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第三章 ランク戦開催
27話 霧雨の悪魔
しおりを挟むジプト法国。
国土のほとんどが不毛の砂漠地帯であるこの国では、中央を流れる巨大な河川が毎年増水することで、河土が運ばれて堆積する。
国民はその堆積土を利用して、農耕や灌漑を行なっているのである。
この恩恵を受ける地域では、河川の本流・支流から数kmの範囲に渡って人が集住し、生活を営んでおり、その河川の上流へと遡れば、ジプト法国の法皇が住まう宮殿がある。
その宮殿内では、ある噂で持ちきりであった。
「エルの街で行方不明者が続出しているらしいな。」
「いや、エルだけではないらしいぞ。クシュやセブなどの街でも出ているらしい。」
「なんと!いったい何が起こっておるのだ…もしや、神獣さまがお怒りなのではないか!?」
宮殿内でそう噂話をする貴族たちを見て、一人の男舌打ちすると、気に食わなさそうにその場を後にする。
短髪に眼帯、あごを覆うひげが特徴的なその男は、ズカズカと歩いていくと、ある部屋の前で立ち止まった。
ノックをすると中から「どうぞ。」と声が聞こえてきた。
ドアを開けて中に入ると、窓に背を向けた男がイスに座り、何やら書類に目を通している。
「シャークか?どうした、そんな不満げな顔で。」
男は顔を向けることなく、部屋に入ってきた男をシャークと呼んだ。
「カリレイ、おまえも知ってるだろ?!街で出ている行方不明者の話を。」
「あぁ…その話か。」
カリレイと呼ばれた男は読んでいた書類をデスクに置くと、シャークという男に目を向け、小さく息を吐く。
「…知っているぞ。最近いろんな街で人が消えている…」
「あぁ…しかしそれだけじゃねぇ!消えてる奴らはみんな…!!」
「『プレイヤー』…なんだろ?」
カリレイはそう言うと大きくため息をつく。
「エルで10人、クシュでは23人、セブで13人か…これがその報告者だ…」
ひらりと足元に落ちた一枚の書類を拾い上げ、シャークはそれに目を走らせる。
「こっ…こんなに!?しかも…俺らのクランメンバーもいるじゃねぇか!!くそっ!誰がいったいこんな…」
悔しがるシャークをよそに、カリレイは立ち上がると窓の外に顔を向けた。
白と青のコントラストに、遠くに見える大きな河川。
そこから見える風景は絵画の一部のようだった。
「…『霧雨の悪魔』って知ってるか?」
「霧…雨の悪魔…?なんだそりゃ?」
「昔、この国で恐れられていた殺人鬼の名だよ。数年前に突然現れて、この国で多くの人を殺めた怪人さ。程なくしてその姿を消したと聞いていたが…再び現れたのか。」
「そんな奴が…しかしよ、そいつと今回の奴が同じだとなぜ言い切れる?」
「理由か?簡単だよ。」
カリレイは振り返るとシャークにこう告げた。
「霧雨の悪魔も『プレイヤー』殺しだったのさ。」
・
「うっ…うわぁぁぁぁぁ!!!」
男が一人、叫び声を上げて夜の闇を駆け抜けていく。
恐怖に染まった表情と息を切らしながら走る様相は、まるで何かから逃げているようだ。
いや…事実彼は何かから逃げている。
「なんで…ハァハァ…なんでこんな事に…!」
つまづき、すみに置かれた積荷などをひっくり返しながらも、懸命に路地裏をかけていく。
あと少しで、人がいる通りにたどり着ける。
そう思い、走る視界には建物の間から通り過ぎていく無数の人影が見えた。
しかし…
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ…てか、ククク。」
「なっ…!!?」
突然暗闇からその姿を現したゲンサイを見て、急ブレーキをかける。
「なっ…なんなんだお前!なんでこんなことするんだ!!」
「なんで…?」
ゲンサイははニヤリと笑みをこぼす。
そのまま手に持った剣を肩に担いで、ゆっくりと近づいてくる。
「別に理由なんかねぇよ…俺は楽しみたいだけだからな。」
「こんな…!弱い者イジメをか!!!」
「弱い者…イジメか。ククッ…カカカカッ!!」
額に手を置き、笑い上げるゲンサイ。
男はそれを唖然と見つめていた。
「カカカカッ…てめぇらは本当にズレてやがるな!お前…ゲームで弱い者イジメすんなとか言うのかよ?馬鹿じゃねぇのか!?」
「なっ…なんだと…?」
「お前らこそ、この世界の人間をイジメて楽しいか?弱い人間から搾取して楽しんでんのはどっちだろうなぁ!」
額から片目に手の平を下ろして、舌を出して悪戯な笑みを浮かべるゲンサイ。
その指の間からは、赤く光る瞳が見え隠れしている。
「ひっ!!」
その目に怖気付いたように、恐怖に引きつった顔で元来た路地を引き返そうとしたが…
ザシュッ
鈍い音が右側から聞こえ、生暖かい飛沫が自分の顔に飛び散った。
「腕がぁぁぁぁぁ!!俺のぉぉぉ…腕ぇぇぇぇ!!!」
バランスを崩し、倒れ込む男は左手で右肩を押さえながら泣き叫んでいる。
ゲンサイはゆっくりとその男に歩み寄る。
そして、大きく口を開け、笑いながら剣を振りかざした。
「やめっ…!」
「死ね!」
しかし、その剣は男の目の前で止まった。
そして、それを見るや否や、ゲンサイの顔は見る見る内に怒りに染まっていったのだ。
「てめぇ!邪魔すんな!!」
「そろそろやめておけ…やり過ぎだ。」
男は過呼吸気味に大きく息をしながらも、聞き慣れない声の方へと目を向ける。
そこには小さな蒼き竜の姿があり、ゲンサイの振るう剣を目の前で発動させた水魔法で受け止めているのだ。
「ウォタ!この魔法を解け!」
「ダメだ。お前、少し休んだ方がいい。」
「うるせぇ!どうしようが、俺の勝手だろうが!!」
赤い目を鋭くし、ゲンサイはウォタを睨んだが、ウォタはそれに臆することなく淡々と話を続ける。
「お主、その能力に飲まれかけとるぞ。」
「なにぃ!?」
「スキルに飲まれとる…そう言ったのだ。」
「なんの話だ!!スキルに飲まれるだとぉ!ぐっ…!!」
突然、頭を押さえてしゃがみ込むゲンサイ。
「ほれ、言わんこっちゃない。そのままだと本当にスキルに飲まれて、ただの殺戮マシーンに成り兼ねんぞ。」
「ぐ…ぐぁっ…んだよ、これは!ハァハァ…」
目の前がグラつき、立ち上がることができない。
頭痛と吐き気が襲いかかり、体をまともに動かすこともできない。
「お主のそのスキルは他の者とは違うのぉ…力をつける度に意志を持っているような…」
ウォタの声が遠くに聞こえる。
何も聞こえなくなっていく…
視界が暗くなる…
頭が割れるように痛く、意識が遠くなっていく。
ゲンサイはそこで意識を失った。
ウォタはそれを確認すると、視線を怯えていた男に向ける。
斬り落とされた腕からは大量の血が流れ出ており、すでに彼も意識を失いかけているようだ。
「まぁ、我には関係ないが…主人からは極力殺すなと言われたしな。ほれ、これを使えたら使っておけ。」
どこからともなく取り出した小さな瓶を口にくわえると、仰向けに倒れた男の胸元に放り投げた。
朦朧としながらも小さな瓶に手を向ける男を一瞥すると、ウォタは少し体を大きくさせてゲンサイを背負い込む。
「まったく…小童どもは手がかかる。しかし、こいつのスキルは気になるのぉ…」
そうつぶやいて、その場を後にした。
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