260 / 290
第四章 全ての想いの行く末
31話 BOSSのこと、知ってます。
しおりを挟むフレデリカとアレックスが旅館の自室へと戻ってきた。
二人ともボロボロの体でなんとかここまでたどり着いたようで、ヨロヨロと力なく部屋へと入ってくる。
だが、体中の痛みを忘れるほどの光景が二人の目に映った。
「ボ…BOSS…」
フレデリカの声にまったく反応を見せず、まるで絶望のどん底に落ちたような顔しているイノチ。
その周りにはセイドとモエがどうしていいかわからずに立ち竦んでいた。
そして、そこにエレナの姿がないことに気づき、フレデリカは状況をなんとなく把握する。
「エレナは…行ってしまいましたか…」
その言葉にイノチがピクリと反応し、俯いたまま弱々しくつぶやいた。
「あぁ…守り…きれなかった…すまん…」
「BOSSのせいではないでしょう。推測では彼女が自分で選んだのでは?」
「……」
イノチは言葉が見つからないようだ。
そんなイノチの代わりにモエが答える。
「彼女はイノチさまのことを…仲間の皆さまのことを一番に考えられたようです。私も力及ばす…申し訳ございません。」
「モエさんが謝ることではないですわ。我々も彼女の兄には敵いませんでしたし…悔しい限りです…」
拳を握るフレデリカの横で、アレックスも悲しさと悔しさを表情に滲ませて下を向いた。
部屋に重い沈黙が訪れる。
それを破るようにセイドが口を開いた。
「すまんな…俺は仲間になったばかりだから、お前らほど落胆できねぇ。落ち込む気持ちもわかるんだが…このまま姐さんを諦めるのか?」
「そんなつもりはないですわ!」
「そうだよ♪エレナさんを助けに行きたいよぉ♪」
フレデリカとアレックスがそうセイドに力強く告げる中で、イノチは無言のままだった。
セイドはそんなイノチへ問いかける。
「お前はどうなんだ…イノチ。エレナ姐さんはお前の仲間だろ?」
「……。俺は…」
問いかけられて顔を上げるが、何かを言いかけてすぐに俯いてしまうイノチ。
誰から見ても彼に迷いが生じているのは明確だった。
「正直…どうしていいかわからないんだ…」
力なくそうつぶやくイノチ。
皆、そんな彼を静かに見守っている。
「うすうす気づいてたんだけど…俺たちプレイヤーが使うガチャ魔法って単なる召喚魔法なんだよな。だからさ、元々の生活があったフレデリカもアレックスも、俺が強制的に自分の元へ召喚してしまったってことなんだよなぁ。」
それにはフレデリカもアレックスも何も答えなかった。
「エレナもそうだ…あいつにはあいつの生きる道があったのに、俺がそれを邪魔しちゃったんだ…。だから、あいつの兄貴が迎えに来たって、俺がそれを拒んでいいことじゃなかった…無理矢理仲間に引き込んでおいて…最低な奴だよな、俺って。」
イノチは頭を抱えながら話を続ける。
「俺はこの世界が現実だと知りながら、ガチャで手に入れた仲間のことをを考えようとはしなかった。エレナやフレデリカ、アレックスのことを考えず、自分の悲劇だけを悩むなんて…自分の愚かさを呪いたいよ。」
そこまでしゃべって、イノチは大きくため息をついた。
すると、フレデリカがあきれたように話し始めた。
「BOSS…言葉ですが、我々が召喚される時、何が起きているのか知らないのではありませんか、ですわ?」
「そうだよ♪BOSSは勘違いしてるよね♪」
「か…勘違いって…ど…どういうこと?」
意味がわからずに顔を向けるイノチに対して、フレデリカとアレックスは一度顔を見合わせると、再びイノチへ向き直る。
「我々は強制的に召喚されたわけではありませんですわ。ちゃんとBOSSの要請に応じて…自分たちの意思でここにいるのです。」
「俺の…要請?自分たちの…意思で…?」
「そうだよ♪BOSSのガチャ魔法に選ばれるとね、事前に通知が来るんだぁ♪『召喚要請がありました。受けますか?YES/NO』ってね♪そして、それに応じると召喚者の下へと転移させられるみたい♪」
「で…でも、相手がどんなやつかわからないのに、普通はYESなんて選ばないだろ?!」
あり得ないといった表情でフレデリカたちに問いかけるイノチに対し、フレデリカは指を振ってそれを否定する。
「チッチッチッ…甘いですわ!この召喚要請は、ご親切にもちゃんと召喚士の情報が見れるのですわ。」
「じょ…情報だって?お…俺のか?」
「えぇ。プロフィール程度ですが…ちなみにわたくしは『おっきいのが好き』に惹かれましたですわ!」
「はっ…?!おっき…何のことだよ!」
「BOSSったら…わかっているでしょうに…」
「お…!おい、フレデリカ!何だその顔!やめろよ!」
突然、顔を赤らめて恥ずかしそうにするフレデリカに対して、ツッコミをいれるイノチ。
しかし、今度はアレックスも楽しげに声を上げた。
「はぁーいはい♪僕はね僕はね♪『守られたい』だったよ♪それを見た時は僕の出番だって思ってキュンとしちゃったよぉ~♪」
「アッ…アレックスまで!なんなんだ、そのプロフィールってのは!」
混乱するイノチの様子を見て、フレデリカもアレックスもクスクスと笑っている。
訳がわからずにガックリと項垂れるイノチ。
それを一頻り笑い終えると、フレデリカは再び口を開いた。
「このように皆、BOSSのことを少しでも知った上でここにいるのですわ。だから、強制的にそばに置いてるなんていう考えはただの傲慢です。」
「そうだよ♪BOSSは意外と甲斐性あるってことだね♪こんな美女たちがついてきてもらえてたんだから♪」
「ハハハ…ありがとう。怒られてるのか褒められてるのかわかんないけどな…」
まだどこか寂しげだが、笑みをこぼすイノチはふと考えたことを口にする。
「エレナは俺のどこに共感してくれたんだろうな…」
「たしかに…。だが、俺たちはそのプロフィールを見ることはできないからな…なんとも…」
「わたしは召喚という魔法があること自体、驚きです。」
セイドとモエには見当もつかないだろう。
だが、フレデリカにはその答えが今ならなんとなくわかる気がしていた。
イノチのプロフィール画面に書いていた、ある一つのコメントを思い出す。
『妹思い』
フレデリカはそれを思い出して口元で笑みをこぼした。
横ではアレックスも笑っている。おそらく、同じことを考えているのだろう。
フレデリカは改めてイノチへ問いかけた。
「BOSS…それは自分でエレナに聞かねばならないのでは?」
物思いに耽っていたイノチはフレデリカに顔を向ける。
そして、笑顔でこう答えた。
「そうだな。あいつが俺のどこに共感したのか…なんで俺を選んだのかを聞きに行ってやろうじゃないか!」
「フフ…エレナのことだから素直には言わないと思いますよ。」
「いーや!エレナがなんと言おうが絶対に聞き出してやるね!」
そう笑みをこぼすイノチ。
その笑顔を見て一同は笑い合い、エレナの救出を誓い合ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる