ガチャガチャガチャ 〜職業「システムエンジニア」の僕は、ガチャで集めた仲間とガチャガチャやっていきます〜

noah太郎

文字の大きさ
200 / 290
第三章 ランク戦開催

73話 タケル×ケツイ

しおりを挟む

タケルが八岐大蛇と話す様子を、ミコトは少し離れた場所で見守っていた。

先ほどのブレスの強力さには驚いたが、運良くその軌道から逸れたことに胸を撫で下ろす。

周りを確認してみると他の仲間たちもみな無事で、みんなタケルと八岐大蛇の話に耳を傾けているようだ。

その話を聞く限りだと、タケルは被害なく八岐大蛇に酒を飲ませるつもりで煽っているようだった。

現に奴の絶対防御を崩す策があると大見えを張っている。

しかし、その根拠を問われてタケルは黙ってしまったのだが…

ミコトはゼンが眠る首飾りを握りしめた。
ゼンが起きてくれれば形勢は逆転する可能性がある。

それなのに…
先ほどから何度呼びかけても、やはりゼンからの返事はない。

ウォタの覚醒体を見てからゼンの様子がおかしくなったことはわかっていたのだが…

ウォタを目標として強さを求めているのはわかるが、ミコトにはゼンが強くなることだけに囚われているように見えたのだ。

そして、タカハにくる前にゼンは突然首飾りの中にこもってしまった。


(私は…ゼンちゃんのことを…)


ミコトは寂しさから涙をこぼした。
その雫が首飾りにあたり、撫でるように伝っていく。

ゼンはミコトがガチャで引いたキャラである。
だが、ミコトにとってはこの世界での最初の仲間…いや、友達だったのだ。

もっと相談してほしかった…
神獣とプレイヤーは違う存在かもしれないし、力になれたかどうかはわからない…

けど、もっと頼ってほしかった…
一緒に考えてほしかった…

『友達』なのだから…

そう思い、首飾りを強く握りしめるが、無情にもゼンに反応はなかった。

ミコトは指で涙を拭うと、気持ちを切り替えてタケルに目を向ける。

今ゼンがいないことを悔やんでも仕方がない。
今はタケルや他のみんなを全力でサポートして、八岐大蛇を倒すことだけを考えるしかない。


「お酒がどれだけ効くかはわからないけど…絶対に倒すんだ。」


そうつぶやいて、手に持つ『エターナル・サンライズ』を強く握る。

しかし、その時だった。


ーーートクンッ


首飾りが微かに反応したことにミコトは気づく。


(えっ…?ゼンちゃん…?)


一瞬のことでミコトは少し混乱したが、すぐにその理由を理解した。

タケルが発したある言葉。
『アマテラス』という言葉にゼンは反応したのだ。


(タケルくんはどこであの名前を…ううん!今はそれより…)


ミコトは再び首飾りを握りしめる。


「ゼンちゃん!聞こえる?」


やはり反応はない。
だが、ミコトは諦めなかった。


「ゼンちゃん!お願い起きて!このままじゃ、みんな八岐大蛇にやられてしまうかもしれないよ!」

「……」

「『アマテラス』…この名前、知ってるんだよね!?」

「……」

「何とか言って!ゼンちゃん!!」





真っ白な空間で一人の男が瞑想に耽っている。
あぐらをかき、膝に手のひらをのせて目をつぶっている。

地平線すらも見えない空間で、ただ一人、ゼンは自分と向き合っていた。

弱い自分。
強いウォタと弱い自分。

彼の最強竜に追いつく…いや、追い抜くためにはどうすればいいのか。

今のままでは絶対勝てないことは明白である。
あいつは覚醒体にまでたどり着いているのだから。

竜種の限界を超え、人型に落ち着くことで竜型の時よりも何千倍にも力が増す覚醒体。

自分もウォタのようにそれに至る境地を模索しているのだ。


(奴がなれたのだから私になれない道理はないはず…)


そう想い、考え、悩み、ゼンはミコトの言葉に声を傾けることなく、長い間瞑想を繰り返していた。

しかし、答えが見つからぬまま、それも終わることになる。


突然、ある言葉が頭の中に響いた。


『アマテラス…』


(なんだ!?なぜ御方の名前が…)


その瞬間に、聞き知った声が自分の名前を呼んでいることに気づく。


ーーーゼンちゃん!


