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第三章 ランク戦開催
53話 守られた約束
しおりを挟む「で、あいつらはどうしている訳?」
朝食を取るために街へと繰り出したイノチたち。
そんな中、先頭を歩くイノチへエレナが問いかける。
「ん?あぁ、ウォタとゲンサイのこと?昨日ゲンサイから届いたメッセージによると、今頃ジパン行きの船に乗ってるんじゃないか?朝には港に着くっていってたからな。」
「ということは、ジプト法国についてはひと段落したのね。」
「あぁ…かなりかき回してくれたみたいだからな。ランク戦開催までに落ち着くことはないだろうって。」
「なら、これで一つ懸念が消えたのですわ!」
「よかったね♪BOSS♪」
フレデリカとアレックスのその言葉に、イノチも笑みをこぼした。
「トヌスの方は少し驚いたけど、あのヘスネビと手を組んだって。」
「ヘス…ネビ…って誰だったかしら?」
「え?覚えてないのか?」
その言葉にイノチはため息をつく。
そして、代弁するようにアレックスが口を開いた。
「エレナさん、ほら♪ダルムさんのお店で僕と遊んだ時の♪」
「ダルムの沈黙亭で…?なんだったかしら…え~っと…」
(エレナが鹿を被ったのはある意味、馬鹿の本能なのかもしれない…)
首を傾げるエレナを見て、その時のことを思い出したイノチは一人心の中で納得していた。
「…BOSS?なんかあたしのことバカにしてない?」
「え…?してないしてない!あの時のことを思い出してただけだって!」
ジト目で見てくるエレナの視線をかわしつつ、イノチは話を続ける。
街に近づいてきたようで、辺りには行き交う人の数も増えてきた。
「スネク商会にも話を通すことができたらしくて、トウト付近の海域に船と兵を配置して守りを固める作戦なんだと。あとはトウトのプレイヤーたちをまとめることができれば首尾は上々だとさ。」
「思った以上に順調ですわね。トヌスはアホだから一番心配でしたのに…」
相変わらずトヌスには厳しいフレデリカの言葉に苦笑いしつつ、イノチは話を続ける。
「ハハハ…それよりもタケルとミコトたちが心配だなぁ。最近定時の連絡も遅れ気味だし、報告の内容も曖昧だし…あくまで対等な立場で協力してもらってるだけだから、あれやこれやを聞くのも気がひけるんだよなぁ…」
「確かにそうですわ。タケルはどちらかと言うと合理的で計算高いタイプ。そういうところはきっちりしそうですけど…」
「まぁ、ミコトもゼンもいるんだし大丈夫でしょ!」
エレナの言葉に小さくため息をつくイノチ。
フレデリカも肩をすくめてあきれた顔をしている。
「確かにミコトからは大丈夫って返事はあったけど…う~ん…」
その時、イノチが持っていた携帯端末から通知音がする。
「ん?メッセージだ…だれから…」
立ち止まり、携帯を取り出すイノチ。
エレナたちも興味ありげに後ろから覗き込んだ。
「ゲンサイからだ…」
メッセージアイコンをタッチして一覧を開く。
その一番上には『New』と表示され、ゲンサイの名でメッセージが届いている。
「タイトルなし…か。あいつらしいな。」
メッセージをタッチする。
画面が切り替わり、イノチは本文に目を通していく。
「ねぇ…BOSS。なんて書いてあるの?」
「ゲンサイが珍しいですわね。あのコミュ障男がメールを送ってくるとは。」
「ゲンサイさんにもそういうところがあるんだね♪」
三人娘がワキワキと後ろで話す中、イノチはそれには何も答えない。
ジッと画面を見つめたまま…
その態度を訝しんだエレナがイノチに声をかける。
「BOSS…?どうしたの?」
「…」
フレデリカもアレックスも、イノチの様子を心配している。
四人の間に沈黙が訪れる…
しかし、それを破ったのはイノチだった。
「ウォタが…」
その言葉は震えていた。
画面に顔を向けたまま、小さく肩を震わせるイノチ。
「ウォタ?ウォタに何かあったの?!…BOSS!」
エレナがイノチの肩を掴む。
フレデリカとアレックスは、固唾を呑んでイノチの言葉を待つ。
