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第三章 ランク戦開催
28話 弱さと強さ
しおりを挟む「おい!」
パソコンに向かって手を動かしていると、突然イスが蹴られて、バランスを崩して倒れ込む。
再び立ち上がろうと手をつき腕に力を入れると、手の平を強く踏みつけられた。
痛みに顔を歪ませ、チラリと目だけで見上げれば、ニヤニヤと笑う同僚の姿。
「お前、今日も気持ち悪りぃな!」
その言葉が社内へ響いた。
いつの日からか始まった社内でのイジメ。
助ける者などおらず、心を殺してずっと耐え続けている。
ひどい会社だと思う。
白昼堂々とイジメが起きているのにも関わらず、みんな見て見ぬ振りをする。
自分の上司は読んでいる新聞で顔を隠して知らん顔だ。
仕事をやめようかと思ったことは何度もある。
だけど、なんの資格も持たず取り柄もない平凡な僕には、再就職なんて無理だってわかっている。
どうしてこうなったのかはわからない。
相手が気に食わないことをした覚えもない。
たぶんおそらくは、そういう体質なのだろう。
小中高の12年間、イジメの的にされてきた。
その度に耐えて耐えて耐えてきた。
大学では、人との交流を極力避けたこともあってイジメに合うことはなかったが…
会社に入ればそんなことはできない。
仕事は人とするものなのだから。
これが運命だといえばそれまでかもしれないが、僕はまたイジメの的になった。
コミュニケーションがうまく取れず悩んでいます。
相手が何を考えているのかわからず不安です。
そんな悩みを持つ人がいる。
そんなのは僕にとっては羨ましいものでしかない。
コミュニケーションという土俵に上がれているじゃないか。
僕はそこにすら上がらないのに…
存在が気に食わない。
いるだけでムカつく。
相手の目に映るだけで、イラ立たせるこの体質をどうにかしたい…
そんな願いはとうの昔に捨てた。
結局、僕には我慢する道しかないのだと悟ったからだ。
ある時、家に帰ると小さな個包が届いていた。
怪しむこともなく開けた箱の中には、真っ白なヘッドセットが一つ入っていた。
これがなんなのかなんてどうでもよかった。
何気なく頭にはめて、指定のコードを小さくつぶやく。
「リンクオン…」
そこから僕の人生は変わった。
・
「う…」
「ん?気がついたか?」
少しかすむ視線の先には、座布団の上で丸くなってこちらを見ている蒼い竜の姿が見える。
「こっ…ここは!?ここはどこだ…うっ!」
勢いよく体を起こしたゲンサイだが、痛みを感じて頭を押さえた。
「元の宿屋だ…まだ無理はしない方がいいぞ。脳がだいぶ疲弊しとるからな。」
「てっ…てめぇ…!」
「それだけ元気があれば大丈夫かの。」
大きくあくびをするウォタだが、鋭く睨みつけてくるゲンサイを見て、仕方ないと言ったように口を開く。
「お主…そのスキルは元からお主のか?」
「…」
「まぁ、それはどうでもよいがな…知っているかどうか知らんが、そのスキルはそのうちお主を殺すぞ。」
ウォタはゲンサイへ冷たい視線を向ける。
その言葉に下を向くゲンサイだが、少し間を置いてつぶやいた。
「…知ってるさ。」
「ほう…なのに使うか。なかなか殊勝な…」
「俺は強くならなくちゃなんねぇんだ…」
ゲンサイはウォタの言葉を退ける。
「弱い奴は淘汰される…強い奴にな。あっちの世界でもこっちの世界でもそれは同じだ。1度目のクリアの後、俺は気づいたんだよ…弱けりゃ何もできねぇ。強くなきゃ食い殺されるだけなんだってな。だから俺は強者になる…そのために俺はこの力をもらったんだからな。」
「もらった…か。」
「そうだ…ここに来るときに融通してもらったんだよ。」
「ほう…誰にだ?」
「…」
その質問に対しては口を閉ざすゲンサイを見て、ウォタは鼻を鳴らす。
「まぁいいが…お前はこの世界ではかなり強いではないか。それなのに、まだ力を望むのか?」
「俺が強ぇだと?まだまだ足りねぇよ。お前にすら勝てねぇのに、どこが強いんだ…」
歯を食いしばるゲンサイ。
その顔には悔しさが滲んでいる。
「…十分強いと思うがな。我以外の神獣クラスなら、たやすく勝てるであろうに…しかし、死んでも強くなりたい理由があるとは…これまた難儀だな。」
「はっ!お生憎さまだぜ!俺は死ぬつもりなんかさらさらねぇ!!このスキルだって絶対に使いこなしてみせる。一度目だって生き延びたんだからな!今回だって必ず生き延びてみせる!!」
遠くを見据えるように顔を上げたゲンサイを見て、ウォタは小さく「そうか。」とつぶやいた。
なんにせよ、ゲンサイのスキルは恐ろしい力を持っている。
彼の強さの理由が納得できた反面、ウォタはどこか少し悲しくも感じた。
(人というものは本当に難儀な生き物だな。死を恐れているくせに、死よりも自分の意思を尊重することもある。興味深いが…儚いのぉ。)
窓から見える星が小さく瞬く。
それはまるで、ゲンサイのこれからを案じるように…
・
「いた!見つけたぞ!」
息を切らして走る男は、路地裏に倒れ込んだ片腕のない男に駆け寄った。
「おい!!しっかりしろ!!おいって!!…だめだ!意識を失いかけてやがる!!ポーションの手持ちはねぇし…このままじゃ……ん?!」
男はヒューヒューと小さく呼吸をしているが、ほとんど意識はなく朦朧としており、彼には時間がないことがすぐに理解できた。
焦る視界の中で、男の胸元に小さな青色の液体が入った小瓶が目に止まる。
「こっ…これは!?」
急いでそれを手に取り、ふたを開けて男の口にそれを流し込む。
喉を通りきれない液体が口からこぼれ落ちるが、倒れていた男は突然息を吹き返した。
「…ガハッ!ゴホッゴホッ…ハァハァ…」
「気がついたか!?よかった!おいっ!?聞こえるか!?」
「……ハァハァ…り…ハァハァ…ゴホッゴホッ!!」
「無理してしゃべらなくていい!!クランに連れて帰るから静かにしてろ!なっ!」
そう告げる仲間の言葉を聞いて、男は顔を青くしながらも少し安堵の表情を浮かべたが、何かを伝えたいらしく必死に声を上げる。
「…ハァハァ…ポ……ン……蒼……」
「無理するなって!血を失いすぎてるんだ!」
「…ゴホッ…蒼い……が…ハァハァ…ポーショ……を…」
「蒼い…?いいから、無理するなって!帰ってから話は聞くから!!」
仲間がそう伝えるも、男はその口を止めなかった。
「…あっ…蒼い竜が…ハァハァ…ポッ…ポーションを…」
「蒼い竜…?!その蒼い竜が、このポーションをくれたってことか!?」
仲間に伝わったことがわかると、男は苦しそうにも笑みをこぼした。
伝えることは伝えきれた。
思い残すことはないと…
そんな表情を浮かべて目を閉じる。
「おっ…おい!?ダメだダメだダメだ!!行くなって!!」
少しずつ呼吸が小さくなる男。
呼び戻そうと必死になる仲間の声は届くことなく、彼はそのまま、ゆっくりと息を引き取ったのだった。
「…くそっ!!」
残された男は手に持つ小瓶をギュッと握りしめる。
「これはゲームじゃねえのに…こいつはわかっててやってやがんだな…絶対に許さねぇ!!」
男の声が暗闇の空に虚しく散っていった。
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