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第三章 ランク戦開催
73話 タケル×ケツイ
しおりを挟むタケルが八岐大蛇と話す様子を、ミコトは少し離れた場所で見守っていた。
先ほどのブレスの強力さには驚いたが、運良くその軌道から逸れたことに胸を撫で下ろす。
周りを確認してみると他の仲間たちもみな無事で、みんなタケルと八岐大蛇の話に耳を傾けているようだ。
その話を聞く限りだと、タケルは被害なく八岐大蛇に酒を飲ませるつもりで煽っているようだった。
現に奴の絶対防御を崩す策があると大見えを張っている。
しかし、その根拠を問われてタケルは黙ってしまったのだが…
ミコトはゼンが眠る首飾りを握りしめた。
ゼンが起きてくれれば形勢は逆転する可能性がある。
それなのに…
先ほどから何度呼びかけても、やはりゼンからの返事はない。
ウォタの覚醒体を見てからゼンの様子がおかしくなったことはわかっていたのだが…
ウォタを目標として強さを求めているのはわかるが、ミコトにはゼンが強くなることだけに囚われているように見えたのだ。
そして、タカハにくる前にゼンは突然首飾りの中にこもってしまった。
(私は…ゼンちゃんのことを…)
ミコトは寂しさから涙をこぼした。
その雫が首飾りにあたり、撫でるように伝っていく。
ゼンはミコトがガチャで引いたキャラである。
だが、ミコトにとってはこの世界での最初の仲間…いや、友達だったのだ。
もっと相談してほしかった…
神獣とプレイヤーは違う存在かもしれないし、力になれたかどうかはわからない…
けど、もっと頼ってほしかった…
一緒に考えてほしかった…
『友達』なのだから…
そう思い、首飾りを強く握りしめるが、無情にもゼンに反応はなかった。
ミコトは指で涙を拭うと、気持ちを切り替えてタケルに目を向ける。
今ゼンがいないことを悔やんでも仕方がない。
今はタケルや他のみんなを全力でサポートして、八岐大蛇を倒すことだけを考えるしかない。
「お酒がどれだけ効くかはわからないけど…絶対に倒すんだ。」
そうつぶやいて、手に持つ『エターナル・サンライズ』を強く握る。
しかし、その時だった。
ーーートクンッ
首飾りが微かに反応したことにミコトは気づく。
(えっ…?ゼンちゃん…?)
一瞬のことでミコトは少し混乱したが、すぐにその理由を理解した。
タケルが発したある言葉。
『アマテラス』という言葉にゼンは反応したのだ。
(タケルくんはどこであの名前を…ううん!今はそれより…)
ミコトは再び首飾りを握りしめる。
「ゼンちゃん!聞こえる?」
やはり反応はない。
だが、ミコトは諦めなかった。
「ゼンちゃん!お願い起きて!このままじゃ、みんな八岐大蛇にやられてしまうかもしれないよ!」
「……」
「『アマテラス』…この名前、知ってるんだよね!?」
「……」
「何とか言って!ゼンちゃん!!」
・
真っ白な空間で一人の男が瞑想に耽っている。
あぐらをかき、膝に手のひらをのせて目をつぶっている。
地平線すらも見えない空間で、ただ一人、ゼンは自分と向き合っていた。
弱い自分。
強いウォタと弱い自分。
彼の最強竜に追いつく…いや、追い抜くためにはどうすればいいのか。
今のままでは絶対勝てないことは明白である。
あいつは覚醒体にまでたどり着いているのだから。
竜種の限界を超え、人型に落ち着くことで竜型の時よりも何千倍にも力が増す覚醒体。
自分もウォタのようにそれに至る境地を模索しているのだ。
(奴がなれたのだから私になれない道理はないはず…)
そう想い、考え、悩み、ゼンはミコトの言葉に声を傾けることなく、長い間瞑想を繰り返していた。
しかし、答えが見つからぬまま、それも終わることになる。
突然、ある言葉が頭の中に響いた。
『アマテラス…』
(なんだ!?なぜ御方の名前が…)
その瞬間に、聞き知った声が自分の名前を呼んでいることに気づく。
ーーーゼンちゃん!
