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第三章 ランク戦開催
12話 出血大サービス
しおりを挟む「絶対にお前らと一緒に、風呂には入らん!!」
鼻に詰め物をしたイノチは、たいそうご立腹のようで、腕を組んでそっぽを向いていた。
その顔は少し青白くげっそりしている。
しかし、イノチの様子を気にする素振りもなく、エレナもフレデリカもアレックスも目の前のテーブルにモエが丁寧にお皿や茶碗を並べていくのを楽しげに見ている。
時間は30分ほど前に遡る。
・
カポーンッ
「ふぅわぁぁぁ…」
鼻をつく硫黄の香りが心地よく、吸い込む蒸気の温かさに胸が満たされていく。
周りには誰もいない。
広々とした湯に一人浸かるイノチは、大きく息を吐いた。
「さて、まずは情報収集からだなぁ…あ"ぁ"ぁ"ぁ"~」
あまりの心地よさに、どこから出しているのかもわからない声を上げるイノチ。
長旅と見知らぬ土地での緊張感は、気づかないうちにイノチの体に疲れを溜めていたようだ。
「まぁ~た、おっさんみたいな声出しちゃって!」
イノチが口までお湯に浸かって、至福の時間を楽しんでいると突然、どこからともなく声がかけられた。
そちらに目を向ければ、高い壁の上でエレナ、フレデリカ、アレックスの三人が顔を出している。
「なっ!?お前ら、また!!のっ…覗くなよな!!」
「いいじゃない!減るもんじゃないし!ねぇ、アレックス?」
「ねぇ~♪BOSS、せっかくだからみんなで入ろうよぉ♪」
恥ずかしさから、体を隠すような仕草をするイノチに、三人はニヤニヤと笑みを浮かべている。
「バカ言ってんじゃない!!一緒には入れません!!第一、この旅館には混浴はないだろ!」
「そうなんだけど、アキナイが手を回してくれて、今はあたしたちだけの貸切みたいなのよ!さっき女湯の脱衣所で、モエさんが教えてくれたわ!」
ーーーアキナイさん、余計な気を回して!
イノチは、アキナイの顔を思い浮かべると頭を抱えた。
しかし、今回は女性陣の挑発に負けていないイノチ。
「わかった!そうまで言うなら、入ってこい!その代わり、タオルを巻くのはダメだ!これはBOSS命令な!!」
「はぁ!?何言ってんのよ!バカじゃないの!?」
「BOSSのエッチィィィィィィ!!!」
エレナとアレックスは、キィキィと不満の声を張り上げる。
「それが嫌ならこの話は無しだ!!そっちでゆっくり入るように!!」
言ったやったぜと言わんばかりに、腕を組んで満足げにするイノチだったが、ひとつだけ誤算があるとすれば彼女の存在だろう。
「なら、わたくしは行きますわ。」
「フッ…フレデリカ?!」
たゆんと大きな果実を揺らして、男湯に降り立ったフレデリカは、ゆっくりとイノチの方へ歩いていく。
「まっ…待て!フレデリカ!!ごめん!俺が悪かったから、女湯に戻ってよ!!」
「BOSS命令なのでしょう?それはできませんですわ。」
部分的に湯気に隠れてはいるものの、凶暴な武器を身にまとったフレデリカ。
「BOSS?鼻血がでてますわ。」
「え…」
案の定、イノチは鼻血を流して、そのまま意識を失って大の字に倒れ込んだ。
満足げに腕を組むフレデリカ。
たゆんと二つの果実を揺らして笑っていると、ふと、あることに気がついた。
「エレナ、アレックス!指輪が光ってますわ!」
イノチの指で、レンジから受け取った指輪が赤く光っていたのだった。
・
「で、あの優男はなんて?」
一気に飲み終えたお味噌汁の茶碗をおくと、エレナが口を開いた。
「明日、朝一番に港にある倉庫で集会が開かれるから、そこに来てくれってさ。」
イノチはふわふわのだし巻き卵を箸でつかむと、それを口へ放り込む。
噛むごとに染み出す出汁が、口いっぱいに広がっていき、イノチの荒んだ心を温めていく。
「内容はなんですの?」
「…ん。来ればわかるってさ。」
「何よそれ。本当に胡散臭い奴だわ…BOSSも少しは疑いなさいよね!」
厚揚げをつまみながら手を上げるイノチに対して、エレナは不満げに頬杖をついた。
