204 / 290
第三章 ランク戦開催
77話 勝機…ときどき雲行き
しおりを挟む離れた場所で立ち昇る炎の柱。
木の上に立ったまま薄紫色のツインテールを揺らし、遠くからそれを見つめているのはヴェーである。
「あの攻撃魔法…ちょっとおかしい…」
相変わらず無表情のまま、赤とオレンジが交わるように燃え上がる炎の柱を見てヴェーはそうこぼした。
・
一方、タケルの元へと急ぐソウタたちも、高く立ち上がる炎の柱に気づき立ち止まる。
「なによ、あれ!」
「炎系の魔法…八岐大蛇か?」
シェリーとカヅチが見上げる傍らで、ソウタがあることに気づいた。
「もしかして…ミコト…?」
「「「「なっ!」」」」
その言葉に皆驚き、ソウタに目を向ける。
「ミコトはメイジだろ?あんな強力な攻撃魔法なんて使えるはずないぜ!」
「そうだ。メイジはバフ・デバフを得意とする職業だぞ!」
「でも、今ここにミコトはいないし、タケルはあんな大技持ってない。八岐大蛇のブレスにも見えない…なら、可能性として考え得るのは…」
皆、ソウタの言葉を聞いて息を呑み、未だ立ち上がる炎の柱を見つめている。
「急ごう…」
ソウタが小さくつぶやいた。
・
《ガアァァァァァァァ!!》
目の前で轟々と立ち上がる炎を見て、タケルは唖然としていた。
その中では、八岐大蛇が大きな叫びを上げている。
「これを…ミコトが…?」
炎の柱の先には赤く光り輝く杖を握りしめ、八岐大蛇を睨みつけるミコトの姿があった。
「ミコト…君はいったい……んっ!?」
見つめていたミコトの後ろにに、一瞬黒い影が見えた。
「見間違い…か?確かに今ミコトの背に竜のような…」
タケルは目をこすり、もう一度見直たがその影はもうない。
その傍で炎の柱がゆっくりと収束していく。
《ガァァ…グゥゥゥ…なんだ…小娘、お前ぇぇぇ…何者なんだぁ!!》
プスプスと体のところどころを焦がした八岐大蛇が、再び大きく声を上げる。
ミコトを見るその目には猜疑心が浮かんでいた。
《なんで…!なぜだ!なぜ貴様の攻撃は俺の絶対防御を貫ける!?》
「そんなの知らないよ!私はあなたを倒したいだけ!」
《知らないだとぉぉぉ!嘘をつくなぁぁぁ!!》
「ミコト!危ない!!」
「きゃっ!」
怒り狂って一斉に飛び掛かる八岐大蛇の頭たち。
タケルはミコトを抱き抱え、それらを回避していく。
「こいつ…我を忘れてる!ミコト!魔法はまだ使えるかい!?」
「もちろん!だけど、少し離れないと自分たちも巻き添えに…」
「そうだね…じゃあ、タイミングを合わせよう!準備ができたら教えて!」
《なぁにごちゃごちゃ抜かしてやがる!!なめてんじゃねぇぞぉぉぉ!!》
暴れ回る8本の頭を、ミコトを抱いたまま軽快にかわしていくタケル。
「轟雷を操りし天の主よ、その力、一条の光となりて…」
ミコトはタケルに身を任せ、詠唱を始めた。
右から飛びかかってきた八岐大蛇の頭を、タケルは上に飛んでかわす。
宙に浮いたタケルを狙って、左斜め上から襲いくる頭に対して体をひねってうまくいなしたところで、ミコトから合図がある。
「タケルくん!OKだよ!」
タケルはその言葉にうなずき、八岐大蛇の首を土台に蹴り上げて高く飛び上がった。
自分たちを追うように大きく口を開けて伸び上がる3本の頭を見下ろしながら、タケルはミコトに合図を送る。
「いまだよ!ミコト!」
「うん!いくよぉ!ライトニングゥゥゥボルトォォォォォォォォ!!!」」」
タケルに抱かれたまま輝く杖を振り上げ、ミコトは大きく魔法の言葉を唱え叫んだ。
その瞬間、数本の雷が八岐大蛇を襲う。
《グァァァァァァァ!!!》
先ほどよりも苦しんでいるように見える八岐大蛇。
「すっ…すっげぇ…ちゃんと効いてるよ。しかもさっきより雷の本数が増えてるし…」
