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第三章 ランク戦開催
42話 状況利用
しおりを挟むどうしてこうなったのだろうか。
セイドは逃げながら後ろを振り返った。
そこには、まさに巨獣と呼ぶにふさわしいモンスターがこちらに向かって一直線に追いかけてきている姿がある。
全身はティラノサウルスのようなフォルム。
無数にある赤黒い瞳と巨大な口。
その中には鋭い牙がこれでもかと言うほど生え並んでいる。
前足は短く、太い2本の足で駆け抜けるその姿は、獲物を追うまさにティラノサウルスだ。
奴は壁を破壊し、天井を砕き、地面を揺らしながら追いかけてくる。
だが、少しだけティラノサウルスとは違う点があった。
それは…
モンスターが口元を赤く光らせ始める。
「BOSS!!またあれが来るわよ!」
「わわわっ…わかってるよぉ!!」
「急ぐのですわ!!」
叫ぶエレナとフレデリカの横では、走りながら手元に浮かぶキーボードに手を走らせるイノチの姿がある。
その瞬間、巨大なモンスターの口から赤い光線が放たれた。
それと同時に、イノチたちの真後ろの地面が無数に隆起して何層もの壁ができあがる。
赤い光線がその壁を砕いていく。
しかし、何層か壊し終えると、それらは霧散して消えてしまった。
それを見て、気に食わないといったように大きな咆哮を上げるモンスター。
「なななっ…なんでこいつがここにいるんだよ!!」
「知らないミノ!!こいつは迷宮最深部にいるはずなのにミノ!!」
「うわ~♪恐竜さんだよぉ~♪」
約一名ほど場違いな雰囲気を醸し出してはいるが、状況は至ってシンプルに誰がどう見ても絶体絶命である。
セイドはどうしてこうなったのか、もう一度思い返した。
・
「俺と手を組もう!」
セイドがそう言うと、エレナが訝しげな表情を浮かべた。
「あんた、いきなりなに言ってんの?」
「なにって…言葉の通りだ!俺はあんたらと手を組みたいのさ!」
「おい!こいつ、さっき俺らと戦った奴のうちの一人だぜ!」
「お前ぇぇぇ!さっきはよくもバカにしてくれたミノな!!」
ケンタウロスが叫ぶ中、ミノタウロスが斧を握りしめて怒った表情を浮かべている。
「それに関しては悪かった。謝るよ…副団長をどうやって出し抜くか考えてたんだが…あれが一番簡単だったんだ。」
セイドは頭をポリポリと掻きながらそう言うが、エレナは警戒を解こうとはしない。
「何を言ってるのかよくわからないけど、あんたは『創血の牙』のメンバーよね?あたしたちとは敵同士だわ!」
「確かにそうなんだけどさ…少しくらい話を聞いてくれないか?」
「いやよ!あんたには借りがあるしね!」
「…おいおい。だけど俺は丸腰だぜ?」
それを聞いたエレナは、セイドを睨みつけたまま鼻で笑う。
「丸腰ですって?そんな鎧でガッチリ固めた状態で、持っていた武器をしまったから信用してくれなんて…信じる方がバカだわ。何か隠し持ってるかもしれないじゃない。」
(えっ…?そうなの?武器をしまったからてっきり俺は…)
イノチが心の声で焦る中、話は続いていく。
「まぁ確かにそうか…だが、こればかりはどうしようもないしなぁ。逆に聞くがどうしたら信用してもらえるんだ?」
「答えは簡単よ。あんたは信用しない。」
「どうしてもか…?」
「どうやってもよ。」
頑なに拒むエレナに対して、セイドは大きくため息をついた。
そして、イノチの方に顔を向ける。
「なぁ、あんたがBOSSだろ?彼女になんとか言ってくれないか?」
その言葉にイノチは少し驚いて聞き返した。
ネームプレートは未だ見えないはずだが…
