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第三章 ランク戦開催
15話 トラウマ
しおりを挟む広間に着く直前に、イノチはスタンと再開した。
彼女は、エレナたちが救ってくれた自分の仲間たちを、避難させているところであった。
「スタンさん!大丈夫ですか?!」
「イノチさん!よかった…見ての通り、怪我を負った者がいますが、幸い命を落とした者はいません。これもすべて、イノチさんやエレナさんたちのおかげです。本当にありがとうございます。」
「よかったぁ!これ、治療に足りなかったら使ってください。そういえば、レンジさんはまだ来てなかったんですか?」
「彼はある用事のため、ここへの到着が少し遅れていたみたいなんです。だから、この襲撃には巻き込まれていません。今から合流する手筈になっています。」
「そうですか…安心しました。」
ちらりと手元のウィンドウに目を向けると、緑の点が3つに並んだ赤色の点へと向かい始めている。
「イノチさんはどうされるのです?」
「エレナたちが、敵の指揮官の相手をしているので、その様子を見にいきます。皆さんは先に避難を。」
「わかりました。私は仲間を搬送したら、また戻って参ります。皆さんを元の場所へ案内せねばなりませんから。」
「なら、帰ってくるまでに終わらせておきますね。」
その言葉を聞くと、スタンはうつむいた。
「…イノチさんたちを招いたその日に…こんな…本当に申し訳ない。」
「レンジさんと話した日から、俺たちは皆さんの仲間になったと思ってます。大丈夫ですから、早く避難を。」
「わかりました。リーダーがイノチさんたちにお礼をと言っていました。どうか、私が戻るまで、ご無事で…」
スタンはそう言うと、頭を下げ、担いだ仲間とともに奥へと避難していった。
その背を、イノチは静かに見つめていた。
すると、エレナたちとプレイヤーとの会話が、通信を介して聞こえてくる。
『お前ら…ザ…何もんだ?』
『誰でもいいじゃない…ザザッ…』
イノチはその声を聞いて、違和感を感じた。
懐かしくも、嫌な感じがするその声について、頭のどこかで引っかかるものがある。
『レジスタンスの仲間か?…ザザッ…プレイヤーじゃねぇのは間違いないな。』
『…ザッ…わたくしたちのことなんて、どうでもよろしいのですわ…ザザッ…あなた方の仲間は皆、戦闘不能…どうされますですわ?』
(…この男の声。どこかで…)
『別にそいつらがやられたからって…ザ…俺らが逃げる理由にはならねぇよ。』
声の怒気が強まると同時に、鞘から剣を抜く金属音が聞こえてきた。
(この人を挑発するような口調…やっぱりどこかで聞き覚えが…くそっ、誰だっけ。)
後に続くエレナのため息と、小さく聞こえるダガーを手に取る音。
『間違って死んじゃっても、恨まないでよね!…ザ…』
通信を介して、両者の間に緊迫した雰囲気が漂い始めていることが、イノチにも感じ取れた。
イノチは広間へ足を急がせる。
しかし、次の言葉を聞いた瞬間、イノチは頭も体もその声に支配され、立ち止まってしまった。
『これだ、これ!!俺がやりたかったのは!!反抗勢力を押さえ込むことなんかじゃねぇ!!こういうヒリヒリしたバトルなんだよ!!』
「この…声…あっ…赤…西…?」
それがわかった瞬間、体が強張っていくのがわかった。
腹部に強制的に力が入り、内容物が押し上がってくる。
「…ウッ…うおえぇぇぇ…」
吐瀉物を口から撒き散らしながら、イノチは膝に手をついて、何度も何度も大きく息をする。
再び襲いくる吐き気に抗おうとするが、体がそれを拒む。
心臓の音が大きく聞こえてきた。
視界がチカチカして、思うように体が動かせない。
片膝をつき、肩で大きく息をするイノチ。
頭の中をグルグルと、ある言葉がグルグルと回っていた。
『勝屋ぁ~ここから飛び降りれるだろ?カカカ…ヒリヒリするよなぁ。』
・
キーンコーンカーンコーン…
4限目が終わりを告げる鐘の音が、校内に響き渡る。
教師が授業の終わりを告げると、生徒たちは席を立ち始め、グループで集まり始める。
お弁当を開く生徒や学食へ向かう生徒たち。
その中でイノチは一人、自分の机でお弁当と参考書を開く。