「ウォタが…消えてしまったって…」
振り向いたイノチの顔には、涙が浮かんでいた。
◆
「僕の国を無秩序に荒らしたんだから死んでもらうよ!」
キリシメは…いや、彼に乗り移っている神がそう告げる。
「くっ…!」
ウォタはその強い気配に、今まで見せたことのない焦りの表情を浮かべていた。
「君だよね、僕の国でプレイヤーを殺しまくってくれたのは…なんでこんなことするかなぁ。」
キリシメの顔がゲンサイへと向く。
「仕事から帰ったら、僕の国のプレイヤーの数がめちゃくちゃ減ってるんだもん。せっかく集めたのに…責任取れよ。」
そう言って手を上げ、ゲンサイへと向けた。
「ちぃっ…!」
ウォタが何かを察してゲンサイの前に回り込む。
その瞬間、キリシメの手から紫色のオーラのようなものが放たれたのだ。
「ぐぅぅぅ…」
水色の障壁を発動し、キリシメの攻撃を受け止めるウォタ。
「おっ…おい!ウォタ!」
「黙っていろっっっ!!!!」
目の前で耐えるウォタにゲンサイは声をかけたが、ウォタはそれを一蹴する様に大きく叫んだ。
その様子を不思議そうに眺めるキリシメ。
「君は…神獣でしょ?なんで彼を庇うんだい?」
「そ…それは…貴方には関係…ないことだ。」
「まぁそうなんだけど…僕に勝てないことはわかってるでしょ?今、君がやってることは意味がないことだよ。ねぇ…」
涼しい顔をしたまま、そう告げるキリシメの手から追加されたオーラの衝撃が、ウォタへと襲いかかる。
「がぁぁぁっ!!おぉぉぉぉぉ!!!!」
それでも必死に耐えるウォタ。
目は血走り、鼻からは血が吹き出している。
額から大粒の汗を流し、苦しそうな表情を浮かべるウォタだが、それでも諦めることはない。
その姿を見てわゲンサイは言葉に表せない何かで心が埋め尽くされていくのを感じた。
「ウォタっ!もういい!!そこまでする義理はお前にはないはずだ!!俺のことは気にしなくていい!!俺は…」
そこまで言ってうつむくゲンサイ。
この世界にきて、これほどまでに後悔したことはない。
自分のためだけにプレイヤーをたくさん殺してきたツケがこんなところで回ってくるとは…
ウォタは関係ないのだ。
ウォタがここで死ぬ必要はない。
しかし、その言葉にウォタは振り返ることなく応える。
「お前は…もうイノチの仲間なのだ!その仲間を守るのは…我の義務…である!」
「……仲…間?」
「ぐぐぐ…そうだ!お前がどう思っていようが…あいつにとってお前は仲間…いつだったか、イノチは…お前と友になると…言っていたぞ。」
「友…友達だと…」
「そうだ…ハァハァ…イノチは…お人好しな奴だからな!そんなマスターにお前を守ってくれと言われたのだ!最強の竜種として約束は破らない!がぁぁぁぁぁ!!」
ウォタはそこまで言うとオーラを押し返そうと力を込めた。
「ごちゃごちゃとなんだかわからないけどさ。僕には次の仕事があるんだ。そろそろ終わりにするよ。」
ウォタたちの様子を見て、少し呆れたように肩をすくめるキリシメ。
その瞬間、放つオーラの量が何倍にも膨れ上がったのだ。
ウォタも必死に抵抗するが…
「ぐぉぉぉぉぉ!ゲッ…ゲンサイ!!そこから逃げろ!早くっ!!」
「だけど…!!」
「うるさい!!さっさとそこをどけぇ!!」
「ぐぁっ!」
声を荒げ、後ろのゲンサイを尻尾で吹き飛ばしたウォタ。
その瞬間…
「それっ!」
キリシメの手から今までとは比べ物にならないほどのオーラが放たれた。
「ウォタァァァァァ!!!」
膝をつき、叫ぶゲンサイの目の前で、紫色の光に包まれていくウォタ。
ウォタがチラリとゲンサイを見る。
その顔には小さく笑みが浮かんでいた。
「お前はもっと強くなれる…イノチを頼むぞ。」
手を伸ばし、ゲンサイは大きく叫ぶ。
紫色の光は大きく輝きを増し、ウォタをその中へと包み込んでいく。
そして…
ゴォォォォォっと言う轟音が通り過ぎた後には、削られた砂原と静かさだけが残っていた。
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