この声は誰だったか。
ゼンはゆっくりと目を開いた。


ーーーゼンちゃんお願い!起きて!


これは…ミコトか?
なぜミコトが私の名を…

ぼやける意識の中でゼンは必死に考える。


ーーーみんながやられてしまうよ!お願いだから起きて!


皆がやられる?いったい何のことだ…

頭の中が霞んでいて、うまく考えがまとまらない。
しかし…


ーーー早く!八岐大蛇にやられちゃうよぉ!


その名前を聞いた瞬間、ゼンははっきりと意識を取り戻した。


「そうだった…八岐大蛇…。奴を倒すのが"イノチとの約束"だった…私はいったい何をしていたのか!」


そう言って立ち上がったゼンは、長い間自分が迷走していたことに気づいたのだ。

また、ウォタの幻影に囚われていた…
強い奴を見て、はやる気持ちを抑えることができなかった…
あの時と同じではないか…

悔しさが心を埋め尽くしていく。


「己の弱さには毎回吐き気が出るな…友の叫びを無視してたどり着ける強さに意味はないはずなのに…」


ゼンはそう自分を戒めると、天を仰いで声を上げる。


「ミコト!今行くから待っていろ!!」





《やっぱり『八塩折酒』は美味いぜ!!》


八岐大蛇はそう言うと目の前に置かれた酒樽の一つに顔を突っ込んだ。

ガブガブと樽の中で口を動かし、勢いよく酒を喰らっていくその姿を、タケルや他のメンバーは静かに眺めている。


「タケル…本当にこれでうまく行くのか?」


近づいてきたオサノがタケルにそう問いかけた。


「わからないよ…ただ、古事記のとおりなら、奴はあれで酔って眠るはずなんだ。」

「だといいが…もうそうならなかったら…」

「……」


その問いにタケルは答えることはできなかった。

何もかも古事記の話に沿って進めただけで、確定要素などどこにもないのだから。

もしこの作戦がうまくいかなかった時は…
一つ目の酒樽を飲み終えた八岐大蛇が、そのまま次の酒樽へと顔を移す。


「もしうまくいかなかった時は全員退避だ…タイミングは合図する。」

「…わかった。」


オサノは静かにうなづくと、他のメンバーの元へと戻っていった。
おそらく、タケルの言葉を皆に伝えてくれているのだろう。

タケルは再び八岐大蛇へと視線を向けた。

酒樽に顔を突っ込んでいる怪物は、嬉しそうな声をあげて酒を喰らっている。


《ガハハハハハハ!力がみなぎっていくのを感じるぜ!あと少しで…あと少しで全ての力を取り戻せる!!グハハハハハ!!》


その様子を見たタケルは一人悟り、小さくつぶやいた。


「僕の責任だな…」


樽はあと一つ。
しかし、八岐大蛇は酔っ払った様子など微塵も見せない。
作戦は完全に失敗に終わったのである。

自ずと視線が下へ落ちる。

何もかも見立てが甘かったと後悔が溢れてくる。

八岐大蛇討伐に有効な酒の量もレイドイベントの情報も、何もかも調査が足りていなかった…
もっと時間をかけてやるべきことを怠っていた…

"普通のゲーム"ならできたことができなかったのだ。
理由を考えればたくさんあるだろうが、今となってはただの言い訳にしかならない。

タケルは自分のこれまでの行動を悔いていた。

うつむいたまま唇を噛み締めると、口元から滴る血が足下へと落ちて赤い染みを作っていく。

八岐大蛇はまもなく全ての酒を飲み終えるだろう。

タケルは何かを決意したように顔を上げると、オサノへ視線を向けた。

オサノはそれに静かにうなずくと、八岐大蛇に気づかれないよう他のメンバーやフクオウたちに指示を出していく。

今は絶望に浸る余裕などない。
自分が蒔いた種は、自分で回収せねばならない。

タケルは静かに刀を抜くと、霞の構えをとった。


「スキル…『カンヤライ』」


そう静かに唱えた瞬間、八岐大蛇を中心に白い障壁が半球体状に広がっていく。

それは、タケルと八岐大蛇だけを包み込み、内外から打ち破れぬほどの強力な障壁となった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...