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第三章 ランク戦開催

26話 潜む決意

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「やっぱりお前はバカだと思う。」


オサノはタケルを見てそうつぶやいた。
それに対してタケルは笑うだけ。


「タカハのユニークモンスターが何なのか、お前忘れてないよな?」

「当たり前だろ?あんなの恐ろしい記憶を忘れるわけない!」

「だったらなぜだ!!」


オサノはタケルの作戦には反対していた。

彼らの話すタカハのユニークモンスターは日本神話でよく知られている怪物である。

その名を『八岐大蛇』と言う。
この『八岐大蛇』には特殊な要素があり、普段会うことはできない。

その要素とは『条件付きのレイドイベント』。

『八岐大蛇』はある場所であるタイミングである事を行うとその姿を現し、人々に襲いかかってくるのである。

世界を周り、多くのユニークモンスターを目にしてきたタケルとオサノだが、最後に出会ったのが奇しくもこの『八岐大蛇』だったのだ。


「あれはヤバいぞ!リュカオーンとは訳が違う。いくら俺たちが以前より強くなっていたとしても、勝てるか分からん…それはお前にだってわかっているはずだ!」

「確かにそうかもしれないね…」


タケルは小さくため息をつく。

タケルがイノチと出会う前…
今から約半年ほど前に、タケルはタカハから着たプレイヤーに『八岐大蛇』の噂を聞いていた。

そして、その姿を一目見ようと、何も考えぬままタカハの街へ向かったのである。


「あれは僕の贖罪だ…」


目をつむり、そうこぼしたタケルにオサノは何も言えなかった。

当時、タケルのランクは『38』。
その程度では、ユニークモンスターに挑むことすら難しい。

しかし、各地のユニークモンスターたちは迷宮やダンジョンの奥に生息していることが多く、こちらが何もしなければ襲ってこないことを知っていた彼は、今回も同じように考えて『八岐大蛇』に挑んだのだ。

誤算があるとすれば、八岐大蛇が『条件付きのレイドイベント』であったことだ。

一目見るつもりだったタケルに対して、八岐大蛇は姿を現した瞬間、襲いかかってきたのだ。

タケルを含め、孤高の旅団は立ち向かった。
力の差は歴然だったが、タケルたちはそうせざるを得なかった。

なぜならば、そこには村があったから。

新月のイベント『朔夜の八頭龍』。
10人以上のプレイヤーがタカハの街にいる状態で、タカハから北に進んだ小さな村にある祠に、指定のアイテムを供えることで発生するレイドイベント。

イベント発生の瞬間から、タカハの街にいるプレイヤーは全員強制参加となる強襲イベント。

村は一瞬で灰と化し、村人たちは全て八つの頭を持つモンスターに食べられてしまった。

命辛々逃げ帰ったタケルたち『孤高の旅団』だったが、彼らの心には恐怖と後悔が刻まれたのである。


(願ってもいないタイミングなんだよ…イノチくんには悪いけど、この機を利用させてもらうよ。)


タケルは目をゆっくり開けて、前を見据え直した。
その目には何かを決した想いの炎が燃えていた。





イセの街と同様に、タカハの街にもギルドがある。
もちろん冒険者ギルドと商人ギルドだ。

タカハの街で活動するプレイヤーはだいたい50名ほどだが、彼らの多くは両ギルドへ登録を行っていて、ギルドに属している。

しかし、他の街とは違う点がタカハのギルドにはあった。

それは冒険者ギルドのマスターが、プレイヤーであるという点だ。

本来、ギルドマスターという地位にはこの世界の住人が就いていることが多いが、タカハでは前任の冒険者ギルマスを倒し、その地位についたプレイヤーがいるのである。

彼の名は『フクオウ』。
タカハの冒険者ギルドマスターであり、タカハ最大のクラン『Spicy cod roe』、通常SCRのリーダー。

職業は『侍』、ランクは『85』。
性格は一言で言えば、"武士"である。

正義感が強く、義に厚い。
礼儀正しく、自信に満ち溢れていて仲間からの人望も厚い。

直感力が強く、物事はあまり考えないが、頭は悪くない。

そんな性格だからこそ、彼はタケルの提案をきっぱりと断ったのだが…


「なに?また、彼が来たのか?」


クランメンバーの言葉に驚くフクオウ。
畳が一面に敷かれた部屋に正座し、テーブルに向かってギルマスの仕事をこなしていた彼は、持っていた筆を止めて振り返った。


「昨日話は終えたはずだが…」

「そうですが、本日は別の件だとおっしゃられております。」

「別の件…むぅ、我らも忙しいと言うのに。内容は何なのだ?」


待っていた筆を硯に置くと、報告してくれている仲間に体ごと向き直る。


「それが…あるイベントのことで話があると…」

「…イベントだと。」


フクオウは眉をひそめ、背筋を伸ばして顎に手を置く。


(もしや、我々が調べている“例"のレイドのことであるか?そうであるならば…しかし、なぜ…)


少し考えて、フクオウは口を開いた。


「わかった。会おう。客間へ案内しておいてくれ。」


報告者はうなずくと部屋を出て行く。
フクオウはその背中を静かに見つめながら見送った。





「昨日に引き続きごめんね!」


目の前では『孤高の旅団』リーダーのタケルが、両手を合わせてすまなさそうな顔をこちらに向けている。


「全くである…で、今日は何用か?」


低いテーブルの前であぐらをかくタケルに対して、フクオウは対面にあぐらをかいて座り込んだ。


「あるイベントの件で話があってね。あぁ、ありがとう。」


フウオウはタケルの前にある湯飲みにお茶を注ぐ。
自分の前の湯呑みにも同様に注ぐと、口を開いた。


「イベントとな…して、そのイベントとはどのようなものなのだ?」

「タカハの強襲イベントって言ったらわかるかな?」

(やはりか…)


ニヤリと笑うタケルの言葉を聞いて、フクオウはあごをさする。


「もちろんだ。なにせ冒険者ギルドと我らクラン『SCR』が血眼になって探しているイベントの一つだからな。しかし、なぜお主がそれを知っておるのだ。」

「それは言えない。」


不敵な笑みを浮かべるタケルに対して、フクオウは訝しげな表情を浮かべた。


「だけど、発生条件なら教えられるよ。」

「これまた面妖なことだ。なぜお主がそれも知っているのか。まぁ…どうせ答えは"言えない"のであろう?」

「ご名答。」


平然とお茶をすするタケルを見て、フクオウはため息をついた。


「で、お主の要望は何だ?昨日の話の続きか?いや、それは違うか…そうならば昨日それを提示していたはず…」

「へぇ…君でもいろいろと考えを巡らすことがあるんだね。」

「私だって考えることはある。人を軽挙妄動のように言うのはやめてもらおうか。」


タケルの言葉に、持っていた湯呑みをテーブルに強く叩きつけるフクオウ。

しかし、それでもなおタケルは飄々とした態度で話を続ける。


「相変わらず短気だなぁ。別に要求なんてないさ。単に奴を倒したいだけだからね、僕は。」


フクオウは信用できなさそうにタケルを見ている。
それに気づいて、タケルは小さく息を吐く。


「まぁ、そりゃそうか。疑いもするよね。ならさ、お願いを一つ聞いて欲しいんだけど…」

「願い…とな?」


タケルはうなずいた。


「あぁ…トドメだけは僕に…この手で刺させてくれ。」

「わっ…わかった。」


絞り出すようにそう告げたタケル。
フクオウは彼の目を見て自然とうなずいてしまった。

その瞳に気圧された…
いや、彼の中にある底知れぬ決意を感じ取り、うなずくことしかできなかったのであった。
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