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第三章 ランク戦開催
75話 理由
しおりを挟む《クハァァァァァァァ…飲んだぜぇ!》
臭い酒息を大きな口から吐き出す八岐大蛇。
顔は酒気を帯び、紅潮している。
目はトロトロと気持ちよさそうにしていて、少し焦点が合っていないように見えるが、そのうちの一つがギロリとタケルとミコトを睨んだ。
《あ~?なんかいつの間にか周りの様子が変わってねぇか?他の奴らはどこへ行った…ウィッ…そこの小娘は…最初からいたっけ…ん?》
他の頭をキョロキョロとさせ、あたりを見回す八岐大蛇。
そして、何かに気づいたように全ての顔をタケルたちに向けた。
《んだよぉ…この障壁は…てめぇがやったのか?》
「そうだ…お前は僕たちが止める。」
《だからよぉ…ウィッ…俺の絶対防御も崩せねぇのに粋がってんなよなぁ…ゲフゥ…》
途切れ途切れに話す八岐大蛇は、だいぶ酔っているようだ。
しゃっくりやゲップを繰り返しながらタケルたちを見て笑っているが、さっきとは違って少しイラ立っている。
《障壁なんか張りやがって…こんなんで俺を止められるって本気で考えてんのか?なんだか舐められてるなぁ…イライラするぜ…》
「それはやってみればわかるさ…」
《ちっ…まぁいい。酒のおかげで力も取り戻したしなぁ…サクッとてめぇらを殺して、この障壁ぶっ壊す。そして、他のプレイヤーも蹂躙してやるぜ!》
そう言って八岐大蛇は地響きを立てて大きな体を起こし、少しよろめきつつ立ち上がった。
「ミコト!準備はいいかい!?」
「うん!!大地を照らす聖なる光よ。災厄に立ち向かう勇敢なる者に、光の加護を与えたまえ。」
ミコトはすぐに魔法を唱え、タケルと自分にバフをかける。
二人の体を光の障壁が包み込む。
その目の前で八岐大蛇が大きく咆哮し、ビリビリと空気を揺らす。
《一撃で死んだら面白くねぇからなぁ!ガハハハハハハ!》
・
「くそぉ!オサノ!なんなのよ、あいつ!!」
シェリーは青筋を立たせて、力を込めた拳を叩きつけた。
そこから亀裂が四方八方に走る。
「シェリー、落ち着けよ。」
「落ち着いていられるわけないでしょ!タケルは一人で八岐大蛇に挑んでるっていうのに!」
「そうだぜ!オサノのバカ野郎!あんにゃろう、勝手なことをしやがって!」
拳を握り、ソウタの言葉に反発するシェリー。
カヅチもその横で持っていた槍の束を突き立てる。
彼女もだいぶご立腹の様子だ。
「けっこう流されちゃったわ…ああん、早く戻りましょうよ!」
「そうだぜ!タケルを助けにいかねぇと!!」
「それはならん。」
怒る二人がその声に振り向けば、そこにはオサノが立っていた。
「オサノ!あんたぁ!」
「てめぇ!」
シェリーとカヅチがオサノに詰め寄る。
カヅチがオサノの胸ぐらを掴み上げるが、オサノは無表情に目をつむっている。
「やめるんだ、二人とも!」
カヅチがまさに殴らんとした瞬間、ソウタがそれを止めた。
「ソウタ、なんで止めんだよ!」
「オサノを殴っても意味ないからさ。」
「しかし、こいつは勝手に!」
「静かに。オサノ…最初からこのつもりだったのかい?」
ソウタの怒りを感じとり、シェリーもカヅチも大人しくなる。
カヅチが手を離すとオサノはゆっくり目を開き、その問いかけに口を開いた。
「そうだな…最初からと言われれば、こう決めていたのは間違いではない。」
「なによ!意味わかんないわ!ちゃんと説明しなさい!」
「もちろんそのつもりだ。今お主らに戻られてはタケルとの約束が守れない。」
会話するメンバーの元に、同じく流されてきたフクオウが駆け寄ってきた。
「おい!オサノ殿!これはいったいどういうことなのだ!」
タイミングよく走り寄ってきたフクオウを見て、オサノは小さく息を吐く。
「フクオウか、ちょうどよかった。これで皆揃ったな…まずは結論から言うぞ。我々はタケルの元には戻らない。」
「「「「なっ!?」」」」
全員が声を揃えて驚く横で、ソウタだけは静かに反論することなくその言葉を聞いている。
「なんと…!」
「どういう意味よ!タケルを助けにいかないっていうことぉ?」
「そうだぜ!オサノ!てんめぇ、仲間を見捨てんのかぁ!」
「話は最後まで聞け。その理由を今から話す。」
フクオウ、シェリー、カヅチが声を荒げる中、オサノは宥めるように話を続ける。
「これはタケルの意思なんだ…俺はその意志を尊重することにした。そして、八岐大蛇に挑む前にあやつと一つ約束したんだ。皆は死なせないとな…」
そう告げるオサノの表情は悔しげだった。
それを見ていたシェリーもカヅチも、いつしかオサノの言葉に聞き入っている。
「タケルはな、ずっと罪悪感を感じていた。自分の過ちで北の村を滅ぼしてしまったことにな。」
「それは…!タケルだけの問題じゃない。あたしたちにも責任が…」
「俺もそう感じているよ。だが、タケルはそうやって割り切ることはできなかったようだ。」
「原因は、例のアイテムかい…?」
ソウタの言葉にオサノはうなずく。
「あぁ…フクオウもいるから簡単に説明するが、八岐大蛇を倒せば『草薙剣』がドロップする。これはプレイヤーを一人だけ生き返らせることができるというアイテムだ。それを手に入れるために、前回俺たちは八岐大蛇に挑戦したが…その情報を持ってきたのはタケルだった。」
その言葉にソウタたちが押し黙る中、フクオウが口を開く。
「そんなアイテムがあるとは初耳だぞ。タケルの奴はいったいどこでそんな情報を…」
「今になってはどうでもいいことだが、当時タケルはとある情報屋から聞いたとだけしか教えてくれなかった。だが、それを手に入れたい理由がある俺たちには、情報屋のことなどどうでもよかったからな…誰も深くは聞かなかった。」
「そうか。しかし、手に入れたい理由があったと言うことは誰かが死んだのか?」
訝しげに見つめてくるフクオウに対し、オサノは小さくため息をつくとゆっくりと口を開く。
「俺たちには"きなこ"という仲間がいたんだ…しかし、『イセ』のユニークモンスターに挑んだ時に命を落とした。彼女は俺の妹でもあり、タケルの恋人だったのだ。」
「そ…それは…お悔やみ申し上げる…」
フクオウは少し申し訳なさそうにそう告げた。
オサノは気にするなと手を上げると、再び続きを話していく。
「知っての通り、我らは八岐大蛇に惨敗し逃げ帰ることになる。その際、この辺りにあった北の村は八岐大蛇に滅ぼされてしまった。タケルはそのことをひどく悔やんだ。自分のせいだ、自分が持ってきた情報のせいで関係ない人たちを巻き添えにしてしまった、と…」
フクオウも含め、皆オサノの話に聞き入っている。
「だから今回、イノチ殿からタカハでの作戦を承った際、タケルはもう一度八岐大蛇にリベンジすることを決めていたようだ。俺はもちろん反対した…妹のためにするのならばやめろと言った。だが、あやつはこう言ったんだ。」
『夢できなこに会ったんだ…そこで彼女に北の村の人たちに報いないとって言われたよ。自分のことはいいから、ちゃんと筋は通そうって…彼女らしいよね。』
そう話すオサノの目には、いつの間にか涙が浮かんでいた。
兄として死んだ妹のことを思い出しているのだ。
シェリーは号泣し、ソウタやカヅチも思い出したように表情は暗い。
「タケルの意思は固かった。きなこを生き返らせるためではなく、北の村の人々へ謝罪するために八岐大蛇を倒すのだと…。あやつはきなこのことが本当に好きだったからな。そこからは俺の話などいっさい聞きやしなかったよ。」
「たげどさ、オサノ…タケルは今、なぜ一人でやろうとしているんだい?わざわざ僕らを呼んだっていうのに。」
天を仰ぐオサノに対し、ソウタが問いかけた。
オサノはもっともだと言うように顔を皆へと向ける。
「もちろん、皆で倒せるならそれが一番良かったのだ。理由はただそれだけだよ。なんだかんだ言ってあやつは俺たちのことを信用してくれているのだ。そして、それと同じように大事に考えている。だから、無理だと判断した時はすぐに皆を逃してくれと俺に依頼し、俺はそれを受けたのだ。」
「あいつは…まったく。」
ソウタは腰に手を当て、大きくため息をつく。
そして、小さくつぶやいた。
「僕は怒ってるんだ。」
「わかっている。黙っていたことは本当に申し訳な…」
「そうじゃない。」
言葉を遮られたオサノは驚いてソウタを見た。
その瞳の奥には怒りと呆れが混じり合っており、その眼でオサノを睨みつけながら彼はこう告げたのだ。
「シェリー、カヅチ…タケルをぶん殴りに戻るよ。」
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