168 / 290
第三章 ランク戦開催
41話 申し出
しおりを挟む「よう、BOSS!とりあえず、奴らにひと泡吹かせてきたぜ!!」
手を上げながら近づいてくるケンタウロスたちを、イノチは同じように手を上げて迎え入れた。
「お~見てたよ。お前ら、ちゃんと指示通りやってくれたみたいだな!」
「あったりまえだ!俺たちを誰だと思ってやがる!殺さない程度にやっておいたぜ!!なぁ、ミノタ!!」
「…うぅだミノ…」
高らかに笑うケンタウロスの横で、ミノタウロスは目に涙を浮かべて悔しそうな表情を浮かべていた。
「ん、どうしたんだ?ミノタ…」
イノチが少し心配そうに声をかけると、ミノタウロスの代わりにケンタウロスがそれに答えた。
「それがよぉ…ミノタの相手、けっこう強かったらしいんだ。絶対防御を破られはしなかったものの、自分の攻撃がいっさい当たらなかったんだと。で、悔しがってんだよ、こいつ。」
「だってだってミノ!BOSSたちに負けた後にまた負けるなんて…悔しい気持ちしかないミノ!!ケンちゃんは気持ちよく相手を吹っ飛ばしたからいいミノけど、俺は不完全燃焼なんだミノ!!…うぅぅ…」
そう声を荒げた後に泣き出してしまったミノタウロス。
イノチは困ったように声をかけたが、一向に泣き止む気配はない。
ケンタウロスもやれやれと言ったように肩をすくめている。
「ミノタ、落ち着けよ…なぁ…」
「うわぁぁぁぁぁんだミノよぉぉぉぉぉ~」
目幅もある涙を滝のように流して泣くミノタウロスを見てイノチがため息をついていると、そこにアレックスが笑顔で近づいてきた。
「つんつんつん、ミノタっち♪」
座り込んで泣くミノタウロスの横にしゃがみ込むと、人差し指で呼びかける。
「…うぅぅ…アレックスちゃん…」
「泣かないでミノタっち♪君は頑張ったよ♪ちゃんと見てたから大丈夫♪」
その瞬間、ミノタウロスの瞳には天使が映し出された。
しゃがんで両手で頬杖をつき、ニコリと笑って微笑むアレックスが天使に見えたのだ。
「もう泣くのはやめようね♪男の子が泣いてたらカッコ悪いもん♪」
「そうだミノ!カッコ悪いのはダメだミノ!!」
「うんうん♪次、頑張ればいいんだよぉ♪」
アレックスの言葉にミノタウロスは泣き止むと、急に立ち上がって拳を突き立てた。
アレックスもそれを見て拍手をしている。
一方で驚いたのはケンタウロスだった。
「あの泣き虫ミノタが…すぐに泣き止んだ…」
「そんなに驚くことなの?」
イノチの問いかけにケンタウロスは頭を大きく振って答える。
「あいつは何かうまくいかなかったり、嫌なことがあるとすぐ泣くんだ。そして、泣いたら泣き止むまで長いんだよ。今まで最長で3ヶ月泣いてたこともある…」
「さっ…3ヶ月もか…?」
「そうだ。しかし、俺が何を言おうが何をしようがダメだったのに…アレックス嬢は本当にすげぇな!!」
「いや…ミノタがただのロリコンなだけだろ…」
興奮気味のケンタウロスを見て、やれやれとため息をつくイノチ。
「何でもいいんだけど、あんたたちが戦った相手の情報を早く教えなさいよ。」
そのやり取りを離れたところで見ていたエレナも、あきれたように声をかけてきた。
「エレナ姐さん!了解です!」
ケンタウロスはエレナに向き直るとビシッと敬礼をする。
(なんか俺に対する態度とは少し違うんだよな…)
その様子に疑問を浮かべるイノチだが、ケンタウロスはそんなことはつゆ知らずと言った感じだ。
エレナとの会話を嬉しそうに続けている。
「あれ?そういえば、フレデリカ姐さんは?」
「フレデリカはちょっと奥を見てくるって洞窟の先に行ってるわ。」
「洞窟の…先ですか…」
突然訝しげな表情を浮かべるケンタウロス。
「なによ…どうかした?」
「いっ…いえね、この奥には大きな迷宮があるんです。そこに入ると抜け出せなくなるんで…大丈夫かなぁと。」
ケンタウロスの言うとおり、『ラビリスの大空洞』の最深部に大きな迷宮がある。
人がまだ足を踏み入れたことのない広大な領域。
