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第四章 全ての想いの行く末
14話 決心
しおりを挟む「や…やばい!!」
雷魔法を受けて平然としているロノスが、一瞬でフレデリカの目の前に姿を現した瞬間、イノチは直感した。
そして、作業を止めて別のウィンドウを開く。
(この状況で何ができるか…くそ!ミスればフレデリカが…)
焦りが手元を狂わせそうになるが、今できることを瞬時に判断し、イノチは再びキーボードに指を走らせる。
「これしかない!くそっ!」
二人の様子を見つめながら、必死にキーボードを打つイノチ。
ロノスが剣先をフレデリカに向けた。
(やばいやばいやばいやばい!!間に合え!!)
そして、ロノスの剣がフレデリカに向けて放たれる。
「くそぉぉぉ!!」
目をつむり、叫び声とともにエンターキーを勢いよく押下する。
ザシュッッッ!!!
「あぁぁぁぁっ!!!」
フレデリカの悲痛な叫びが響き渡る。
しかし、ロノスがフレデリカへ向けた剣は彼女の右肩を貫通していたのであった。
「心臓を狙ったのに…今の一瞬で急所をずらすなんて、やっぱり君はいいね!」
「ふぅぅぅ…ふぅぅぅ…それは…光栄…ですわ。」
激しく肩で息をしながら、痛みに耐えるフレデリカ。
足元をチラリと見ればいつの間にか地面が窪んでいて、そこに自分の足がはまり込んでいるのがわかった。
(BOSS…助かりましたですわ…)
しかし、ホッとするフレデリカをよそにロノスは笑う。
「殺すのはもったいないよなぁ…君はガチャ魔法で召喚されたキャラだろ?強いのに…こんなに強いのに…」
そう言いながら剣を引き抜こうとするロノスの手をフレデリカが掴んだ。
「に…逃がしません…ですわ。」
「致命的な怪我を負っても、これだけの気力を保てる奴はなかなかいない。本当にもったいないなぁ…」
掴まれたことなど意に介すことなく、ロノスはゆっくりと剣を引き抜いていく。
「あぐっ…うぅぅ…」
引き抜かれる際の痛みで顔を歪ませるフレデリカ。
だが、どこからともなく声が聞こえてきた。
「姐さん!足抜いて備えてくれ!!」
その声にフレデリカはとっさに窪みから足を抜く。
すると、どこからともなく湧き上がった大量の水に体を包まれて、ロノスから引き離されたのだ。
「セイド…裏切るのかい?」
誰の仕業かすぐに気づいたロノスがフレデリカを見つめたままそうつぶやくと、目の前の地面から青い鎧をまとうセイドが姿を現した。
「ごめんな!団長!俺はあっちに着くぜ!!」
「ほう…面白いことを言うね。でも、お前じゃ俺に勝てないだろう?」
「そうだな!だが、今は時間を稼げりゃ良い!!あんたを倒すための時間をな!!」
「どうやってその時間を……っ!?」
そこまで告げて、ロノスは異変に気づく。
足元が重い。
ロノスは、まるで沼にでもハマったかのようにうまく身動きが取れなくなっていた。
見れば、腰の位置ほどまで地面に飲み込まれているのがわかる。
「やられたな…」
そうつぶやきながらも、ガシャガシャと鎧を鳴らして逃げ出そうとするロノスに対して、セイドも必死にスキルを駆使してそれを阻もうとする。
「だが、時間を稼ぐと言っても俺はすぐに出れそうだが?」
「…くっ!相変わらず、なんちゅう馬鹿力なんだっ!!」
必死に押し留めようとするセイドに対して、ロノスは涼しげに話しながら、まるで単に階段を登っているかのようにその体を押し上げてくる。
(やべぇ!!BOSS!!まだかよ!!)
