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第三章 ランク戦開催
69話 レイド開始
しおりを挟む「さて…もうすぐだな。」
オサノが手元の携帯端末を見てそうつぶやく。
レイド開催まで、カウントダウンはすでに10分を切っていた。
目の前にある祠に特に動きはない。
陽はほとんど落ちて、辺りには暗闇が訪れ始めており、少し肌寒い風が草はらを通り抜けていく。
「最後に奴の動きをもう一度確認しよう。」
タケルの言葉に皆はうなずいた。
それを確認したタケルは改めて口を開く。
そもそも、これはゲームとはいえゲームではない。
わかりにくい言い回しだが、人もモンスターもシステムの範囲で動く本来のゲームとは違って、全てが個々の意識下で動いている。
それも神々が創った世界なので当たり前なのだが…
兎にも角にも、これから戦う『八岐大蛇』には意思がある。
ゲームのようなセオリーは存在しないのだ。
「気をつけなきゃならないのは、八つの頭から放たれるブレス…それと尻尾を使った回転攻撃だね。ブレスは基本、同時に放てないはずだけど、数が多いからどの頭が放ってくるかはわからない。吐く前に口を大きく開く予備動作があるから、全員でその情報を共有をすることが大事。」
何度も確認したことだ。
みんな静かにうなずく。
「奴が現れたら、ミコトとシェリーはすぐにみんなへバフ魔法をかけて、その後はブレスの発動を注視して…オサノが守ってくれるから安心していいよ。ガージュには奴の注目を集めてもらって、そのタイミングで僕とソウタとカヅチが正面から攻撃する。」
「そして、お主らが奴の気を引いてる間に、我らが酒を準備するのだな。」
フクオウの言葉にタケルはうなずいた。
「とにかく範囲攻撃には気をつけて…もしも危なくなったらすぐに距離をとってね。」
タケルはそう言って皆の後ろを指差す。
皆が振り返るその先に、白い三角の旗が地面に建てられているのがうかがえる。
「あの辺りまでの距離が、奴の攻撃の範囲外だと考えておいていいと思う。危険と感じたらすぐにあれくらいの距離を取ること。」
「それは緊急の時のことよ。基本、回復はあたしに任せてちょうだい!」
シェリーはそう言って自分の胸を叩いた。
そんなシェリーを見てカヅチが鼻を鳴らす。
「そんなこと言って、いつもみたく突然キレてほっぽりだすなよ。」
「なっ…!?カヅチ、あんたね!毎回一言多いのよ!」
「本当この事だろ?」
「なによ!うるさいわね!このゴリラ女!!」
「んだと!?このオカマモンスターが!」
「言ったわね!!」
睨み合う二人を見て、みんな苦笑いを浮かべている。
「…と、まぁ注意するべきことは再確認できたかな。」
タケルがそう言うと、サリーがそっと近づいてくる。
「タケルさま、そろそろ5分前です。」
「そうかい…よし、みんなは配置に…」
その時だった。
携帯端末のカウントダウンがちょうど5分を表示した瞬間、それは突然起きた。
祠から突如として現れた黒紫色のオーラ。
噴水のように吹き出したそれらは、ウネウネと大きく動き、まるで蛇の頭のようにも見える。
「なっ…なんだ、あれは!!」
「あんなの…前は起こらなかった…」
ソウタとオサノが驚く最中、そのオーラは少しずつ数を増やしていった。
フクオウらも驚いた表情を浮かべてそれらを注視している。
「こっ…これはいったい!」
「わからない!カウントが5分前になった途端、祠からあれらが吹き出したんだ!」
「な…なんだか蛇の頭みたいだね…」
「気持ち悪りぃ…」
その場にいる全員がそれに気を取られていると、どこからともなく笑い声が響いてきた。
その声はタケルも聞いたことのない声だった。
《グハハハハハ!!あと少しで復活だぜ!!ウイッ…今回はだいぶ酒を飲んだからなぁ!楽しませてもらうぜぇ!!》
「タケルくん…これって…」
「あぁ…おそらく『八岐大蛇』だろう。だけど…」
