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第二章 始まる争い
26話 魔球!イクスプロージョンショット!
しおりを挟む「ふぅ…」
イノチは通路の端にあった岩に腰を下ろして、小さくため息をついた。
アイテムボックスに入れておいたメイ特製のサンドイッチを取り出して、それを半分に分けると、片方をウォタへと手渡す。
「しかし、『呪い』って怖いなぁ…あんな状態なのにお前、ほんとに大丈夫なの?」
「身体的には特になにもない…あいかわらず力は全く出せないが。」
ウォタは受け取ったサンドイッチにかぶりつく。
イノチもそれを見ながら、自分のサンドイッチを口にした。
あの後すぐに『ハンドコントローラー』を使って、ウォタの『呪い』の状態を確認したイノチは、その内容を目にして驚いた。
普段ならば画面には文字列が規則正しくきれいに並んでいるのだが、ウォタのコードは理解不能と言っていいほどぐちゃぐちゃで、多くの部分が文字化けしていたのである。
もちろん、ウォタにかけられた『呪い』を早く解呪したかったイノチは解析を試みたが、すぐには解けそうになかったのだ。
「あれじゃ、『呪い』の解呪にどれだけかかることやら…」
「そんなにひどいのか?」
口をもぐもぐさせながら問いかけてくるウォタを見て、イノチはため息をついた。
ウォタにかけられた『呪い』の解呪は、ここではしない方がいいだろう。
解析にどれだけ時間がかかるかもわからないし、迷宮のように入り組んだ構造をしているこのフロアで、いつまた『ウィングヘッド』と鉢合わせするかもわからないのだ。
(まずはミコトたちと合流しないとな…)
みんなと合流してウォタの『呪い』を解呪し、全員で連携してかかれば、おそらくあいつは倒せるはずだ。
イノチはそう考えながら、ダンジョンの通路へと目を向け直し、現実を思い出してもう一度ため息をついた。
地図もない…
入口から進んできたわけじゃないから、どちらに行けば正しいかもわからない。
『ウィングヘッド』から逃げることだけを考えてきたから、今この場所がどこなのかまったくわからない。
「さて…マジでどうしたもんかな。」
そう言いながら、ふと右手に発現した『ハンドコントローラー』を見て、あることに気がついた。
「あれ?こんなボタンついてたんだ。」
顕現した『ハンドコントローラー』の甲の部分。
そこにある歯車の形のボタン。
アプリや携帯で見かける"設定"のボタンによく似たそれを、イノチは何気なく押下する。
すると、突然画面が立ち上がった。
そこにひとつだけ表示されている『機能』というアイコン。
「おぉ…『機能』か…何が見れるんだろ。」
イノチはそのアイコンをタップする。
右下に『Nowroading』と表示されて、少しすると画面が切り替わる。
そこには、この『ハンドコントローラー』で使える機能の一覧が表示されていた。
「…『書換』と『解析』と『分析』…ハハ、ほんとに『書換』って言うのか。」
ネーミングが、自分のセンスと同じことに苦笑いしながら、画面をスワイプすると、他の機能が目に止まる。
「なんだこれ…『開発』と『削除』?」
いったいどんな機能なのか、頭をひねっているとふと、画面の右上に注意書きのようなものがあることに気づく。
「ん?『アイコンをタップすればその機能の詳細が分かります』…か。どれ…」
『開発』と書かれたアイコンをタップすると、画面が切り替わり、説明書きが表示される。
■機能『開発』について
【概要】
対象において、新たな性質・性能を創り出し、付与することが可能です。
【対象範囲】
触れることができる全てのもの
【使用方法】
対象のコード画面を開き、新たに追加したい性質や性能を書き加える。
「新たな性質と性能…?『書換』とどう違うんだ?」
イノチはさっそく試してみることにした。
近くにあった石を拾い上げて、コード画面を表示させる。
「…えっと、どんな性質にしてみようかな…」
考えながら画面を確認していくイノチ。
〈!up world〉
〈Authority;code zeus〉
〈Special Athy code = ※※※※〉
〈exceed one's competence = "inochi"〉
・
・
〈object name = stone〉
〈add nature/performance = " "〉
〈details/trigger condition = " "〉
〈after hit Enter key 〉
・
・
「なるほどな。ここに追加したい性質・性能とその詳細や条件を組み込むのか。さて、どうするかな…そうだ!」
少し考えると面白いことを思いついた。
「まずは性質として『explosion(爆発)』を追加して…条件は…『impact(衝撃)』っと!」
エンターキーを押下すると、持っていた石は少しの輝きを放って、再び元の石に戻った。
すると、サンドイッチを食べ終え、満足気なウォタがイノチに声をかける。
「何をしとるんだ?」
「これか?ちょっとお楽しみっ!」
イノチは、そう言って一度石を上に放り投げた。
「ただの石ではないか。」
「そうなんだけどさ、この石をこうやって投げてみると…」
最高点に達した石は、再びイノチの手のひらに落ちてくる。
イノチはそれを投げるつもりで、一度キャッチした瞬間…
ボンッ
「ギャッ!!」
「……お主、何をしとるんだ?」
突然、手のひらの中で石が暴発。
その痛みで手を押さえるイノチを見て、ウォタはあきれたように声をかける。
「っ痛ぇぇぇ!なんだよ、これ…?!」
「いったい何がしたかったんだ…」
「いやさ、この『ハンドコントローラー』に新しい機能がついてたから試そうとして…」
イノチはことの顛末をざっとウォタへ説明する。
「なるほどな…なんだかよく分からんが、それはものすごい力だな。…で、それを試そうとしてこうなったと…」
「そうなんだ!危うく手のひらが吹っ飛ぶところだった…」
涙目で手にフゥフゥと息を吹きつけるイノチ。
しかし、次のウォタの言葉を聞いて赤面してしまう。
「その条件とやらはもっと細かく入れないといかん、そういうことなのではないか?」
「うっ!…そりゃそうだよな…トホホ」
システムエンジニアとして、恥ずかしい限りである。
プログラミングと一緒だと考えれば、細かく条件を指定しなければならないのは必然だ。
しかし、単なる石に『爆発』の性質を付与できるとは、なんとも恐ろしい力である。
イノチはポーションで手の傷を癒して、別の石を拾い上げると、再び画面を開いて追加する性質を細かく入力していく。
途中、コードの一部が目に入り、それを読んだイノチはゾッとした。
・
〈add nature/performance level = lowest〉
・
(これ…もし最大に設定されてたら…)
生唾を飲み込みながら、イノチはレベルを『middle』に設定した。
「よし!これで完成だ!」
「どれ…やって見せてくれ。」
エンターキーを押して、改めて設定し直した石を持つイノチは、ウォタの言葉にうなずくと、大きくピッチャーのモーションをとる。
そして…
「魔球!!イクスプロージョンショットォォォォ!!!」
まるで厨二病とも捉えられかねない言葉を発して、イノチはその石を大きく投じた。
大きな弧を描いて、その石は通路の反対側へと飛んでいき、大きめの岩にコツンと音を立ててぶつかった。
その瞬間…
ドゴォォォォォォォォォォン!!!!
轟音とともに真っ黒な煙と炎が上がり、少し遅れて熱気を交えた風が体を包み込んでいく。
「おお!これはなかなか…」
「……」
ウォタが歓喜の声を上げているその横で、小さな石つぶてが足元にパラパラと飛び散るのを横目に、イノチは苦笑いを浮かべて遠くを眺めていた。
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