チラリとイノチを見れば、未だキーボードを打ち込んでいるようだ。
その視線に気づいたロノス。
「なるほど…彼が何か企んでいるわけかい。面白いな…ならどちらが勝つか、勝負だね!!」
そう笑い、さらに体を押し上げるロノスの視線はすでにセイドでもフレデリカでもなく、イノチに向いていた。
セイドの悲鳴が空に響く。
「もっ…もう限界だぞ!!まだかぁぁぁ!!」
その叫びを聞いたイノチはキーボードを打つ手にいっそう力を込めた。
「こんなに時間がない修正作業は初めてだぁ!!!」
「ククク…俺の勝ち…かな?」
ロノスの体は既に膝上まで地面から出ている。
あと数秒もすればセイドのスキルから解放されて、イノチのところに斬り込んでくるはずだ。
ゆっくりと体が地面から押し出されていく。
膝が見え、脛…そして、足首…
しかし、ロノスの踝が見えたところでイノチが大きく叫んだ。
「できた!!とっておきのコード改変だ!受け取りやがれぇぇぇぇぇぇ!!」
そうしてエンターキーを力強く押下した瞬間…
…
……
特に何も起こることない。
イノチの言葉に動きを止めていたロノスは、首を傾げて疑問を浮かべた。
セイドもフレデリカも心配げにその状況を見守っている。
「何も起きないなぁ…失敗かい?」
「知るか!!フレデリカっ!!」
ロノスの言葉を冷たくあしらい、イノチはフレデリカへポーションを投げ渡し、それをキャッチしたフレデリカはすぐに飲み干して回復を図った。
「ちぇ。何が起きるのか楽しみにして損したな…最後の最後で拍子抜けだよ。そろそろ遊びも終わり…に…なんだ?」
初めて不満を露わにしたロノスが地面から足を引き離そうと力を込めた。
しかし、その時初めて、自分の身に起こった異変に気づいたのだ。
「力が…思うように出せない?」
何かに気づいたように、すぐさま自分の手に視線を向けるロノス。
イノチたちには見えていないが、彼の目には自分のステータス値が表示されている。
「こ…これは…やってくれるじゃないか。まさか、こんなことまでできるとは…」
HPやMPはそのままだが、戦闘に直結する能力数値が全て減少していることがわかり、さすがのロノスも驚きを隠せなかった。
STRやATK、VIT、DEF、INTなどはもちろんのこと、スキルやデバフから身を守るRES、つまりはレジスト値の減少が特に大きい。
セイドのスキルから逃れられないのはそれが理由だった。
「なぜ君にこんなことができる…もしや君も…神に選ばれた…?」
「お前がなんのこと言ってんのか、よくわかんないけどな!これでフレデリカとセイドの攻撃は通るだろ!!鎧は凄くても、中身が弱けりゃ耐えられるはずないからな!!」
その言葉を合図に、フレデリカはゴッドイーターを構えて詠唱を始めた。
セイドもスキルの準備を始めている。
「これは参ったな…」
その様子を見て、鎧の中から悲壮感漂う声が聞こえてきた。そして、それを聞いたイノチは、これから行うべきことが正しいことなのかと躊躇してしまう。
しかし、そんなイノチの迷いを振り払うようにフレデリカが大きく叫んだ。
「BOSS!!悩んではダメですわ!!こいつは放っておけばジパン国の脅威になる!!今ここで殺るのですわ!!」
「俺からもそう進言するぜ!団長はここで殺らないとだめだ!!」
「だけど…!!」
未だに決断しきれずにいるイノチは、目をぎゅっとつむり下を向いた。
ロノスはプレイヤーだ…
自分と同じこの世界へ呼び出された人間なんだ。
ここで死ねば、おそらく本当に死んでしまう。
もちろん、現実の世界に戻ることなく…
そんな恐ろしいことを…俺の指示で…
だが、そんなイノチに対して、フレデリカがさらに告げる。
「わたくしは奴の殺気を直に味わったのです!そして理解しましたですわ!!この男は慈悲など持ち合わせていない!ジパンへの侵攻を許せばメイも…アキンドたちも…そして、ミコトだって殺されますですわ!!」
その瞬間、イノチの頭にはジパンにいる仲間たちの顔が次々と浮かんできた。
アキンドやメイ、アキルドとギルドのみんな、タケルたち…
そして、最後にはミコトの笑顔が現れて、イノチは彼女との約束を思い出す。
ミコトとの約束…そうだ…守らなくちゃならない約束。
ーーーイノチくん…ひとつだけ約束してくれない?
ーーー約束?何を?
ーーー必ず生きて帰ってくるって。
真っ直ぐな瞳…彼女の中にある決意…
そうだ…そうなんだ!
俺には守らなくちゃいけない仲間がいるんだ!
そして、守るべき約束がある!それを脅かす者を許しちゃいけない!!
ウォタと同じ過ちは繰り返さない!そう誓ったじゃないか!
この世界は現実だ…プレイヤーは死ねば生き返らない。
だが、こいつらのように力を酔って他人に暴力を振るおうとする奴らもいる。
許すな…甘えるな…偽善は今、必要ない!
それを思い出してイノチは決心し、顔を上げた。
そして、漆黒の鎧をまとう男へと静かに告げる。
「ロノス…お前には悪いけど…お前はここで倒す!」
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