「まぁ、行ってみればわかるなら、それでいいじゃん。指輪の通信は誰に聞かれるかわからないからって、レンジさんも言ってたし。俺たちがやろうとしているのは、そういう類のことなんだ。それに、今の俺たちに選択肢はないからね。」
イノチは厚揚げを口に放り込むと、満足げに咀嚼する。
「エレナも少し落ち着くのですわ。BOSSの言うことも一理ありますし…『じゃの道は蛇』と言うことですわ。」
「…ふん。」
そっぽを向いたエレナの視線の先には、煮物を美味しそうに頬張るアレックスの姿がある。
座布団の上で背筋をピンと伸ばし、丁寧に正座したまま、行気良く食べる横姿に、エレナは萌てしまう。
「エレナさん、怒ってばかりいないで、これ食べてみて♪この煮付け、本当においひいよぉ♪…ハムハム」
(うぅぅぅ…だめね。アレックスには勝てないわ…)
頬を赤らめて、アレックスに言われたとおり、煮付けをつまむエレナを見て、イノチはクスッと笑うと、湯呑みをテーブルに置いた。
「ということで、今日は早めに寝ようと思います。」
・
携帯端末から通知音が小さく響く。
皆、寝静まっており、それに気づいたのはイノチだけ。
イノチは枕元にある端末を手に取ると、『1』の表示がついたメッセージボックスを開いた。
送 信 者:ミコト
タイトル:
本 文:もう寝たかな………
そのメッセージをタップして開く。
画面が変わり、つらつらとミコトからのメッセージが書き記されている。
『もう寝たかな?起こしちゃったらごめんね。少し不安でメール送っちゃった。』
イノチは返信をタップして、素早いタイピングで、ミコトへの返事を送る。
『今寝ようとしてたところだよ。大丈夫?』
そのメッセージに既読のマークがつく。
そして、すぐに返事が返ってきた。
『ごめんね。明日のことを考えると、どうしても不安が拭えなくて。タケルくんは頼りになるのはわかってるし、ゼンちゃんもいるから大丈夫なはずなんだけど。』
イノチはすぐに返信する。
『あまり考えすぎちゃダメだよ。もしプレイヤーたちが賛同してくれなくても、それは失敗じゃないんだから。得体の知れない奴に襲われたから、不安もあるだろうけど、ミコトならそんな奴には負けないよ!大丈夫さ!』
『うん、ありがとう。少し元気が出たよ。そっちは大丈夫?』
メッセージを打つイノチの手が、一瞬止まった。
が、思い直してすぐに返信を送る。
『大丈夫、大丈夫!エレナたちがいるしね。こっちはうまくやるから、心配しなくて大丈夫だよ。』
少しだけ間を置いて、ミコトから返信がくる。
『そっか。遅くにごめんね!明日はこっちも頑張るから、イノチくんたちも気をつけて。おやすみ。』
『うん、ありがとう。おやすみ。』
やり取りを終えたイノチは、端末を手に持ったまま、ドサっとその腕をベッドに落とした。
窓の外に夜空が広がっている。
夜の晴天はとても綺麗で、一面の星たちが小さく瞬いている。
(大丈夫…か。ハハ…強がるなよな、俺。)
ミコトにはああ言ったが、自分も不安は拭えていない。
それが本音だった。
明日、レンジたちの話を聞いて、自分はどう考えなければならないのだろう。
目的のために、何が為せるのか…
目的を成就させるために、何を為さないといけないのだろう…
考えれば考えるほど、不安が心を支配していく。
イノチは寝返り、窓の方へ体を向ける。
(君たちはどう思う?)
瞬く星に問いかけても、答えなんか返ってくるわけではない。
わかってはいたが、ついついそう考えてしまったイノチに対して、星が一つ煌めいた。
(ハハ…弱音を吐くなって?そうだよな。)
そう言っているような気がした。
ただ、それだけだったが、イノチは少しホッとしていた。
心の中でありがとうと呟いて、体の向きを変えると、イノチは目を閉じた。
皆の寝息が聞こえるほどの静寂。
そして…
切り裂くようないびきが、イノチの耳の中に響き渡ったのである。
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