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第二章 始まる争い
10話 逃走中
しおりを挟む「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「グオォォォォォォォォォ!!」
イノチはいまだに『ウィングヘッド』との鬼ごっこを続けていた。
この階層の通路はかなり整っていたため、走りやすく逃げやすかった。
しかも、迷宮のように入り組んでいたのが幸いだった。
目の前に迫る曲がり角を、無駄なく滑り抜けるイノチ。その通った跡を触手が打ち砕いていく。
「…ハァハァ…一歩タイミングを間違えれば死ぬなこれ!…ハァハァ…くそっ、苦しい!!どうする…このまま逃げ続けても俺の体力が保たない…ハァ…」
「グオォォォォォォ!!」
後ろを一瞥すると、悔しそうな咆哮を上げ、角を曲がってくるの『ウィングヘッド』の姿が見えた。
頭部の羽をキチチッと震わせて追いかけてくる『ウィングヘッド』は、相変わらず地響きと咆哮を上げる。
すると突然、『ウィングヘッド』の前に魔法陣が現れた。
「なんだ…?あいつ、何をするつもりだ!?」
「イノチ…気をつけろ…あれは風魔法の魔法陣だ…」
「風魔法…!?こんな狭い通路で広範囲系の属性魔法とか…!嫌な予感しかしない!!」
首飾りの中から、苦しそうに話すウォタの助言に、嫌な予感がよぎる。
そんなことはお構いなしに、『ウィングヘッド』が発現した魔法陣が、緑色に輝き始める。
「…くるぞ。」
「くそっ!!こうなりゃ一か八かだ!!」
イノチはそう言い放ち、右手に魔力を込め、『ハンドコントローラー』を顕現させた。
走りながらそれを壁に当てると、目の前に画面とキーボード、そしてソースコードのようなものが現れる。
「よしっ!いける!」
イノチは壁のデータを読み取っていく。
走りながら右手のみでキーボードを扱い、視線は画面に向け、目当てのコードを探していく。
一見、簡単な作業に見えるが、これはシステムエンジニアであるイノチだからできる"技"と言っていい。
ガチャをするため、常にアイテムを集める時間を確保できるように覚えた技。
右手でプログラミング作業をしながら、左手でスマホを扱うイノチの姿は、元の世界の職場の社員間では、「Dual Lazy(デュアルレイジー:二刀の怠け者)」と呼ばれていた。
「あった!!『location information(位置情報)』を数メートル先に設定して、ここをこうして…『sinking(沈下)』!!」
イノチは、右手でタッーンと確定する。
その瞬間、『ウィングヘッド』から緑に輝く魔法が放たれた。
それは轟音を上げ、壁や床、天井を切り砕きつつ、イノチへと迫ってくる。
「うおぉぉぉぉぉ!!間に合えぇぇぇ!」
突風と轟音が通路を駆け抜け、崩れ落ちた岩で通路は埋まってしまった。
イノチがいたところにも、岩が崩れ落ちている。
「グォォォ…」
『ウィングヘッド』はイノチの姿が見えなくなったことを確認すると、小さくうめき声を上げて去っていった。
「ふぅぅぅ…とりあえずは助かった…」
敵の気配がなくなったことを、崩れた岩の下で確認したイノチは、大きくため息をついた。
とっさにやった事にしてはうまくできた。
まさかあの一瞬で地面を掘り下げて隠れるなど、あいつも予想できまい。
「…すまぬな…」
「なんでお前が謝るんだよ…」
「…さっきも言ったが、あれは我を狙っておるのだ…」
「…そんなこと言ってたな。しかし、なんでお前を狙うんだ?昔、ここに来たことあるとか?」
「違う…理由を説明するには、我ら竜種のことを話さねばならぬのだが…ぐっ…」
「話を聞くのは問題ないよ。幸か不幸か、時間はたくさんあるからな…でも、大丈夫か…?」
苦しそうにうめくウォタを心配するイノチだが、ウォタは大丈夫だというようにうなずくと、口を開いた。
「我々竜種は、天から産み落とされた"神獣"と呼ばれておる…」
◆
この世界には、"神獣"と呼ばれる種族がいくつか存在する。
リシア帝国で恐れられているセイレーネスやケルベロス。
ジプト法国で神聖視されるスフィンクス。
ジパン国で崇高な存在と崇められる竜種。
他にもいくつかいるが、有名なのはこの辺だろう。
彼ら神獣は、天から舞い降りるとされる。
それは人々にとって、吉兆であり凶(わざわ)いの兆しでもあった。
時代によって異なりはするが、人は皆、彼らを"神の使い"と崇め恐れているのだ。
「他の神獣たちがどうかは知らんが、我々竜種は幼生体で地上に降り立つ。我らが顕現するときは、何かしらの予兆がその国に現れるらしい。基本的には人と絡むことはないが、物好きなやつらも中にはいてな…」
「物好き…?」
「あぁ…神獣の顕現を喜び崇める者たちがいるのだ。例を挙げるならカルモウ一族とかだな。」
「そうか…アキルドさんたち、ウォタにお世話になってるって言ってたな。」
「直接、何かをしてやることはほとんどないがな…話を戻すが、我らは幼生体で地に降りる。そして、モンスターを狩ったりしながら、悠久の時を過ごしていく。その過程で、成体になるタイミングがあるのだが…」
ウォタは少し言いにくそうに口を閉じた。
苦しそうにする青くする顔の中に、別の感情が浮かんでいるのだ。
「ウォタ…無理に話さなくてもいいよ。」
「…いや、大丈夫だ。」
イノチの言葉を聞いて元気が出たのか、再び話を続け始める。
「我々が成体になるには、ある事をせねばならん…その時の結果により、さっきの『ドラゴンヘッド』が産まれることがあるのだ。」
「それがさっきの羽頭のことだよな?竜種の成り損ないって言ってたのも、それに関係あるのか?」
ウォタはうなずいた。
「あぁ…我らが成体になるには、他の竜種の幼生体の核を喰らわねばならないのだ。」
「……っ!?それってさ…もしかして…」
「お主らの言葉で言うなら"トモグイ"ってやつだな。しかし、我らにとっては当たり前のこと…そうやって存在してきたのだ。お主ら人間の物差しで理解されては困る。」
苦しさが浮かぶウォタの表情の中に、曲げられない強い意志を感じる。
「別にダメだと否定する気はないって…びっくりしただけだよ。だけどさ、核を喰われた幼生体って、みんなあんな気持ち悪いモンスターに変わっちゃうの?」
「全てがそうなるわけではない…が、ごく稀に核を無くしても、ああやって意思だけで動き続けるやつがおる。そやつらを通称『ドラゴンヘッド』…無頭竜と我らは呼んでおるのだ。」
「なるほどなぁ…だけど死んだ後も意思だけで体を動かすなんて、どんだけ強い意思持ってんだよ…」
再びウォタが口を閉じる。
その反応を見て、イノチは理由を察した。
自分を狙っているといったウォタの言葉が頭に浮かぶ。
「ウォタ…もしかして、あいつらの持つ意思ってさ…」
「そうだ…我々、竜種への憎悪だろうな。」
「やっぱりかぁ…」
「だから、我を置いていけと言ったのだ。つまらん見栄を張っているから、こんなことになってしまう…バカタレが…」
呪いの効果で苦しみつつも、達者な口は健在だ。
ウォタを心配していたイノチは、小さく笑みをこぼすと、携帯端末をいじり始めた。
「イノチ…何をしとる。呪いの影響で我は力が使えんのだ。遊んどらんで、まずは早くここから出ることを考えんか。」
「ここからの脱出は簡単にできるよ。だけど、先にあいつを倒すための作戦を考えないとなぁ…」
「なっ…!?倒すだと?成り損ないとは言ったが、あれも竜種だぞ!単純な力は我らとほぼ同じなのだ。我が動けぬ状態で、それを簡単に倒すとぬかすとは…狂ったか!?」
「えらい言いようだな。だけど、倒さないとダメなんだよ。だってさ…これ。」
そう言ったイノチは、見ていた端末の画面をウォタに向ける。
「こっ…これは…!!」
『超上級ダンジョン』
【攻略条件】
ダンジョンボス『ウィングヘッド』の討伐
【現在位置】
45階層
【注意】
ボスを倒すまでは、ダンジョン外へ出られません。また、『呪い』もボスを倒さない限り解除はできません。
驚くウォタに、イノチは苦笑いを浮かべていたのだった。
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