この声は誰だったか。
ゼンはゆっくりと目を開いた。
ーーーゼンちゃんお願い!起きて!
これは…ミコトか?
なぜミコトが私の名を…
ぼやける意識の中でゼンは必死に考える。
ーーーみんながやられてしまうよ!お願いだから起きて!
皆がやられる?いったい何のことだ…
頭の中が霞んでいて、うまく考えがまとまらない。
しかし…
ーーー早く!八岐大蛇にやられちゃうよぉ!
その名前を聞いた瞬間、ゼンははっきりと意識を取り戻した。
「そうだった…八岐大蛇…。奴を倒すのが"イノチとの約束"だった…私はいったい何をしていたのか!」
そう言って立ち上がったゼンは、長い間自分が迷走していたことに気づいたのだ。
また、ウォタの幻影に囚われていた…
強い奴を見て、はやる気持ちを抑えることができなかった…
あの時と同じではないか…
悔しさが心を埋め尽くしていく。
「己の弱さには毎回吐き気が出るな…友の叫びを無視してたどり着ける強さに意味はないはずなのに…」
ゼンはそう自分を戒めると、天を仰いで声を上げる。
「ミコト!今行くから待っていろ!!」
・
《やっぱり『八塩折酒』は美味いぜ!!》
八岐大蛇はそう言うと目の前に置かれた酒樽の一つに顔を突っ込んだ。
ガブガブと樽の中で口を動かし、勢いよく酒を喰らっていくその姿を、タケルや他のメンバーは静かに眺めている。
「タケル…本当にこれでうまく行くのか?」
近づいてきたオサノがタケルにそう問いかけた。
「わからないよ…ただ、古事記のとおりなら、奴はあれで酔って眠るはずなんだ。」
「だといいが…もうそうならなかったら…」
「……」
その問いにタケルは答えることはできなかった。
何もかも古事記の話に沿って進めただけで、確定要素などどこにもないのだから。
もしこの作戦がうまくいかなかった時は…
一つ目の酒樽を飲み終えた八岐大蛇が、そのまま次の酒樽へと顔を移す。
「もしうまくいかなかった時は全員退避だ…タイミングは合図する。」
「…わかった。」
オサノは静かにうなづくと、他のメンバーの元へと戻っていった。
おそらく、タケルの言葉を皆に伝えてくれているのだろう。
タケルは再び八岐大蛇へと視線を向けた。
酒樽に顔を突っ込んでいる怪物は、嬉しそうな声をあげて酒を喰らっている。
《ガハハハハハハ!力がみなぎっていくのを感じるぜ!あと少しで…あと少しで全ての力を取り戻せる!!グハハハハハ!!》
その様子を見たタケルは一人悟り、小さくつぶやいた。
「僕の責任だな…」
樽はあと一つ。
しかし、八岐大蛇は酔っ払った様子など微塵も見せない。
作戦は完全に失敗に終わったのである。
自ずと視線が下へ落ちる。
何もかも見立てが甘かったと後悔が溢れてくる。
八岐大蛇討伐に有効な酒の量もレイドイベントの情報も、何もかも調査が足りていなかった…
もっと時間をかけてやるべきことを怠っていた…
"普通のゲーム"ならできたことができなかったのだ。
理由を考えればたくさんあるだろうが、今となってはただの言い訳にしかならない。
タケルは自分のこれまでの行動を悔いていた。
うつむいたまま唇を噛み締めると、口元から滴る血が足下へと落ちて赤い染みを作っていく。
八岐大蛇はまもなく全ての酒を飲み終えるだろう。
タケルは何かを決意したように顔を上げると、オサノへ視線を向けた。
オサノはそれに静かにうなずくと、八岐大蛇に気づかれないよう他のメンバーやフクオウたちに指示を出していく。
今は絶望に浸る余裕などない。
自分が蒔いた種は、自分で回収せねばならない。
タケルは静かに刀を抜くと、霞の構えをとった。
「スキル…『カンヤライ』」
そう静かに唱えた瞬間、八岐大蛇を中心に白い障壁が半球体状に広がっていく。
それは、タケルと八岐大蛇だけを包み込み、内外から打ち破れぬほどの強力な障壁となった。
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