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第三章 ランク戦開催
52話 神の獣
しおりを挟む「てめぇ…俺のこと舐めてんじゃねぇよ…」
ゲンサイとウォタのやり取りの傍らで、キリシメは怒りを再燃させていた。
俺を殺さないだと?
恨んでも構わない…はぁ?
次会った時は正々堂々と?
こいつは何を言っているんだ…人の仲間をあれだけ殺しておいて…自分だけ納得して逃げるつもりなのか…
死んだ奴らは戻ってこないのに…
この世界の腐ったシステムのせいで…
お前がそれを知らないとは言わせない…
お前には責任を取らせなければならない…
お前は…
「お前は逃さない!!逃がしてなるものか!!」
キリシメはそう大きく叫ぶと、再び瞳を紫色に輝かせ始めた。
それを見たゲンサイが驚いて口を開く。
「なんだ…まだやるのか。切り札も全部使ったのに…お前だけじゃ敵わないってわかって…」
「ククク…もう手がないだと?そんなこと、俺がいつ言った?」
あきれ顔で話すゲンサイの言葉を遮り、キリシメは肩を震わせて笑い始めた。
「俺はお前を殺しにきたんだ…仲間たちの仇を討つために…」
話し続けるキリシメの顔には、無数の血管が浮き上がっているのが見える。
「お前が強いことは…分かっているのに…何も…準備していない訳…ない…だろ…グググ…」
言葉とともに血管は大きく浮き上がり、キリシメの顔はいつしか血飛沫でも浴びたかのように真っ赤に染まっていた。
少し苦しそうに肩で息をするキリシメ。
彼は言葉に詰まりながら、聞き慣れない言葉を口にする。
「〈!up world〉〈Authority;code anbs〉〈Special Athy code = ※※※※〉」
その瞬間、キリシメの体の周りに黒いオーラが現れた。
「※※※さまぁ!!お力添えぇぇぇぇ感謝いたしますぅぅぅぁぁぁぁぁ!!」
叫ぶキリシメの周りで、いくつものオーラの筋がうねうねとまるで蛇のように蠢いている。
「これでぇぇぇ!これでお前をぉぉぉぉぉ!!」
それらはゆっくりと彼の体へと収束していった。
そして、全てのオーラがキリシメの体の中へと消えると、彼はそのままうつ伏せに倒れ込んだのだ。
「なっ…なんなんだ…こいつは…」
「…」
驚くゲンサイの横で、ウォタは倒れたキリシメをジッと見据えている。
その視界の中で、キリシメの指がピクリと動く。
その瞬間、ウォタの顔がみるみる青ざめていった。
「ゲンサイ!!逃げるぞ!我に捕まれ!!」
「はぁっ!?なんで…っておい!」
振り返り、訳が分からないといった表情を浮かべるゲンサイをすぐに担ぎ上げ、ウォタは地面を強く蹴り上げた。
一瞬でキリシメの姿が見えなくなり、倒れたサンドワームの巨体もすでに米粒ほどの小ささにしか見えない。
「おっ…おい!ウォタ!いったいどうしたんだ!?なんで逃げる必要がある!」
「あれは…あれはもう人ではない…」
「人じゃ…ない…?意味がわかんねぇよ!ちゃんと説明しろ!」
「黙っておれ!舌を噛んでも知らんぞ!詳しい話は逃げ切れたからだ!!」
ゲンサイは思った。
こんなウォタを今まで見たことがない。
こんなに焦っているということは、きっとキリシメの異変は只事ではないのだろう。
ウォタは何度も大きな跳躍を繰り返す。
すでに周りの景色には砂原と暗い星空しか見えない。
チラリとウォタの顔に視線を向ける。
歯を食いしばる顔は、まるで何かに怯えているようだった。
そんなウォタに対して、ゲンサイはこれ以上言葉をかけることはしなかった。
・
一方、倒れ込んだままのキリシメ。
指がピクリと動く。
次の瞬間、二つの双眸がカッと見開いた。
紫色の瞳が上下左右に、まるで視界を確認するようにキュルキュルと動いている。
全てを確認し終わったのか、一度目をつぶると両手を砂原につき、体をゆっくりと起こしていく。
服についた砂がパラパラと舞い落ちていく。
体勢を整え、片膝をつくとゆっくりと立ち上がり、彼は静かに目を開けた。
「…首尾は良い」
そうつぶやくと、体を隈なく動かしていくキリシメ。
