76 / 290
第二章 始まる争い
11話 できること
しおりを挟むミコトたちは破竹の勢いでダンジョンの攻略を進めていた。
現在、20階層。
『超上級ダンジョン』は今までのダンジョンとは違い、階層ボスは5階層ごとに出現するようだ。
各階層で襲いくるモンスターは、エレナとフレデリカ、そしてゼンが薙ぎ払っていく。
しかし、ミコトはというと…
「ミコト!魔法を頼む!」
「えっ…ええっと…あれ…?」
「ボサっとしてないで!フレデリカ、カバーお願い!!」
「まかせろ…ですわ!紅き炎を司りし豪炎の主よ、その力を持って、我らに仇なすものを灰塵に帰せ!インフェルノ・フレアァァァァ!!」
フレデリカの魔法陣から放たれた轟炎が、トロールとアイアンゴーレムたちを包んでいく。
地獄の業火に焼かれ、大きく響き渡るモンスターたちの断末魔。
ミコトはつい耳を塞いでしまった。
肉の焼け焦げた臭いと鉄の溶けた熱気があたりに蔓延している。
「うっ…!」
真っ黒に焼き上がったトロールの死骸。
ドロリと落ちた目玉が見えて、ミコトは吐き気をもよおしてしまう。
「ミコト…大丈夫か?」
「うっ…うん…大丈夫だ…うっ!」
ゼンがミコトに寄り添い、声をかけている。そんなミコトを見て、エレナはため息を吐いた。
「ミコト…大丈夫かしら…」
「あの様子だとまだまだですわ。」
「そうね…まぁ、確かに初体験の時は躊躇するもんだから、気持ちはわかるんだけど…」
「覚悟が足りないのですわ…あの子には…」
「あんた…けっこうスパルタ派なのね。」
腕を組んでそっぽを向くフレデリカに、エレナは苦笑いを浮かべた。
そして、しゃがみ込んだミコトに近づく。
「ミコト…?大丈夫?もうすぐ階層ボスが現れるけど、どうする?
「……」
「…エレナ、ミコトは少し休ませる。階層ボスは任せていいか?」
答えられないミコトに代わって、ゼンがエレナへ言葉を返す。
「えぇ…わかった。二人は少し離れたところで見といてもらえる?」
「あぁ…頼む…」
ゼンに連れられて離れていくミコトの背中を見送ると、エレナはフレデリカの元へと戻る。
「出てきましたわ。」
前をジッと見据えるフレデリカが、顔を向けることなくエレナに声をかけた。
広いフロアの中心に現れた一つの大きな影は、歩く度にその質量を強調している。
額には2本の角、口には鋭いキバがあり、瞳は赤黒く光っている。
筋肉質な体と両手に持つ血痕付きのナタのような武器が、力強さと残虐さを明確にしている。
「あいつは…オーガね。で、やり方は?」
「いつも通りですわ。」
「あんたに譲ってばかりなのは癪だけど…BOSSとはぐれている今、わがままは言ってられないか…」
エレナは、腰から引き抜いた2本の短剣を、クルクルと回転させて逆手に持ち替えると、疾風のごとくその場から駆け出した。
フレデリカも魔力を練り、エレナとの連携に備える。
「まずはお手並み拝見ね!はぁぁぁぁ!」
金属の乾いた音がする。
エレナが放った斬撃を、オーガはナタをクロスさせて防御すると、そのままとてつもない俊敏さで自分の後ろに向き直る。
そして、後方に駆け抜けたエレナに向かってナタを振り下ろした。
エレナはバク転してそれを回避すると、その流れのまま両手のダガーで斬撃を叩き込む。
「ガァォォォォ!!」
肩から血飛沫を飛ばしてうめき声をオーガに対して、立て直す暇すら与えないほどの連撃を繰り出すエレナ。
オーガもナタを振り回し、なんとか応戦しようとするが、エレナの攻撃は全てその間を縫って、自分への体へと襲いかかってくる。
おおよそ1分強の攻防で…いや、一方的な攻撃でオーガは体中から血を垂れ流して満身創痍の状態となる。
「フレデリカ!あとはよろしく!!」
「あいあい!ですわ!」
エレナの掛け声にフレデリカは呼応すると、練っていた魔力を撃ち放つトリガーを口にする。
「轟雷を操りし天の主よ、その力、一条の光となりて…」
フレデリカの周りに、チチチッと黄色い閃光が走り始める。桜色の髪もそれに合わせるように逆立ち始めた。
そして…
「彼の者に降り注がん!!ライトニングボルト!!!」
詠唱と共に一筋の光りがオーガに向かって駆け抜ける。
直撃した瞬間、オーガの体中に電撃が走ると、皮膚を焼く焦げた臭いとともに大きな悲鳴があたりにこだました。
「ギャオォォォォォォォ!!!!」
体の外側と内側から焼き尽くす電撃に、紅い蒸気が空中を霧散する。
なす術なく、真っ黒な塊に成り果てたオーガは、ナタを落とすと膝から崩れ去った。
「いっちょ上がりね。よっと!」
光の粒子となり、消えていくオーガの死骸の跡にドロップしたキバを取り上げ、エレナはフレデリカと共にミコトたちのところへと向かう。
「ミコト…気分はどう?」
「うん…大丈夫。みんなごめんね。」
「気にしないで。誰にでも初めては怖いものよ。でも、やらなきゃ死ぬってことだけは絶対忘れないでね。」
「う…うん…」
力なくうなずくその姿を見て、エレナは何も言わなかった。
すると、代わりにフレデリカが口を開く。
「ミコト…あなた、まだ自分のことしか考えられないのですか?」
「え…?」
「ちょっと…フレデリカ?」
突然の厳しい言葉に、ミコトはフレデリカを見上げる。
「あなたは、自分のことだけ考えていればそれで満足ですの?あなたが死ねば、おそらくゼン様も死ぬ。それを考えたことは?」
「フレデリカ…!それは言い過ぎよ!!ミコトだって…」
「エレナは黙っていなさい!!」
いつもは飄々としているフレデリカが珍しく怒っている。その事に驚いたエレナは、反論できない。
「確かにあなたの命は一人のものではなくなった。けれど、あなたにはゼン様のことを考える義務があるのですわ!それをネチネチと…一人で考え込んで!」
「で…でも、私が戦わなければ、ゼンちゃんも安全で…」
「なにを戯けたことを!ゼン様の強さはあなたのランクに比例することを忘れたのですか?あなたが強くならねば、ゼン様も強くはなれない。それがどういうことか…ミコト、あなたならわかるでしょう?」
「……」
ミコトは、それ以上口を開かない。
フレデリカはそれでもなお、話を続ける。
「BOSSの必死さが、あなたには伝わっていないの?…あなたに対して…わたくしたちに対して…BOSSは常に最善を尽くそうと必死に考えている。それが伝わっていなくて!?」
「イノチ…くん…の?」
イノチの名前を聞いて、ミコトが反応を示した。今度はフレデリカの横から、エレナが口を開く。
「BOSSも現実を知ったとき、ひどく落ち込んだのよ。過去のトラウマに…悪夢にうなされて…」
「だけど、すぐに立ち直った。立ち直って、生き残り元の世界に戻ろうと必死に足掻いている、ですわ。」
「イノチくん…が…」
ミコトは小さくつぶやいた。
目を閉じれば、イノチの顔が浮かんでくる。
常に笑っているイノチ。
辛い表情など一切見せたことがない、彼のその明るさの裏には、いったいどれだけの重圧がのしかかっているのか、ミコトには計り知れなかった。
ミコトは顔を上げる。
「ごめんね…私が間違ってたね。私がイノチくんを支えてあげなきゃならないのに。同じプレイヤーとして、1番気持ちがわかるはずなのに…」
「無理はする必要ないですわ。別に戦えないことを責めているわけではないですもの。」
「フレデリカさん…ありがとう。」
腕を組んだまま鼻を鳴らすと、フレデリカは次の階層への階段へと向かっていく。
エレナも小さく笑うと、その後を追った。
ミコトは手に持つ『エターナル・サンライズ』を握りしめる。
自分にできること…
それを考えながら立ち上がり、二人の後を追った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる