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第二章 始まる争い
9話 試練
しおりを挟む「りゅっ…竜種の成り損ないだって!?」
ウォタの発言に驚き、聞き返すイノチ。
「あぁ…そうだ。あれを見てみろ。」
「あれって…?……っ!!」
ウォタが示す先…
そこにいる『ウィングヘッド』が、再び大きく咆哮を上げる。
同時に、体と思われる場所にある房のようなものたちが、大きく揺れてその中がチラついて見えた。
「ドッ…ドラゴンの顔…?!」
イノチの目に映ったもの。
それは小さくしぼんで、皮だけになったドラゴンの顔だったのだ。
「どうして…なんであんなことになったんだ!?」
「その話はあとでだ!今はこいつを倒さねばなるまい!!」
ウォタは『ウィングヘッド』を見据えながら、イノチにそう告げる。
そして、体を大きく変化させたウォタを見るや否や、『ウィングヘッド』は襲いかかってきた。
体についている房の中から、何本もの触手が伸び始める。
ウネウネと動く様は、おぞましいとしか言いようがなくイノチは身震いしてしまう。
その触手が四方八方からウォタへと襲いかかるが、ウォタもさすが竜種といったところ。
魔法や自身のツメ、そして、尻尾を使って何事もないようにさばいていく。
「所詮は成り損ないだ!我の足元にも及ばん!!」
「さっ…さすがはウォタ!!頼りになるぜ!」
ウォタの余裕の様子を見たイノチも、焦りに満ちていた胸をホッと撫で下ろした。
しかし…
グオォォォォォォォォォ!!
突然の咆哮と同時に、『ウィングヘッド』がイノチの方へと体を向けたのだ。
(なんだ…?!俺をみて…る?)
(こっ…こいつ…!もしや…!!)
二人がそう思ったのも束の間、『ウィングヘッド』の体の一部、しぼんで皮だけになったドラゴンの顔の部分から、紫色の魔法が放たれたのだ。
一直線に自分に向かって飛んでくるそれを見ても、イノチは足がすくんで動くことができない。
(やばい…!!食らえば…死…)
とっさに死を覚悟して目をつむる…
そして、大きな爆発音が響き渡った。
「ぐっ…はっ…」
ウォタの声が聞こえる。
恐る恐る目を開ければ、目の前で自分をかばい、その魔法を受け、崩れ去るウォタの姿があった。
「ウォタッ!!!」
「しっ…心配ない…!が、これは呪い…か…」
「のっ…呪い…!?」
イノチが聞き返すも、ウォタは弱々しく体を丸めると、いつもの小さい姿に戻ってしまった。
表情は青く、動悸もしており、今まで見せたことのない苦しそうな表情をしている。
「ウォタッ!!大丈夫か!?」
駆け寄り、ウォタを抱き上げると、それを見た『ウィングヘッド』が再び大きな咆哮を上げた。
それはまるで「ざまぁみろ」とでも言っているかのようだ。
そして、再びイノチたちに向き直ると房から触手を伸ばし始める。
「イッ…イノチ…我を…置いて逃げ…ろ…」
その瞬間、イノチは駆け出していた。
腕の中で弱々しくも、自分を置いて逃げろと叱咤してくるウォタを無視して、全速力で走るイノチ。
後ろで咆哮が聞こえ、大きな体を揺らして地響きと共に『ウィングヘッド』が追いかけてくるのを感じる。
「我を…置いて行けと言っとるのだ!ググッ…」
苦しそうにしながらも、言うことを聞かないイノチに痺れを切らして、ウォタが力を振り絞り声を上げるが…
「ハァハァ…馬鹿なこと言うな!いつも助けてもらってるのに、都合が悪くなったら仲間を切り捨てるなんて…ハァ…そんな最低なことできるか!」
「しかし…やつの狙いは我…」
「そんなん、わかんないだろ!いいから首飾りに入ってて!走りにくい!!」
ウォタを無理やり首飾りの中に押し入れると、後ろから追ってくる『ウィングヘッド』を一瞥する。
「くそったれ!…ハァハァ…なんとか逃げ切って体制を整えないと…!!」
「グオォォォォォォォォォ!!」
イノチと『ウィングヘッド』。
二者による、地下での地獄の鬼ごっこが始まったのだった。
◆
その一方で、ミコトにも試練が訪れようとしていた。
「よっと…!」
自身のレアリティのアップにより、格段に戦闘能力が向上しているエレナは、自分の倍以上あるトロールの横を一瞬で駆け抜け、いとも簡単に切り裂いた。
光の粒子になり、消えていくトロールは大きな目玉をドロップする。
「はい!ミコト、これ!」
それを拾い上げ、差し出すエレナ。
「ヒィィィィ…!!」
ギョロリと反射的に動いた目玉を見て、ミコトはその気持ち悪さに悲鳴を上げてしまう。
「ミコト…もう少し慣れてもらわないと…今はあなたがリーダーなんだから。」
「うっ…うん、ごめんなさい。わかってはいるんだけど…」
「まぁいいわ。アイテムボックス出してくれる?」
エレナの指示に、ミコトは携帯端末を操作してアイテムボックスを開く。
そこに、エレナがドロップアイテムを収納していくのを、ただただ見つめていた。
「ミコト、あなたの職業はメイジですわね?」
「あ…あっ…うん!そうだけど…」
「なら…もっと魔法を使って敵と戦うべきですわ!新しい武器も手に入れたのでしょう?」
「…うん…ごめん、そうだよね…」
フレデリカの言葉が胸に強く刺さる。
みんなの力になりたい…
その気持ちは強くある。
世界の真実をイノチから聞いて、戦いに自分の命がかかっていることも十分理解しているつもりだ。
だが、戦うことに…モンスターという生き物を殺す行為に、どうしても躊躇してしまう自分がいる。
生殺与奪…
そんな世界に自分がいることを、ミコトはどこか信じきれていないのだ。
イノチがいない今、判断は自分次第。
自分の判断が、みんなの生死を握っている。
そう思えば思うほど、心が…気持ちが現実から離れていく。
「ミコト…気にし過ぎるな。」
「ゼンちゃん…ありがとう。でも、大丈夫だよ。」
無理に笑うミコトを見て、ゼンにはその笑顔が苦しく思えた。
竜種であり、今まで人と関わることはなかったゼンだが、ミコトに召喚され、人の心に触れることで、人というものを学んできた。
イノチも含めてだが、彼らに対して思ったことは、一言でいえば「過敏」だ。
敏感、繊細、鋭敏…
外的な要因に影響されやすい生き物だと思う。
ミコトは、イノチよりも格段にその気が強い。今もそれが見てとれる。
特にダンジョンなどでモンスターを相手にしている時は、それが顕著に出る。
しかしその反面、芯は強い。
決めたことは必ずやるし、曲げることはないのだ。
(難儀な生き物であるな…)
ミコトの震える瞳の奥に、揺らぐ炎を感じながら、ゼンは小さくため息をついた。
「グオォォォォォォォォォ!!」
気づけば、この5階層のボスであるアイアンゴーレムが広間に現れ、こちらに威嚇の咆哮を上げている。
ちょうど良い…
無機物タイプのモンスターとは。
ゼンはそれを睨むと、ミコトに声をかける。
「ミコト、やつは私とお前で倒すぞ。エレナ、フレデリカ…君たちにはサポートを頼んでもいいか?」
ゼンの言葉に、二人は笑顔でうなずいた。
ゼンが何を考えているのか、感じ取ったのだろう。
「いくぞ!ミコト!まずはあいつにお前の最大限の魔法をくれてやれ!!」
「うっ…うん!」
『超上級ダンジョン』第5階層。
彼らの…ミコトの戦いもまだ始まったばかりである。
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