卵焼きを箸でつまみ上げ、口へと運ぶと、参考書に目を落とした。
「勝屋!また昼休みも勉強かよ。精が出るねぇ!」
目の前のイスにどさっと座り、そう話すのは、クラスの田中だ。ニヤニヤと笑みを浮かる彼に対し、イノチは目を向けることなく返事をする。
「この前、高1で全国模試一位をとれたのは奇跡だよ。あれくらい余裕でとれるようにならないとさ。」
「学校一の秀才は言うことが違うねぇ。まっ、俺にはあんまり関係ないけどな。」
「お前はもう少し頑張れよ。今回の結果はどうだったんだ?」
イノチの言葉に、田中は鼻を鳴らす。
「下から数えた方が早いだろうな。」
「お前は何のためにこの高校に入ったんだ。」
田中は悪びれなく笑うと、学食へ行くとイノチに告げて席を離れていった。
再び参考書に目を落とすイノチ。
しかし、廊下に出た田中が誰かに気づいて、そそくさと逃げていったことには気づかなかった。
その人物が入ってくると、教室が少しざわついた。
「よう!勝屋。」
「え?…あっ」
目の前に別の生徒が座る。
「赤西くん…なっ…何か、用?」
赤西たつや。
赤と黒のツートンカラーの髪と、笑うと目立つ犬歯が特徴的な男子生徒が目の前に座り、ニヤニヤと笑っている。
その横には長身の青い髪の生徒と、金髪ピアスの小太り生徒が、同じように笑いながら立っていた。
「お前さ…この前の全国模試で一位とったんだってな!スゲーじゃん!!」
「あっ…ありがとう。」
「それでさ、もしよかったら俺に勉強教えてくれねぇ!?」
「…え?でっ…でも、赤西くんだって模試では二位だったよね…?俺が教えることなんかないんじゃ…」
その言葉に、赤西はイノチにわからないように舌打ちする。
「そんなこと言うなよ!いいだろ?友達のために人肌脱いでくれたって。」
「う…うん、わかったよ。」
ニヤリと笑う赤西。
「なら、放課後な!迎えにくるから、教室で待っててくれ。」
立ち上がりながら、イノチへとそう告げると、他の二人とともに赤西は教室から出ていった。
・
イノチはフラフラと屋上への階段を上がっていく。
その表情は暗く、生気は感じられないほどに憔悴しているようだった。
階段を登りきり、屋上への扉を開けと、太陽が街を、そして、校舎をオレンジ色に染めている様子がうかがえた。
そのまま歩き、屋上の端までくると、目の前のフェンスに手をかける、
ゆっくりとフェンスを乗り越えると、イノチは外側の縁に足を下ろした。
柔らかな風が、体の周りを吹き抜けていく。
パタパタと音を立て、制服を揺らしていく風の先には、赤西の姿があった。
後をつけてきたのか、フェンスを挟んで立つ赤西の顔には、笑顔が浮かんでいる。
「飛び降りるのか?」
赤西の問いかけに、イノチは答えない。
「考え直すか?」
言葉とは裏腹に、顔には笑みが浮かんだままだ。
「なんで…こんなこと…」
「なんでこんなひどいことするのかって?」
赤西は笑みを深める。
「お前が悪いんだぜ。ここでの一番は俺なんだ。それをお前が…お前が奪ったんだからな。」
「おっ…俺は何も…何もしてないじゃないか。」
赤西の笑みが大きく歪んだ。
「お前はわかっていないぜ、勝屋。ここでは俺が一番だって言っただろ?お前は模試で一位を取った。俺から一番を奪ったんだ。」
「そっ…そんなことで…こんな…」
「そんなことだと?!俺にとってはそんなことなんかじゃねぇ!お前が一番になったことで、俺は勉強では二番になっちまった!わかるか!?周りの期待はおまえに向いてんだよ!俺じゃなく、お前にな!」
赤西の顔がどんどん歪んでいく。
イノチはその表情に狂気を感じていた。
「勝屋ぁ~ここから飛び降りれるだろ?カカカ…ヒリヒリするよなぁ。お前がいなくなれば、また俺が一番だ。なぁ、勝屋!!」
イノチはその瞬間悟った。
触れてはいけないものに、自分は触れたのだと。
あらぬうわさや身に覚えのない疑いがかけられたイノチにとって、ここにはもう居場所はない。
イノチは残された一つの選択肢を遂行する。
高2の冬。
イノチは校舎の屋上から飛び降りた。
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