「…なんで俺がBOSSだと?」
「だって…他の奴がみんなあんたのことを"BOSS"って呼んでるじゃないか。」
「確かにそうだが…この前も今も君の前でそう呼ばれたことはなかったと記憶してるけど…」
「そりゃ、今さっきそう話してたのを聞いてたからな。」
その瞬間、エレナが声を上げた。
「ほら、みなさいよ!盗み聞きしてるなんて信用できるわけないでしょ!」
「しかたねぇだろ。近づかないと話できないんだし…不可抗力だって。」
エレナがガルルルっと唸りながらセイドを睨みつける。
そのセイドもどうしたもんかと肩をすくめている。
しかし、イノチがそれを見てため息をつき、セイドに声をかけようとしたその時だった。
洞窟の奥から大きな地響きと咆哮が聞こえ、一同がそちらに目を向けると、フレデリカがものすごい勢いで駆けてくる様子がうかがえた。
彼女は何やら大声で叫んでいる。
イノチはその声に耳を傾けた。
「逃げるのですわ!!こいつはやばいですわぁ!!」
イノチはフレデリカの言葉の意味が一瞬わからなかったが、そんな疑問はすぐに吹き飛んだ。
ゆっくりと姿を現した巨大なモンスターを目にして。
それはイノチたちを見ると大きく咆哮を上げ、こちらに向かって突進し始めたのだった。
・
場面は再び逃走中。
「どっ…どうするBOSS!」
「どうするも何も!この洞窟は一本道で隠れやすい場所もあんまりないんだよ!通路を塞ぐにも幅が広すぎるし、だいいち、奴が大きすぎて単純な隆起じゃ足止めにもならない!」
「肝心な時に役に立たないわね!」
「うるせぇよ!走りながらキーボード叩けるだけでもすごいんだぞ、このやろう!!」
「意味がわからないわ!何とかしてよ!!」
走りながらギャーギャーと言い合うイノチとエレナ。
「BOSS…僕が足止めしようか?」
「ダメ!アレックスにはそんなことさせられない!」
「わたくしが招いたことですわ。ここはわたくしが…」
「それも却下!!ちょっと考えるから待ってて!!」
良い案を考えようと、走りながら必死に頭を悩ませるイノチ。
その様子を見ていたセイドは思った。
この状況は利用できる、と。
イノチたちに自分のことを信用させるには、リスクを背負うしかないのだという考えに至ったのだ。
「おい!あんた!!」
セイドの声に、逃げながらもイノチが振り向く。
「ここは俺が食い止めるから、お前らはその間に逃げてくれ!」
「なっ…何言ってんだ!あんなの相手にしたらお前も死ぬぞ!」
「俺はああいう奴の扱いには慣れてる方なんだ!ここで俺の漢気を見せてやるから!だから…!」
「そうは言っても…おっ…おい、エレナ!?」
イノチの言葉を遮るようにエレナが間に入り込む。
「いいわ!あたしたちがちゃんと逃げ切れたら、あんたのこと信じてあげる。」
「いいね、話が早くて助かるよ!交渉成立だな!!」
「おい、エレナ!なに勝手に決めてんだよ!あんな奴の相手を一人でできるわけないだろ!?」
「安心しろって!俺はあんたらと手を組みたい!!詳しくは後で話すが、その前に俺のことを信用してもらわなくちゃなんねぇ!!なら、俺がここでできるのは命をかけるってことだ!」
セイドはそう言うと立ち止まり、後方へ振り向いた。
それを見たイノチが止めようと立ち止まる。
が、エレナがイノチの体を担ぎ上げた。
叫ぶイノチを尻目に、セイドは地面から現れた三叉槍を手に取ると大声で叫ぶ。
「さぁ!デカブツちゃん!!俺と一緒に遊ぼうか!!」
巨獣はそれを見て気に食わなさそうに大きく咆哮を上げたのだった。
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