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第三章 ランク戦開催
32話 ボッコボコ
しおりを挟む「スキル…竜化(ドラゴン)…」
そうつぶやいたフレデリカの体から光の筋が発せられていく。それらは幾重にも重なっていき、辺りを煌々と照らしていく。
「なっ…なんだ!?この光は!!」
「まっ…まぶしいミノォォォォ!!」
眩しさに手を上げるケンタウロスとミノタウロス。
指の間から見えていたフレデリカの姿は、真っ白な光に包まれて見えなくなった。
「げぇ~あれ使うのか。」
「あれってフレデリカさんのかっくいいやつだよね♪」
「ふん…最初から遊んでないでそうすりゃあいいのよ。」
離れた位置から光るフレデリカを見て、三人は思い思いの言葉をつぶやく。
スキル『竜化(ドラゴン)』。
これはイノチのプレイヤーランクが『100』になった際、フレデリカに与えられた『種族覚醒スキル』である。
『種族覚醒スキル』とは種族別に定められた強力な特殊スキルのことで、通常のスキルと少し違う点は継続的に発動させることができるということ。
そして、使用中はスキルに見合った能力が付与され、身体能力が大幅に強化されることがこのスキルの大きな特徴だ。
『竜化(ドラゴン)』は名前の通り、竜種の力を得ることができるフレデリカたちドラゴニュートならではのスキルである。
「なんだ…奴に何が起きてやがる?!」
唖然とするケンタウロスたちをよそに、その輝きはゆっくりと収まっていき、フレデリカが再び姿を現した。
その姿に大きく変わったところはない。
強いて言うなら、頭に竜の角が2本生えているくらいだろう。
「なっ…なんなんだ。何も…特に変わってねぇじゃんか!」
「本当だミノ!!ハッタリ言うなミノ!!」
何が起きるのかと焦りを見せていたケンタウロスとミノタウロスは、少し引きつった顔で笑っている。
そんな二人に対して、目を閉じていたフレデリカがゆっくりとその目を開いていく。
そして、その瞳を見せた時、二人の顔には再び驚きの色が浮かんだのだ。
竜に似た双眸。
紅く染まった虹彩の中に、縦長の黒い瞳孔がその存在感を放っていて、鋭い視線が二人に向けられている。
「…あっ…あの瞳…あれは…」
「いっ…嫌な瞳ミノ!!あいつと同じミノ!!」
驚愕したままフレデリカを見据えるケンタウロスと、焦ってワタワタとしているミノタウロス。
二人ともフレデリカの瞳に見覚えがあるのか、なにかを思い出したように震えている。
「牛男のやつ、フレデリカのことを"あいつ"と一緒だって言ったな…いったい誰のことだ?」
その言葉を聞いていたイノチは首を傾げたが、そんなことは今のフレデリカには関係なかった。
彼女は口を開くこともなく、一気にケンタウロスの前に詰め寄る。
「…え?…」
何が起きたのかわからないケンタウロスの瞳に、細く綺麗な指で握られた拳が映っていた。
ゆっくりと近づいてくるそれを見て、まるでスローモーションで再生された映像を見ているかのような感覚に陥るケンタウロス。
そして、拳が直前までくると再び『絶対防御』が発動し、バリバリッと大きな音を立てながら、フレデリカの拳と障壁がせめぎ合いを見せ始めた。
衝撃波が辺りに波紋のように広がっていく。
「ハッ…ハハッ!!甘いな!この『絶対防御』は絶対に突破できねぇ…!!」
「……」
ケンタウロスは自信満々な表情を浮かべているが、エレナはそんなことはお構いなしといったように無言のまま何度も何度も同じ場所に拳を振り下ろしていく。
拳と『絶対防御』のせめぎ合いはなおも続いていくが…
「あきらめろ!!これは"あいつ"でも破れなかったんだ!お前には絶対に無理だぜ!!」
(馬男のやつ…フレデリカをまた誰かと比べてる。いったい誰と…気になるな。)
イノチの疑問を知る由もないが、そう高笑いするケンタウロスは、突然目の前で起こった出来事に目を疑った。
ピシッと小さな音を立て『絶対防御』に走る亀裂。
フレデリカが殴るたびにその亀裂は大きく広がっていく。
「なっ…うっ…嘘だろ!?おい…マジで…やめ…えっ…」
冷や汗が止まらないケンタウロス。
あまりの出来事にどうしていいかわからなくなり、その亀裂を注視していたその時だった。
フレデリカが振り抜いた拳が『絶対防御』の障壁を粉々に撃ち砕く。
そして、それに驚く暇もなく頬に大きな衝撃を受けて大きく吹き飛ばされ、ケンタウロスは壁に激突した。
「ケッ…ケンちゃぁぁぁぁぁん!!!」
ミノタウロスが泣き叫ぶ中、瓦礫が崩れてケンタウロスがいる場所に崩れ落ちていく。
「かかか…かっくいいよぉ♪フレデリカさぁぁぁん♪」
「今の一撃で終わりかな?」
「どうかしら…なんだかんだで相手もユニークモンスターでしょ?もう少し頑張ってくれるんじゃない?」
嬉しそうに飛び跳ねるアレックスの横で、イノチとエレナがケンタウロスを注視する。
フレデリカも崩れ落ちて砂ほこりを巻き上げている壁を、無言で見据えている。
すると、瓦礫の中からケンタウロスが飛び出してきて、フレデリカとは一定の距離を保った場所に着地する。
「てっ…てめぇ、やっ…やってくれるじゃ…ねぇか…」
「ケンちゃんっ!!大丈夫ミノか!?」
「こっ…これくらい大丈夫だ!お前は危ないから…はっ…離れてろよ!」
心配そうに近づいてきたミノタウロスに離れるように促すと、ケンタウロスはフレデリカに向かって口を開いた。
「今度は俺の本気を…」
ドゴォッ!
