぁぁぁぁ!」
金属の乾いた音がする。
エレナが放った斬撃を、オーガはナタをクロスさせて防御すると、そのままとてつもない俊敏さで自分の後ろに向き直る。
そして、後方に駆け抜けたエレナに向かってナタを振り下ろした。
エレナはバク転してそれを回避すると、その流れのまま両手のダガーで斬撃を叩き込む。
「ガァォォォォ!!」
肩から血飛沫を飛ばしてうめき声をオーガに対して、立て直す暇すら与えないほどの連撃を繰り出すエレナ。
オーガもナタを振り回し、なんとか応戦しようとするが、エレナの攻撃は全てその間を縫って、自分への体へと襲いかかってくる。
おおよそ1分強の攻防で…いや、一方的な攻撃でオーガは体中から血を垂れ流して満身創痍の状態となる。
「フレデリカ!あとはよろしく!!」
「あいあい!ですわ!」
エレナの掛け声にフレデリカは呼応すると、練っていた魔力を撃ち放つトリガーを口にする。
「轟雷を操りし天の主よ、その力、一条の光となりて…」
フレデリカの周りに、チチチッと黄色い閃光が走り始める。桜色の髪もそれに合わせるように逆立ち始めた。
そして…
「彼の者に降り注がん!!ライトニングボルト!!!」
詠唱と共に一筋の光りがオーガに向かって駆け抜ける。
直撃した瞬間、オーガの体中に電撃が走ると、皮膚を焼く焦げた臭いとともに大きな悲鳴があたりにこだました。
「ギャオォォォォォォォ!!!!」
体の外側と内側から焼き尽くす電撃に、紅い蒸気が空中を霧散する。
なす術なく、真っ黒な塊に成り果てたオーガは、ナタを落とすと膝から崩れ去った。
「いっちょ上がりね。よっと!」
光の粒子となり、消えていくオーガの死骸の跡にドロップしたキバを取り上げ、エレナはフレデリカと共にミコトたちのところへと向かう。
「ミコト…気分はどう?」
「うん…大丈夫。みんなごめんね。」
「気にしないで。誰にでも初めては怖いものよ。でも、やらなきゃ死ぬってことだけは絶対忘れないでね。」
「う…うん…」
力なくうなずくその姿を見て、エレナは何も言わなかった。
すると、代わりにフレデリカが口を開く。
「ミコト…あなた、まだ自分のことしか考えられないのですか?」
「え…?」
「ちょっと…フレデリカ?」
突然の厳しい言葉に、ミコトはフレデリカを見上げる。
「あなたは、自分のことだけ考えていればそれで満足ですの?あなたが死ねば、おそらくゼン様も死ぬ。それを考えたことは?」
「フレデリカ…!それは言い過ぎよ!!ミコトだって…」
「エレナは黙っていなさい!!」
いつもは飄々としているフレデリカが珍しく怒っている。その事に驚いたエレナは、反論できない。
「確かにあなたの命は一人のものではなくなった。けれど、あなたにはゼン様のことを考える義務があるのですわ!それをネチネチと…一人で考え込んで!」
「で…でも、私が戦わなければ、ゼンちゃんも安全で…」
「なにを戯けたことを!ゼン様の強さはあなたのランクに比例することを忘れたのですか?あなたが強くならねば、ゼン様も強くはなれない。それがどういうことか…ミコト、あなたならわかるでしょう?」
「……」
ミコトは、それ以上口を開かない。
フレデリカはそれでもなお、話を続ける。
「BOSSの必死さが、あなたには伝わっていないの?…あなたに対して…わたくしたちに対して…BOSSは常に最善を尽くそうと必死に考えている。それが伝わっていなくて!?」
「イノチ…くん…の?」
イノチの名前を聞いて、ミコトが反応を示した。今度はフレデリカの横から、エレナが口を開く。
「BOSSも現実を知ったとき、ひどく落ち込んだのよ。過去のトラウマに…悪夢にうなされて…」
「だけど、すぐに立ち直った。立ち直って、生き残り元の世界に戻ろうと必死に足掻いている、ですわ。」
「イノチくん…が…」
ミコトは小さくつぶやいた。
目を閉じれば、イノチの顔が浮かんでくる。
常に笑っているイノチ。
辛い表情など一切見せたことがない、彼のその明るさの裏には、いったいどれだけの重圧がのしかかっているのか、ミコトには計り知れなかった。
ミコトは顔を上げる。
「ごめんね…私が間違ってたね。私がイノチくんを支えてあげなきゃならないのに。同じプレイヤーとして、1番気持ちがわかるはずなのに…」
「無理はする必要ないですわ。別に戦えないことを責めているわけではないですもの。」
「フレデリカさん…ありがとう。」
腕を組んだまま鼻を鳴らすと、フレデリカは次の階層への階段へと向かっていく。
エレナも小さく笑うと、その後を追った。
ミコトは手に持つ『エターナル・サンライズ』を握りしめる。
自分にできること…
それを考えながら立ち上がり、二人の後を追った。
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