231 / 290
第四章 全ての想いの行く末
2話 生誕祭、始まる
しおりを挟むリシア帝国生誕祭、当日。
国をあげての行事とあって、街は大きな賑わいを見せていた。
「生誕祭だけあって、やっぱり人は多いなぁ。」
「国をあげてのお祭りですもの。皆、浮かれますですわ。」
そう話しながら、人混みをかき分けて通りを進むイノチとフレデリカ。
彼らはすでに、リシア帝国中央都市ザインへ潜入を果たしていた。
中央都市というだけあって、ザインの規模はかなり大きい。
今、イノチたちが進んでいるのは、両側に人が通る歩道があり、中央には馬車専用の道路が二車線もある中央通り。
かなり大きな通りで、歩道ですら道路と思わせるくらいの広さがあった。
しかも、そこには押し寄せるように人が溢れ、その流れを作っている。
「転移のスキルがあれば早いですのに…」
「わがまま言うなよ。今日だけは特段の注意を払わないといけないんだ。相手に勘付かれるようなことは極力控えないと…」
「わかってますわ。あぁ…それにしても人が多いですわね!」
フレデリカはそう言って、珍しく眉をひそめた。
意外にも、フレデリカは人混みが苦手なようで、高飛車な彼女の性格からは考え付かなかった弱点に、イノチは苦笑いする。
そんなイノチに対して、怪訝そうにフレデリカは口を開いた。
「BOSS…目的地はまだですの!?」
「ハハハ…ごめんごめん。もうすぐのはずだよ。この通りを抜ければ、目的の東門だ。」
イノチはそう言って前を向いた。
中央都市ザインは、レオパルがいる王宮を中心に円状に広がる大都市で、都市設計は街を城壁で囲んだ都城制を取り入れている。
王宮には正門、東門、西門の三つの門があり、その門からはそれぞれ大きな通りが街を走り抜け、ザインはその3本の通りを基盤に商業区、文学区、生活区など、機能によって区分けされて発展している。
ちなみに正門の反対側。
門がなく、まるで王宮から背を向けられたようにも感じられる地区には、背業区、言わば貧民街が広がっているのだ。
イノチは歩きながらその視線を少し上げる。
その先に、煌びやかで巨大な門が目に映し出された。
「あれだ…」
イノチの言葉にフレデリカも視線を上げた。
「趣味悪いですわね。」
「あぁ…あからさまな感じがテンプレだな。」
「テンプレ?なんですの?それは。」
「簡単に言えば、"ありきたり"ってとこかな。」
「なるほど…」
どう理解したのかはわからないが、フレデリカは納得したようにうなずいた。
それを見ていたイノチはクスリと笑い、再び前に視線を向ける。
「さて…時間もないことだし、さっさと準備して配置につこう。」
「YES Sirですわ。」
◆
「うわぁぁぁ♪この防具、かっくいいねぇ♪」
「アレックス、道草食ってる暇はないわよ。」
一方、エレナとアレックスはイノチたちとは別に、西門を目指して大きな通りを進んでいた。
「だってエレナさん♪これ、ほんとカッコ良くない♪?」
「あんた、いつのまに試着なんかしてるのよ!」
店員に勧められて、ガントレットをガシャガシャと鳴らして、嬉しそうに装備しているアレックスに、エレナはあきれた顔を浮かべた。
「さっさと外しなさいな。もうすぐ目的の場所に着くわよ!」
「はぁい♪」
エレナの言葉にアレックスは素直に従い、店員にガントレットを返してお礼をする。
そのまま、前を進むエレナの元へ駆け寄るが、突然エレナが止まったために、アレックスはエレナの背中へぶつかってしまう。
「みゃふ!…うぅ、エレナさん、どうしたの♪?」
そう言いながら見上げると、立ち止まったままある方向を注視するエレナがいた。
しかも、その目はキラキラと輝いており、まるで夢に憧れる少女のようだ。
「エレナ…さん…♪」
アレックスがもう一度たずねた瞬間、エレナは飛びかかるようにとある商店へと駆け出した。
『アマト・スイーツショップ』
そう店の看板には書かれている。
「これは!!スイーツ職人アマトが手がけた『ロマン・ド・タルト』じゃない!!はぁぁぁ!こっちには『チーズテリア』!!そうよそうよそうよ!!!ここはリシア!!アマトの聖地!!なんでそれを忘れていたのかしら!!」
「エレナ…さん♪」
「アレックス!!待ってなさい!!あたしが極上のスイーツをご馳走してあげるから!!」
「あ…あのぉ…目的は…♪」
「大丈夫よ!そんなに時間はかからないから!!あぁぁ!!これは『ショコラ・パンデミック』!!どうしよう!選びきれない!!」
店外のショーウィンドウの前で、まるで大好きなおもちゃを前にした子供のようにはしゃぐエレナに、アレックスは仕方ないなといったようにニコニコと笑っていた。
・
・
「エレナさん、これ本当に美味しいよぉ♪」
「でしょ!アマトのスイーツは絶品なのよ!」
二人は、人混みの中をスイーツを頬張りながら歩いていく。
けっこうな人が流れる通りだが、ぶつかることなく余裕でスイーツを楽しむ二人の身のこなしはさすがである。
「でもさ、買すぎじゃない♪?」
アレックスがエレナの姿を見て言う。
それもそのはず…エレナの両手にはたくさんの袋が抱えられているからだ。
その全てに『アマト・スイーツショップ』のロゴが入っていることから、中身は何か誰にでもすぐにわかるだろう。
「そうかしら?アマトのスイーツって、なかなか食べられないのよ。だから、こういう時こそ出し惜しみせずに買っておかなきゃね!」
「そ…そうだね♪」
ーーーこの人は今から何をしようとしているのか、本当に理解しているのか…
寛容なアレックスでさえ、そう思ってしまうほど楽しげにスイーツを楽しむエレナ。
一つ食べ終えると、袋から別のスイーツを取り出して、再び口へと頬張るその様子に、周りの人たちも物珍しげな視線を送っている。
そうこうしているうちに、二人の視線の先に西門と同じく煌びやかで巨大な門が現れた。
「エレナさん、そろそろ東門に着くよぉ♪」
「もう?意外と早かったわね。作戦の決行はいつだっけ?」
「レオパル国王の演説が終わったらだよぉ♪」
「OK!なら、さっさと準備して、時間まではスイーツを楽しみましょ!」
エレナはそう言うと、持っていたスイーツをペロリと平らげて、楽しげに歩き始めた。
◆
「国王さま、まもなく演説のお時間です。」
「うむ。」
宰相の言葉にレオパルはうなずくと、イスから腰をあげて演説用のバルコニーへと向かう。
後ろでは宰相を含む部下たちと、護衛のために付き従う軍の幹部らがそれを見守っている。
護衛の一人が先にバルコニーへと進み、問題がないことを確認してレオパルへ視線を向ければ、レオパルはそれにうなずき、ゆっくりとバルコニーから顔を出した。
その瞬間、王を讃える歓声が巻き起こる。
「「レオパルさまぁぁぁ!!」」
「「国王陛下、バンザァァァイ!!」」
「「リシア帝国!!バンザァァァイ!!」」
レオパルが見下ろす先は、王宮の正門前の広場。
そこには、喜ばしいこの日を国王と祝おうと、たくさんの帝国民たちが集まっていた。
ただし、集まっているのは中流貴族たちのみで、それより下の身分にある他の国民の姿は見られない。
上流階級にいる貴族たちは、この後行われるガーデンパーティーに参加するため、一足先に王宮内の庭園に集まり、そこで王の演説を聞くのである。
「ふむ…」
レオパルは体を打つその歓声に、満足げにニヤリと笑うと、一つ咳払いをした。
歓声が止み、静けさが辺りを覆う。
それを確認すると、彼は目の前にある拡声魔法を施された魔道具へと話し始めた。
「親愛なる帝国民の諸君…今日が何の日であるか、ここにいる者で知らないものはいないであろう。」
ゆっくりと、聞く者の感情に語りかけるようにレオパルは話していく。
そして、国民たちも皆、次の言葉が待ち遠しそうに固唾を飲んでその姿を見守っている。
生誕祭の始まりを告げる国王の演説が今、始まったのである。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる