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第四章 全ての想いの行く末
35話 強き心のあり様
しおりを挟むジパン国には西のタカハの街から、東のトウトまでを繋ぐ大きな街道がある。
流通の要として多くの人が行き交うこの街道は、タカハとトウトの間に点在する多くの都市を辿っていくのだ。
そんな街道を、ガタガタと音を立てながら走る一台の馬車がある。
「エレナさんが…そんな…」
馬車の中で携帯端末を眺め驚くミコトを見て、ゼンが声をかけた。
「エレナが…どうかしたか?」
「う…ん、説明が難しいんだけど、攫われたというか…自分の国に帰っちゃった…そう言った方が正しいのかな。」
「自分の国に?」
訝しむゼンにミコトはさらに説明を続ける。
「ノルデンだって…エレナさんのおうちは貴族で、お兄さんが迎えに来たって…イノチくんからのメッセージにはそう書いてある。」
「…なるほどな。」
ゼンは何かを察したようにうなずいた。
ミコトはその様子が逆に気になり、ゼンに問いかける。
「ゼンちゃん、何か知ってるの?」
その言葉にゼンは話すべきかどうか少し迷った。
だが、こちらを見つめてくるミコトの様子に小さく息を吐くと、静かに話し始める。
「ミコトは気づいていないかもしれないが…ガチャ魔法の本質は召喚なんだ。」
「召喚…?」
「そうだ。いろいろと難しいことは省くが、『召喚』とは自分の魔力を通じて、他の者を強制的に自分の元へ呼び出すこと。そして、そこには主従の関係も加わりもする…」
「強制的に…主従関係に…?でも、私はそんなつもりはないけど…」
「ガチャ魔法は、本来の召喚魔法とは少し違うからな。召喚魔法は相手の許可無しに呼び出し、無理やりに主従関係を結ばせるが、ガチャ魔法は相手に許可を求め、応じた者が呼び出される仕組みになっているのだ。ただし、応じた時点で主従関係が結ばれる…」
「なら、例えば私が命令したことは、ゼンちゃんは断れないの?」
「いや、この魔法にそこまでの強制力はないよ。」
「そうなんだ。よかったぁ…そんな関係なんて嫌だもん。」
そう言ってホッとするミコトに対して、ゼンは説明を続ける。
「では、呼び出された者がどこから来るのか。ミコトは考えたことがあるか?」
「どこから…来るのか?考えたことなかったかも…ゼンちゃんかどこから来たのかなんて。ごめん…」
落ち込むミコトにゼンは「気にするな」と小さく告げる。
「あくまでも私の場合の話だが…私は当時神界にいてな、突然ミコトからの召喚に応じるかと問いかけられた。不思議に思いつつ、理由を問うとミコトの情報が確認できた。私はもともと強さを求めていたからな。お前にならついて行っても良いと考え、召喚に応じたんだ…」
「…と言うことは、召喚相手のこともある程度わかるってこと?」
「そうだな。ミコトがどんな人間かわかるくらいには…」
「へぇ…なんか…嬉しいな。」
ミコトはそう言って笑った。
ゼンもそれにつられてクスリと笑うが、すぐに真面目な表情に戻して話を続ける。
「で、ここからが本題だ。エレナ、フレデリカ、アレックスの三人は、イノチがガチャ魔法で召喚した者たちで、彼らにも私と同じように元の生活はあったはずなのだ。だが、彼らはイノチからの召喚に応じた…召喚に応じるだけの理由が彼らにはあったと言うことだ。」
それを聞いたミコトは、ふとフレデリカの話を思い出した。
彼女はこの世界の…ここジパン国で生活を営んでいた竜種の末裔だった。
だが、彼女はある事件が原因で仲間を全て失った。
ーーー彼女が何を目的にこれまで生きてきたのか…
それは詳しく聞いてはいないが、彼女にはイノチの召喚に応じるだけの理由があったのだろう。
そして、それはエレナもアレックスも同じこと。
二人にも、フレデリカ同様にこの世界のどこかに元の生活があったはず…だが、それを投げ捨ててまでイノチの下へ来ていいと思えるほどの理由が彼女たちにもあったということだ。
でなければ他人の下へ召喚され、主従関係を結ぶなどということは、到底受け入れ難い話なのだから…
ミコトはそこまで考えて、ゼンへと話しかけた。
「エレナさんは、どうしてこのタイミングで帰っちゃったのかな?イノチくんの下へ来たことには、何か理由があったはずなのに…」
「それは私にもわからんよ。だが、イノチはそれを確かめにいくつもりなのだろう?」
ミコトはイノチからのメッセージを見直した。
そこには、エレナを迎えにいくためにノルデンへ乗り込むと…そう書いてある。
「私も…力になれるかな…」
ふと、元気なく細めた声でミコトはつぶやいた。
その理由は簡単だ。
自分の中に生まれた感情の扱いに困っていたからだ。
ーーーこれはあくまでもイノチとエレナの問題であり、そこに自分が入り込むべきではないのでは…
ミコトは、ゼンの話を聞いてそう感じてしまっていたのだ。
だが、目の前で迷う相方の様子を見ていたゼンは、小さくため息をついた。
そして、厳しさを交えて力強くこう告げる。
「ミコト、お前はイノチの力になりたいのだろう?ならば、悩む必要などないのだぞ。」
「そ…そうだけどさ…」
「自信を持てないところはミコトの悪い癖だ…大切な存在の力になりたいのなら迷う必要はない。自信をしっかり持て。」
ゼンの厳しい言葉にたじろいでしまうミコト。
だが、ゼンは言葉を止めようとはしない。
「ミコト、お前には心の強さがまだまだ足りない…この世界で生き抜くためには、もっと強い意志を持たなければならない。守りたいものがあるならば、それを守り通せるほどの…他を寄せ付けぬほどの強い意志を…」
「……」
自分の視線から目を逸らすミコトを見て、ゼンは不安が拭えなかった。
彼がミコトに厳しくする理由…
それは、八岐大蛇戦で身につけたスキル『ドラゴニックフォーム』にある。
(あの力を…スキルを使いこなすには、ミコトの心が未熟過ぎる。)
ゼンはそう感じながら、八岐大蛇戦を思い返していた。
スキル『ドラゴニックフォーム』により、ミコトと体を一つにすることで得られた強大な力は、覚醒体となった八岐大蛇さえも打ち破った。
強くなりたかったゼンは、その強大な力を手にしたことに歓喜したが、同時にある事実にも気づくことになる。
その力がミコトの精神を蝕んでいるということに…
変身時、竜種の戦いへの渇望がミコトの精神と混ざり合ってしまい、彼女は戦いに愉悦を感じるようになってしまっていたのだ。
それが良いことが悪いことかと問われれば、間違いなくミコトには悪影響を及ぼすだろう。
ーーーただでさえ強大な力を有する竜種の本能は、人間の精神を壊してしまいかねない。
ゼンはそれを回避したかったのである。
(ミコトの精神を守るためには、ミコト自身が強くならねば…そして、それは私も同様だ。)
強くならねばならないのはミコトだけではない。
ーーー自分もまた、竜種の本能を抑える術を身に付けなければならない。
ゼンはそう強く感じていたのだ。
「ミコト…イノチが好きか?」
「…っ?!」
突然の言葉にミコトは目を見開き、顔を赤くしてゼンへと振り向いた。
「なっ…そ…え…?」
動揺して言葉が出てこないミコトに対して、ゼンはクスリと笑う。
そして、先ほどとは違い、優しさ溢れる声色でこう告げた。
「大切な人を想う気持ちを忘れるなよ。」
「…うん。」
ドギマギとしていたミコトは、その言葉を聞いてゼンの本心を感じ取ったようにうなずいた。
頬にまだ少しの紅潮が残したまま、ミコトは綺麗に澄んだ空を見上げるのであった。
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