「ね…私、いったいどうしちゃったんだろう。そう言えばさっき確かめたいことがあるって言ってたけど、何かわかったの?」
「あぁ、それね。ミコトが一番最初に雷魔法を当てた首を調べてたんだ。」
離れた位置に着地し、タケルはミコトをゆっくりと下ろす。
「で、わかったこと。今の奴の絶対防御障壁には穴が空いている。」
「穴が…?」
「そう!君の炎魔法が当たる直前、それを確認できたんだ。理由はわからないけど、君の魔法は奴の障壁を崩せるんだ。」
タケルは嬉しそうに告げた。
そして、強い瞳で八岐大蛇を睨みつける。
「これで僕の攻撃も通る可能性が高い…いいぞ、これなら勝てるかも!」
・
「あ~らら…なんだこりゃ。」
空高く浮かび上がり、光の壁越しに八岐大蛇を見下ろしている青い短髪の男。
「ったくよぉ~。ヴェーに言われて来てみれば、本当にやられそうじゃねぇか。」
ヴィリはあくびをしながら、あきれたようにそうつぶやいた。
「油断すんなって言ったのに…飲みすぎやがって。しかし、あいつらなかなかやるじゃねぇか。少ぉしだけ見直したぜ。カカカカ!」
応戦するタケルとミコトに視線を向けてニヤリと笑う…が、すぐに頭をかきながら悩んだようにこぼす。
「だがまぁ、お楽しみ観戦はこれくらいか…このままだとヴェーに怒られるしなぁ。兄貴にもドヤされるのは嫌だぜ。」
思い返して大きなため息とともに肩を落とすが、気を取り直したように光の壁に囲まれた3名を見下ろすと、光をまとった右手の指を弾いた。
すると、小さな光の粒たちが八岐大蛇の方へと飛んでいく。
「あ~あ…これでまぁ、大丈夫だろ!頼むぜ、オロチ。」
ヴィリはそうつぶやく。
そして、タケルとミコトをチラリと見て再びニヤリと笑うと、黒いゲートを開き、その中へと消えていった。
・
《ハァハァ…なぜだぁ…ハァハァ…》
八岐大蛇は混乱していた。
理由は破られるはずのない絶対防御の障壁が、目の前にいる小さなか弱き少女に簡単に破られたからだ。
パッとしない容貌に、小さな体。
そんな彼女の容姿からは想像できないほど強大な魔法。
それが絶対防御の障壁を超え、この自分の体に傷をつけたのだ。
《あり得ない…こんなことはあり得ない。この障壁はだれにも破られるはずがないのだ。なのに…なぜ…》
ぶつぶつと虚に独り言をこぼしている八岐大蛇を見て、タケルはそれを好機と捉えた。
「ミコト、奴は今混乱してる。ここで一気に畳みかけよう!」
「そうだね!」
タケルは刀を鞘から抜き放つ。
それに合わせるようにミコトも杖を構えた。
「いくよ!」
「うん!」
その時である。
突然、無数の小さな光の粒子が八岐大蛇の元へと降り注いだのだ。
「なっ…なんだ?あれ…」
予想してなかったことが起き、驚きのあまり構えていた刀が下がるタケル。
ミコトも小さく口を開けたまま、無言でそれを見つめている。
光の粒はそのまま八岐大蛇の周りをクルクルと回ると、体の中に吸い込まれていった。
そして…
《ぐぅぅぅ…なっ…なんだ…こ…れは…体の中に…ヴィリ…ヴェー…ググググググ…》
突然苦しみ出した八岐大蛇。
その目は暗い紫色に光り、口からは真っ黒な息を吐き出し始めたのだ。
大量に吐き出されたその息は、八岐大蛇の体にどんどんまとわりついていく。
「いったい何が起きて…」
「タケルくん…なんだか様子が…おかしくない?」
様子のおかしい八岐大蛇を前に後退りするタケルとミコト。
そのまま見ていると、黒くまとわりついていた息がゆっくりと八岐大蛇の体に染み込んでいった。
そして…
二人の目の前で体のほとんどを黒く染め上げた八岐大蛇が、苦しむように大きな咆哮を轟かせた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる