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第三章 ランク戦開催
25話 トヌスのカウンセリング
しおりを挟む「ほら、食えよ。」
トヌスは目の前に置かれた料理をヘスネビに差し出した。
今、二人がいるのは『ガムルの沈黙亭』。
まだまだ朝は深く、街は眠りについているが、トヌスはヘスネビを連れてこの店を訪れた。
この時間帯なら人気もないし、ガムルは仕込みで起きているはずと思ったからだ。
そして、ガムルは事情を話すと、二人を快く受け入れてくれたのだ。
「食えよ。腹減ってんだろ?」
「…」
ヘスネビはうつむいたまま、何も話さない。
その様子を見たトヌスは大きくため息をつく。
「ガムルの旦那が作った飯だぞ。食わねぇと…わかってんだろ!?」
ヘスネビはハッとして、小刻みに震え始めた。
チラリとカウンターに目を向ければ、ガムルが仕込みを終えたのか、腕を組んでこちらを睨んでいるように見える。
「ひっ!わっ…わかった!食べる!食べます!!」
焦ったように手を動かし始めたヘスネビは、目の前の料理を片っ端から口に詰め込んでいった。
トヌスがカウンターの方へ目を向ければ、ガムルが腕を組んだまま親指を立てている。
クスッと笑うとトヌスは改めてヘスネビに声をかけた。
「それ食ったら、今度はスネク商会へ行くぞ。」
「ふわぁ…!?うっ…ブハェヘッ!!…ゴホッゴホッ!」
思いもよらない言葉に、ヘスネビは口の中身を吹き出してしまう。
咳き込みながらチラリとガムルを見ると、吹き出したことに怒っているように見える。
「てっ…てめぇ!何言い出すかと思えば!!おかげで飯を吹き出しちまったじゃねぇか!!」
「おぉ…悪りぃ。そんなに驚くとは思っていなかったからな。」
イスにもたれかかり、小さく笑みをこぼすトヌスに、ヘスネビは声を荒げる。
「なんで商会に行かなくちゃなんねぇんだ!!俺は縁切られて追い出された身なんだぞ!?」
「だからだよ。」
そう告げるトヌスの表情は真剣そのものだった。
ヘスネビは言葉にできず、なんとも言えない表情を浮かべたまま黙り込む。
「お前にとって、スネク商会ってその程度のものだったのか?」
「…うっ」
「お前は本当にこれでいいんだな?」
「そっ…そんな…そんなこと…」
真剣な眼差しでそう語りかけてくるトヌスの言葉に、ヘスネビは悔しげな表情を浮かべ始める。
「このままだと、"最低な野郎"というレッテルを貼られたままだぜ?スネク商会の中では、ヘスネビっていう最低な野郎がいた。その事実しか残らねぇぜ?」
「わかってる…そんなこと…わかってんだ…」
「確かに悪いことはしたのかもしれねぇし、縁切られても仕方はねぇ。だけどよ、そう思ってんならなんであそこにいた?なんでもっと遠くの街に行かなかった?」
「そっ…それは…」
トヌスは小さく息を吐くと、体を前のめりにヘスネビの顔を覗き込んだ。
「答えは簡単だ。お前は迷ってんだよ。きっぱりあきらめるか、それとももう一度商会に戻るのか、心がどちらに進んでいいかわからずに迷ってんだ。」
「…うぅ…ちくしょう。あぁ、そうだよ!俺は迷ってんだ!今の会長…ボア会長には恩がある!だが、こんなことしちまって、もう合わせる顔がねぇ!!どうしたら…くそっ…なんで奴の口車になんか…」
ヘスネビの目からは大きな涙の粒が、これでもかというくらい湧き出してきた。
彼は、それを何度も何度もぬぐいながら想いを綴っていく。
「…俺は商会で幹部になったことで、少し調子に乗り過ぎてたんだ。商会を大きくして会長を喜ばせたい、その一心でやってたつもりが、店からとったみかじめを自分の懐に入れるようになっちまった。そして、それをオオクラに知られちまった。」
「…」
「奴に脅され、口車に乗せられた。会長にバラされたくなかったら言われた通りにやれと…言うことを聞いていれば、商会は大きくなって会長を喜ばせられるぞ、とな。」
トヌスは無言で耳を傾けている。
「それからはでっかいみかじめ料を設定して、いろんな店からできる限り奪い取った。周りから何と言われようが、それは会長のためだと信じて。何も知らない会長は、俺の働きをよく褒めてくれたよ。それでまた、調子に乗っちまったんだろうな。」
「なんで会長はお前の悪事に気づかなかったんだ?いきなりみかじめが上がりゃ、おかしく思うだろ?普通は気づきそうなもんだが…」
ヘスネビは少し落ち着いたのか、涙を拭うと赤く腫れた目をトヌスに向けた。
「会長には、国からの施策だと伝えていたんだ。財務庁から…正確にはオオクラから受け取った嘘の文書を渡して…国のためだと聞いた会長はたいそう喜んでくれたよ。」
「なるほどな…」
うなずくトヌスに対して、ヘスネビは吹っ切れたような表情を浮かべていた。
「ふぅ…全部話したらなんかスッキリしたな。こんな話、会長の前じゃ言い訳にしかなんねぇから、ずっと言えずに苦しかったんだ。お前に言えて、気持ちの整理ができたのかもしれねぇ…」
「…そうか。それはよかったぜ。」
コップを手に取り、トヌスは水を飲み干した。
それを見ていたヘスネビは、トヌスに頭を下げる。
「あんたには本当に申し訳ないことをしたと思ってる。本来なら死んで詫びねぇといけねぇようなことをしたんだ。なのに、飯を食わせてもらった挙句、話まで聞いてもらっちまって…なんて言ったらいいのかわかんねぇけど、本当にすまなかった。」
「気にすんな。俺は生きてる。こうしてな…」
「そう言ってもらえると少しは気が楽だ。」
ヘスネビはゆっくりと立ち上がった。
「決めたぜ。俺はこの街を出る。トウトを出て別の街でやり直す。そして、いつか会長に再び詫びに来る…」
「そう…か。あ~っと…それについてなんだが…」
想いにふけり、ヘスネビはうつむいていたが、歯切れ悪く何か言いたげにしているトヌスの言葉に顔を上げた。
「なんだ?どうしたんだ…はっきり言ってくれよ。」
訝しげな表情のヘスネビを見て、トヌスはため息をつく。
「いやぁな…せっかく決心をつけたとこ悪いんだけどよ。お前には、スネク商会に一緒に行ってもらわなくちゃなんねぇ。」
「なっ…!?なんでだ!今の俺の話を聞いてただろ?追い出された身だってのに、行けるわけねぇだろ!!」
驚き、声を荒げて問いかけてくるヘスネビに対して、トヌスは淡々と話を続けていく。
「今この国には、他国の奴らが入り込んできてやがんだ。そして、国を乗っ取ろうと画策してやがる。お前はある意味、その被害者でもあるんだよ。」
「他国の奴ら…?国を乗っ取るだぁ…?!」
「あぁ、そうだ。お前、フードを被った男か女かわからない奴を知ってるか?」
「フード…男…女…あぁ、キンシャ殿のことだな?会ったことはある。オオクラの側近だったからな。しかし、あの方が何なのだ?それに俺が被害者だというのはいったい…」
「あいつは、ジプト法国の差金だぜ。」
その瞬間、ヘスネビの顔に驚きの表情が浮かんだ。
「なっ…なんだと?ジプト法国の!?いったいどう言うことだ!」
「簡単なことだ。キンシャって野郎はオオクラやお前を利用して、この国を混乱に陥れようとしていたというわけだ。その先は推測だが、あのまま奴の思惑とおりにことが進んでたら、今頃この国はジプトのもんだったかもしれないな。」
「…なるほど。俺が"ある意味で被害者"と言うのはそういうことか。しかしなぜ、この国を乗っ取ろうとするんだ?目的はいったいなんなのだ。」
「さぁな、この国は地理的に優位な位置にあるらしいぜ。それと国同士の戦争…それくらいしか俺には浮ばねぇよ。」
トヌスは肩をすくめて鼻を鳴らす。
「ただな、そいつらからこの国を守るためには、みんなで協力しなくちゃなんねぇ。そして、それにはお前が必要だと俺は思ってるわけだ。」
「みんなで協力か…しかし、今の俺には何の力もない。知っての通り、商会だって追い出された身だ。何もできないと思うが…」
力なく告げるヘスネビに向かって、トヌスは笑みをこぼしながら告げた。
「別に何かして欲しいわけじゃねぇ。お前はついてくるだけでいいんだよ。」
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