そこまで告げた瞬間、目の前には再びフレデリカの拳が飛んできて、今度は別の壁に突っ込むケンタウロス。
舞い上がる砂ほこりの中から飛び出すと、怒りの顔をフレデリカへと向ける。
「おっ…お前!こっちの話を聞…っ!」
ズドンッ!!
バゴォォン!!
めり込んだ体を壁の中からなんとか引き離し、少しふらふらしながら戻ってくるケンタウロス。
「まじで…聞けって…」
ガスッ!!!
ボゴォン!!
壁から引き剥がした体を引きずり、もっとふらふらしながら戻ってくるケンタウロス。
「こっ…この…」
ドシャッ!!
ガシャャャンッ!ガラガラッ!!
ケンタウロスが戻ってくる度に、何度も何度も容赦なく拳を振り抜くフレデリカを見て、イノチは顔を引きつらせていた。
「やっぱり…えげつないなぁ…」
「あの状態のフレデリカは完全な戦闘マシンだもの。相手が立ち上がる限りボコボコにし続けるわね。」
「いいんだけどさ…あいつ、本来の目的忘れてないよね?」
「さぁ…どうかしらね。」
「いっけぇぇぇ♪やっちゃえぇぇぇ♪」
身振り手振りで楽しんでいるアレックスの横で、エレナは肩をすくめた。
「ちょ…ちょっと…まっ…待って…ガフッ…ハァハァ…」
すでに満身創痍にも見えるが、ボロボロの体を引きずりながら近寄って来るケンタウロス。
それを見たフレデリカは拳に魔法をまとわせる。
バチチチッと音を立て、黄色い閃光が拳の周りに幾重にも広がっていく。
「雷撃(いかづち)…」
フレデリカはそうつぶやくと、今まで閉じていた口を小さく開いた。
その口からは熱気を帯びた白い息が、静かに吐き出される。
その表情には、まるでお腹を空かせたドラゴンが獲物を見つけた時のように微笑が浮かんでいた。
「あっ…BOSS。フレデリカの奴、キレてるわよ。あれやばいやつだわ。」
「まっ…マジでか!?とっ…止めないと!!」
その瞬間、フレデリカが地面を蹴った。
一瞬でケンタウロスの懐に飛び込むと拳を構える。
ケンタウロスはかすむ視界の中で、笑みをこぼすフレデリカを見た。
ーーー死んだ…
その考えが頭をよぎり、雷をまとう拳を自分めがけて撃ち抜こうとするフレデリカを見据えていたが…
拳が振り抜かれる寸前でフレデリカの足元の土が盛り上がり、その拳はケンタウロスの頭の上を通り過ぎていった。
後ろでは大きな爆発音が轟き、大きな風が吹き荒れている。
「ひゅーっ!あっぶねぇ~!!」
ウィンドウとキーボード片手に、冷や汗を拭うイノチ。
「…フレデリカ!!お前、目的を忘れてただろ!?」
「…そっ…そんなことはないですわ!今のは手加減して…」
「嘘つけ!!今のは完全に殺りにいってたじゃないか!俺でもわかるぞ!!」
ギャーギャーと言い合う二人。
ケンタウロスはかすれゆく意識の中で、二人の声を聞きつつ意識を失うのであった。
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