ミコトの言葉に冷静を装うも、タケルは内心で動揺していた。
(前回の『八岐大蛇』はしゃべらなかったはず…なのに今回は…どういうことだ。)
よく聞けば、その声は祠の中から聞こえてくるようだ。
《けっこう集まってんなぁ…ウイッ…ひいふうみい…三十人くらいか?ちっとばっか少ねぇが、楽しませてくれよなぁ!》
その声に合わせてオーラがうねる。
まるでこちらを見ているかのように、それぞれのオーラがタケルたちプレイヤーを品定めするように動き回っている。
「みんな!時間がない!配置につくんだ!」
タケルの一声に、みんな我にかえると一目散に走り出す。
端末のカウントは残り『00:2:30』
《まだ2分もあんのかよ…ウイッ…まぁ酒もあと少しあるし、てめぇらの怯えた顔を肴に楽しむかな。》
そうつぶやいた八岐大蛇。
祠の奥からは、八岐大蛇の喉を鳴らす音が響き渡る。
《くはぁぁぁぁぁっ!!やっぱりこの酒は最高…ウイッ…だぜぇぇぇ。お前らのその顔もいいねぇ!!安心しろよぉ、もうすぐ俺が楽にしてやるからよぉ!ガハハハハハハ!!ウイッ!》
場の空気を読まず、一人宴会を楽しむ会社のアホな上司かと思わせるほど楽しげに話す八岐大蛇に対して、タケルが口を開く。
「お前…前回のこと覚えているのか?」
《あん…?》
その言葉にうねり動いていた全てのオーラが、タケルの方へ一斉に視線を向けた。
《前回…?あぁ、よく見りゃお前、前に逃げ帰った奴じゃねぇか!それに他にも見覚えのある顔があるなぁ…ウイッ…》
思い出したように笑い声をあげる八岐大蛇。
《お前ら、性懲りも無くまた俺様に挑むのか!まぁ、前回あんな様だったんだ。悔しくて仕方ないからリベンジしてやるぅってとこか?ククククク…》
「今日は前回とは違う!!僕たちは強くなったんだ!!この前のようにはいかない!!」
タケルの言葉にさらに笑い声をあげる八岐大蛇。
《ギャハハハハ!!いいねいいね!その意気だ!すぐに死んじまったらつまんねぇ!あとちょっとで相手してやるからもうちょい待ってな。》
馬鹿にされ、歯を食いしばるタケル。
その横ではソウタも悔しげな表情を浮かべている。
しかし、二人は言い返すことができなかった。
逃げ帰ったのは事実なのだから。
しかし、『孤高の旅団』のメンバーたちが悔しがる様子を見て、我慢できなかったミコトが言葉を絞り出した。
「バカにできるのも今のうちだよ…」
《…あん?》
八岐大蛇はミコトのその言葉に笑うのをやめる。
タケルたちも少し驚いてミコトに視線を向けている。
「バカみたいに笑ってるけど、私たちは絶対に負けない…」
《ほう…なかなか強気だなぁ。》
ミコトは力強い眼で真っ直ぐに祠を睨みつける。
「この街は…ジパンは私たちが守る!!あなたになんかに絶対負けない!!」
《ククク…グハハハハハ!!》
大きな笑い声が辺りに響き渡った。
ミコトたちは負けじと祠へ強い視線を向ける。
しかし、八岐大蛇はすぐに笑うのをやめて低い声を轟かした。
《せいぜい足掻くがいい…虫ケラども。神獣の恐ろしさを奴をてめぇらの魂に刻み込んでやる。》
その瞬間、端末のカウントが『00:00:00』を表示する。
「始まるぞ!!」
オサノの声に全員が身構えると同時に、大地が大きく振動し始めた。
その振動で祠が崩れ落ち、それを合図に今度は大きな地鳴りが鳴り響く。
そして、祠があった場所を中心に地面がゆっくりと盛り上がり始めたのだ。
四方八方に地割れを起こしながら、それはタケルたちの背丈も超えて、周りの木よりも高く隆起していく。
そして、ふるい落ちる土の中、タケルたちがゆっくりとそれを見上げれば、そこには八つの頭と八本の尻尾を持つ巨大な竜が立っていた。
八つの頭それぞれには鬼灯のように紅い双眸が光り、ゆらゆらとその首をうねらせている。
そして…
《グハハハハハ…さぁて、始めようじゃねぇか!!!》
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