一歩踏み入れればゴールに辿り着くまで出られない大迷宮。
それこそが『ラビリスの大空洞』の本当の姿なのである。
「あそこには強いモンスターもいるんで…外に出てくることはないだろうけど、俺らでも近くまでは行かないんですよ。」
「それについてはたぶん心配ないよ。」
心配するケンタウロスに対して、イノチが横からそう告げる。
「探索機能で迷宮があることは知ってた。だからフレデリカには絶対入るなって言ってあるし…あいつもさっき使ったスキルのせいで、魔力をけっこう使っちゃったみたいだから無茶はしないと思うよ。」
「…だといいけど。」
イノチの言葉にエレナは小さくつぶやいて肩をすくめた。
その言葉を聞いて内心心配しつつも、イノチは気を取り直して皆に告げた。
「よし!ケンタウロスたちの話を聞いて今後の作戦を立てるから、みんな集まって!」
・
洞窟の中、地面を這う得体の知れないものの姿がある。
小さな水溜りのような…流動的な何かが人の歩みほどの速さで地面の上を突き進んでいくそれは、ふと何かに気づいたようにその方向を変えた。
壁を伝い、天井へと一気に駆け上がるとゆっくりとその進みを止める。
(いた…奴らだ。)
その流動的な何かを通して、ゆっくりと顔を出したのはクラン『創血の牙』サザナミ支部長のセイドであった。
彼の職業は『戦士』であり、主な戦闘スタイルは前線での大暴れなのだが、ある理由からこのように隠密行動も得意としている。
その秘密は彼が手に入れた武器『トライデント・エアロゾ(SR)』のスキルにあった。
この三叉槍は水属性に分類されるが、本当の属性は少し違う。
本来の属性は流属性という特殊なもので、水だけでなく流れるものなら何でも自由自在に操れるのだ。
そして、この槍には初めからスキルがついている。
セイドが今使っているのもそのうちの一つであり、彼はこれを使って様々な場所に潜り込むことができるのである。
(やっぱりさっきのユニークと繋がってたんだな。しかし、どうやって…普通ユニークモンスターは俺らプレイヤーには敵対しかしないはずだが…)
セイドは仲良さげに話しているイノチたちを見て疑問を浮かべた。
「しかしまぁ、なんにせよ直接聞くのが一番だな…」
セイドはそうこぼすと、兜の下で笑みをこぼして再び地面の中へと潜り込んだ。
・
「…と言うわけです。エレナ姐さん。」
(なんでエレナに話してんだ、こいつ…)
エレナにヘコヘコしているケンタウロスに納得がいかないと、イノチはジト目でケンタウロスを見ていた。
「なるほどね…BOSSはどう思う?」
「…ん…あぁ、まぁ奴らの外見や言動から考えて、この前やり合ったうちの二人で間違いないだろうと思うよ。」
「そうよね。だけど、なんでこのタイミングで奴らはここに来たのかしら。」
「そりゃ、つけられていた。もしくは『ラビリスの大空洞』を奴らが監視していてそこに俺らがやって来た。そのどっちかだろうな。」
首を傾げるエレナに対して、イノチはあっけらかんと言い放つ。
「わっ…わかってるわよ!それくらい!…だけど、探られている可能性があるってことよね。」
「その通り!」
エレナがあたふたと言い訳をしていると、突然知らない声が聞こえてきた。
イノチもエレナも、皆驚いて辺りをキョロキョロと見渡し、声の主を探している。
するとどうであろう。
少し離れた位置にユラユラと揺らめく水溜りのようなものがあり、その中から青を基調とした鎧を全身にまとい、黄金の三叉槍を持つ男が姿を現したのだ。
「お前はっ!!」
エレナが一瞬で臨戦態勢に移り、その目をギラつかせながら2本のダガーを腰から抜く。
アレックスもケンタウロスたちも皆その男に注目し、迎撃の態勢をとっている。
「ちょっ…ちょっと待て!戦う気はない!」
それを見て焦るセイドは三叉槍をしまい、攻撃の意思がないと伝えるように両手を上げると、こう告げたのだった。
「俺と手を組まないか?」
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる