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第三章 ランク戦開催
11話 〇〇へのいざない
しおりを挟むレンジたちとの話を終えて、宿屋に戻ったイノチは、ベッドの上で開いた携帯端末と睨めっこしていた。
フレデリカとアレックスは、茶菓子をおいしそうに頬張っている。
縁側の座椅子に座り、頬杖をついてお茶をすすっているエレナは、ふとイノチへと声をかける。
「BOSS?さっきから何を難しい顔をしているわけ?」
「ん?あぁ…タケルとトヌスからのメッセージを確認したたんだ。」
「…メッセージ?」
「うん。フレンド登録してる場合は、相手に直接伝えたいことを送ることができるんだけど、クランメンバーにはグループでメッセージを…つまり、まとめて伝言が可能ってわけ。」
途中から興味がなくなったのか、エレナは「ふーん。」と言ってお茶をすすった。
「リアルタイムに伝言を送ることができるのは、すごいことですわ。ちなみに二人からはなんと?」
反対に、興味を持ったフレデリカが聞いてくる。
アレックスは、いまだにおいしそうに口をもしゃもしゃしている。
「タケルたち『タカハ』組は、少し大きめのクランのリーダーと知り合えたみたい。明日交渉するってさ。トヌスの方は、ロドたちを軍に入隊させたらしい。それぞれの得意分野を活かして、ジパン国の人手不足の解消を目指すって。シャシイさんにも話はついてるみたいだな。」
「順調…と言っていいのかしら?」
「そうだな。ただ、問題もいくつかあるみたい。」
「問題…?」
耳を傾けるエレナとフレデリカ。
イノチは携帯端末をしまい、近くの座椅子に座ると自分のお茶をすする。
「まず『タカハ』組についてだけど、昨日の夜、得体の知れないレイピア使いに突然襲われたらしい。」
「…襲われたですって!二人に怪我は?」
「とりあえずは大丈夫みたい。タケルが撃退したらしいけど、どこの誰かも不明だと…」
「しかし、なぜ急に襲われたのでしょう。こちらの考えが他国に漏れているのでしょうか…」
「おそらく、それはないと思うよ。」
お茶をすすりながら、答えるイノチ。
「なんでですの?」
「だってさ、俺たちの作戦がバレているなら、なんで『タカハ』組だけ襲うんだ?俺たちも、トヌスだって襲われてもいいだろ?今回の作戦で一番重要なのは俺たちだ。そこを狙わずにタケルたちをってのは、あまり納得いかないからね。」
「確かにそうね。野盗の方ならともかく、ミコトたちを狙う理由はあまりないわね。非効率だし…」
「…トヌスおじさんたちを狙う理由ならあるってこと♪?」
「ですわね。ジパン国への依頼文書を持ったトヌスを襲う方が、わたくしたちにとっては痛手ですもの…」
「そういうこと。」
「…で、他の問題は何?」
再び、茶碗を持ち上げると、エレナが問いかけてくる。
一口、お茶をふくむと、ゆっくりと飲み込んでホッと一息つくイノチ。
「もう一つは、トヌスの方だ。『トウト』の街には、どうもクランっぽいものがないらしいんだよ。だから、プレイヤー一人ずつに声をかけるしか、方法がないみたいなんだ。明日、ギルドに行ってみるとは言ってるけど…」
「意外ですわ。この国の中心都市である『トウト』こそ、大きな組織が拠点を置いておいてもよさそうですのに。」
「おそらくなんだけど、最初のスポーン地点が関係してるんじゃないかなと思う。」
「スポーン地点…?ってなによ。」
首を傾げるエレナに対して、もう慣れたといった素振りでイノチは話を続けていく。
「エレナは覚えてるかな?初めにこの世界に来たときのこと。」
「えぇ、覚えてるわよ。森の中に降り立った時のことでしょ。」
「そう、最初に現れた場所。それがスポーン地点ね。」
なるほどとうなずくエレナを見ながら、イノチは説明を続ける。
「あの時さ、アリエルって天使からは、最初の国を選べとしか言われなかった。てことは、その国のどこに降り立つかはランダムってことになる。結果、送られる場所はどこかもわからない森の中だった。では、ここで問題です。見ず知らずの場所に突然連れて来られた人が、最初に考えることってなんでしょうか?」
「やったぁ♪またなぞなぞだねぇ♪」
喜ぶアレックスに微笑みつつ、解答を待つイノチに、エレナが答える。
「簡単よ。人里を探す…でしょ。」
「あぁ!早いよぉ~エレナさん(泣)」
目に涙を浮かべて、悔しそうにするアレックス。
エレナは、困ったようにアレックスをなだめている。
イノチは苦笑いしつつ、説明を続ける。
「エレナの言うとおり、答えは『近くの街』だ。」
「確かにそうかもですわ。でも、それと『トウト』の件にどんな関係が?」
「これ、普通のゲームじゃないし、人の心理的に最初の街を拠点にしたがると思うんだよ…現に俺もそうだからね。となると、自然に最初の拠点の街で、クランを作るようになってくる。」
「なら、『トウト』の近くにスポーンするプレイヤーが皆無ってことになりますわ。BOSS…それは推測でしかないのですわ。」
「確かにそうだね。だけど、ミコト、タケル、ゲンサイに聞いたら、みんな最初のスポーン地点は『トウト』以外の街の近くらしいんだよ。俺も含めた四人とも、そうなるのはまぁまぁな確率じゃないか?」
フレデリカは、頭の中で何かを計算しているようだが、イノチはそのまま話を続けていく。
「まぁ、その辺は置いておくとして、結果『トウト』にはクランがないから、仲間に加えるのも一苦労しそうだったことだな。それに、もう一つ気になることがあるんだよね。」
「まだあるの?」
エレナが面倒くさそうにため息をつく。
「あぁ、これが一番重要な気がするんだけど…トヌスの奴、見知らぬ女性にアイテムをもらったらしいんだ。」
「見知らぬ…女性?」
「アイテム…?」
「ねぇねぇ、BOSS♪どんな人なの♪その女性って♪」
訝しむ二人をよそに、一人楽しげに聞いてくるアレックスに、イノチは微笑んだ。
「白装束で、顔は隠してたから見えなかったんだとさ。もらったものは煙管(キセル)だって。」
「ふむ。想像するに、BOSSが会った神の使いとやらの仲間では?」
「俺もそう思ってるよ。でも、なんでトヌスだけに…」
「その煙管は使ってみたわけ?あの野盗は。」
「怪しさマックスで、使い兼ねてるみたいだな。」
「ちっ…相変わらず、肝っ玉の小さい男ね!」
「ハハ…」
腕を組んで鼻息を荒くするエレナに、苦笑いを浮かべるイノチは、小さくため息をついた。
「トヌスには使ってみるように話してるから、そのうち結果を教えてくれるだろうさ。とりあえずは、各チームの現状はそんな感じだね。」
「了解よ。で、あたしたちはこの後どうするの?」
お茶をすするイノチへ、エレナが問いかけた。
「とりあえず、この指輪が光るのを待たないと…ってとこかな。レンジたちの状況とか、いろいろ情報を集めないと何にも決められないからね。」
「なら、お風呂にしましょう!」
「ですわ。」
「やったぁ♪温泉っ♪温泉っ♪」
「あ~、俺はいいや。飯食べてからで…調べたいこともあるし。」
「ダメよ、BOSS。」
再び、携帯端末を取り出そうとしたイノチに、エレナが言い放つ。
「なんでだよ。後でちゃんと入るよ。」
「そういう問題じゃないわ。リシアではみんなで行動する。そう言ったのはBOSSでしょ!」
「うっ…」
「確かにそうですわね。」
「BOSSも一緒に行こうよぉ~♪」
「ちぇっ!わかったよ。行くよ行くって!!」
三人に見つめられて、居心地悪そうにしていたイノチは、携帯端末を懐にしまい直した。
観念したイノチを見て、満足げにエレナとアレックスが準備を始め、フレデリカもそれに続いていく。
小さくため息をつくイノチであったが、この後、出血大サービ…コッ…コホン。
出血多量で死にかけることを、彼は知る由もなかった。
次回に続く。
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