その姿は、まるで動かし方を学ぶようにも感じられる。
そのうち、確認し終えたのか体を大きく伸ばして背伸びをすると、ウォタたちが逃げていった方向を見て小さく笑みをこぼした。
「…少しだけ楽しんでみるかな。」
・
「今どれくらい来たんだ?」
担がれながら問いかけるゲンサイ。
「あと少しで港だ…」
歯切れ悪く話すウォタに、ゲンサイは少しイラ立ちを感じた。
「おい、ウォタ!てめぇ、その辛気臭い感じはやめろ!似合わねぇんだよ!」
「…あ…あぁ、すまぬ。考え事をしていたのだ。」
視線だけゲンサイに向けると、すぐさま正面に戻すウォタ。
その様子を見かねて、ゲンサイはウォタに問いかける。
「そろそろ話してくれてもいいんじゃねぇか?さっきのあいつはなんだったんだ…?」
「…」
その問いかけにウォタはすぐには答えなかった。
少し何かを考えるようにして、振り向くことなく口を開く。
「2回目のお主には理解できるかもな…」
「…どういう意味だ?」
ウォタは小さくため息をつく。
「我らは神獣と呼ばれておるのは知っておるな?」
「あぁ、それは知ってる。」
「この世界には我らのことを神と間違えている者も多いが、本来、我らは神が生み出した獣であるのだ。」
「神…ね。要は、お前らはその神さまに創られて、この世界にいるってことか。」
「あぁ…各国にいる神獣たちは皆そうだ。その地を管理する神が世界のバランスを取るために創り出し、我らを"配置"しておるのだ。」
「世界のバランス…配置…?」
ウォタは小さくうなずく。
「この世界は複数の神が管理していてな。バランスを保つというのは、お主ら『プレイヤー』と呼ばれる者たちが調子に乗りすぎないように我らが監視しているということである。各国に配置されておる神獣たちは、神からの指示があればお主らを排除しに行くよう命令を受けておるのだ。」
「そんな話は初めて聞いたぜ… 」
「まぁ、普通はあり得ないことだな。その指示がくるのはお主らが強くなり過ぎて、世界のバランスが崩されると判断された時だけ…今までそんな指示がきたことはない。」
肩をすくめるウォタに、ゲンサイは問いかける。
「で、それとさっきのあいつとどんな関係があるんだ?」
「奴にその神の気配を感じたのだ…」
「はぁ…?あいつが神だった言うのか?」
ゲンサイの言葉にウォタは頭を振る。
「あいつが倒れた後、何かが奴の体の中に入り込んだ。その気配が我の知っている神の気配と似ていたのだ。」
「奴にどっかの神様が乗り移ったってことか?」
「そうだ。奴が叫んだ言葉…一部聞こえなかったであろう?」
確かにそれは気にかかっていた事だとゲンサイは思った。
キリシメが聞き慣れない言葉を発した後、一部何を言っているか分からない単語があったのを思い出す。
"※※※さま"
キリシメは確かに誰かに礼を述べていた。
だが、それが誰なのかは聞き取れなかった。
「奴は、奴が知り得るはずのない言葉を発していた。あの言葉は神がよく使う言葉だ。我の記憶にはそうある。」
「てことは…」
「あいつの体を媒体として、どこかの神がこの世界に降り立ったということだ。」
「なら、その神さまの目的は…」
ゲンサイがそこまで言いかけた途端、ウォタが急ブレーキをかける。
「なっ…どうしだんだ!急に!!」
「ゲンサイ…離れとれ…」
ウォタは担いでいたゲンサイの体をそっと下ろして、顔を向けることなく離れろと手を振る。
視線の先を見てゲンサイは驚いた。
「やぁ。思ったより早かったね。」
ニコニコと笑うキリシメがそこには立っていた。
しかし、口調や素振りには違和感がある。
まるで別人になったかのような…
「君…ジパンの神獣くん?なんでここにいるの?」
「…」
「あれ?しゃべれないの?人型になっているのに…ていうか、神獣なら話せるでしょ?」
笑みを浮かべたまま、首を傾げるキリシメ。
一向に口を開かないウォタとゲンサイを見て、彼は次の瞬間、こう告げた。
「なんでもいいんだけど、僕の国を無秩序に荒らしたんだから死んでよね!」
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