282 / 290
第四章 全ての想いの行く末
53話 やりたいこと
しおりを挟む「あんたらの一族って、神と手を組んでんの?」
冷たい声が耳元で聞こえ、アルスは背筋に悪寒を感じた。そして、いつの間にか自分の後ろにいるイノチから、慌てて距離を取る。
「お前…今の動きは…」
離れたところに立ち、イノチへ視線を向けるが…
止まらない冷や汗とざわつく肌。初めて…いや、神を名乗る彼らと相対した時以来の感覚に、アルスは目の前の男の力を測り兼ねていた。
ーーー突然消えて、突然現れた…?僕ですら視認できないスピードで…?
イノチの、あり得るはずのない動きに驚きを隠せないアルス。そんな彼に対して、イノチはゆっくりと振り向いてこう告げる。
「で…どうなの?あんたたちってさ、神さまと何か関係があるわけ?」
「そ…それを、お…お前に…話す必要はない…」
その言葉に、イノチは「ふ~ん…」とだけ呟いた。が…
「別に俺にはどっちでもいいんだけどね。あんたたちが神と繋がってようが繋がってまいが…」
「なっ!?」
イノチは再びアルスの後ろに立ち、小さくボソリとそう告げる。それに驚いて振り向くアルスだが、すでにイノチの姿はそこになく、再び声が後ろから聞こえてきてビクリと体が反応した。
「俺は…ムカついてるんだよ。神だか何だか知らないけど、自分たちの好き勝手しやがってさ。俺らのことを駒みたいに使ってるのも気に食わない…」
ゆっくりとそう話すイノチに、アルスは恐る恐る振り返る。なぜ捉えることができないのか…すでにアルスの中でイノチに対する恐怖が生まれていた。
「お前は…本当に何者なんだ…。人間に…何でそんな動きができる!」
「だから、それを話す気はないって言っただろ。それよりもさ、その部屋にエレナがいるんだよな。そろそろ俺の仲間を返してもらってもいいか?」
あるドアを指差しながらそう告げるイノチの表情が、突然険しくなり、その視線にアルスは後ずさる。
「俺はさ、あんたらも気にいらないんだよ。家族を…妹をなんだと思ってるんだ。物みたいに扱いやがって…一族のためとか、本当にくだらない…お前も、エレナの父親も…エレナの家族失格だよ…。」
イノチはそう吐き捨てるように告げた。頭には再び自分の妹の顔が浮かんでいる。だが、アルスもそこまで言われて黙ってはいなかった。恐怖の中に感じた怒りに声を上げる。
「言わせておけば…僕らにも僕らなりの生き方があるんだ!それをお前に否定される筋合いはない!こっちだって、いきなり妹を連れ去られたんだ!黙っているはずがないだろう!」
「確かにそうだな。俺があんたらを否定するのは筋違いかもしれないな…」
怒るアルスに対してイノチはフッと鼻で笑い、「全部奴らの仕業なんだけどね…」と、アルスには聞こえないくらい小さな声で呟いた。
アルス自身、イノチが何かを呟いたことには気づいたが、なんと言ったかはわからず、唇の動きを思い出して確認しようとするが、イノチの言葉に遮られてしまう。
「世の中ってのはさぁ、力ある者が全てを決めるんだよなぁ。この世界に来て、俺は改めてそれを実感したよ。あんたらだって、暗殺一家としてずっとそうしてきたんだろ?力を持つ者として、好きなようにやってきた訳だ。」
「違う…我がランドール家はノルデン国の繁栄のために尽くして…!決して好き勝手してきた訳では…」
「ランドール家…確か"暗殺を生業とする一族"で、主に国の不利益となる要素を排除する目的で"暗殺"という手段を使い、国に忠義を尽くしてきた一族…だったかな。だが、根本的な目的は一族の繁栄だろ?だって、暗殺に関する依頼は国だけじゃなく、自国の公爵家から他国の貴族などさまざまな範囲に渡り、その名を世界中に知らしめている訳だし…」
イノチはランドール家に関する知識を淡々と告げていく。
「あんたらは国に仕える一族ではあるが、あくまでも"暗殺者"であって正義ではない。国の繁栄という大義名分を利用して、その力を奮い、世の中のルールを作ってきた訳だ…違うか?」
「ルールを作るなど…我らはそんな傲慢な一族ではない!あくまでも国のために尽くす!それが信条なんだ!」
「だけど、裏では神と繋がってんじゃん。周りにはそれを黙っているんだろ?」
その指摘には、アルスも言葉を詰まらせた。神との繋がりはランドール家の裏の歴史だ。他の誰にも知られてはいない…いや、知られてはならない秘密の歴史。この世界の人間にこの事を知る術はないはずなのに…。
アルスが得体の知れない恐怖をイノチに感じていると、イノチは楽しげに笑いながらこう告げた。
「まっ、あんたにこんな事話しても無駄なことはわかってるんだ。だからこの話は終わりにしよう。そろそろエレナを返してもらわないと…あまり時間もないし。」
「時間…がない?それはどういう…」
その瞬間、アルスは気づいた。今まで手に持っていた得物が無くなっていることに…
(な…なんだと?僕の…僕の武器がない…!?)
焦りながらも、手元からイノチヘと目を向ければ、手に取った武器を細部まで観察するように眺めている彼の姿がある。
「こんな重いもの、よく振れるよな…」
「お前…!いつの間に…!!」
驚くアルスに対して、イノチはその武器の観察を終えると、適当な方向へそれを投げ捨てた。カランッと金属音が響く中、アルスに向けて再び視線を向け、静かにこう告げる。
「俺はこれから、この世界を生きやすい世界に変えるために行動する。」
「世界を…変える?お前は…いったい何を言っているんだ。」
訳がわからずにそう問いかけるアルスに、イノチは肩をすくめた。
「まぁ理解はできないと思うよ。…そろそろ、あんたの親父さんも俺の仲間が倒してる頃だ。あとは来るならそろそろだろうけど…」
「なっ!どういう意味だ?!父が…やられるわけ…それに来るって…いったい誰が来るんだ!」
イノチはアルスの問いに何も言及はしなかった。その代わりに、右手のハンドコントローラーをカタカタと動かしながら、今なおいじけているウォタをチラリと見る。
(くそ…!奴は何をしているんだ…あんな武器見たことがない。奴の能力がわからない以上、仕掛けるのは無謀だ…だが、エレナは僕が守らなきゃ…!エレナは…妹だけは…!)
そう思い、意を決してイノチヘ飛びかかろうとしたその時、屋敷の西側から大きな爆発音が轟いた。
「なっ…なんだ!?」
地響きに大きく揺れる建物。
アルスは予想していなかった事態に驚きを隠せずにいるが、目の前の男はこれを予想していたのか、冷静に何かを考えているようだ。
そして、「やっぱ、あっちに来たか…」と小さく呟くと、細やかに動かしていた右手の指を止め、一つのボタンをタンッと打つ。
その瞬間…
「カッコよくてめちゃくちゃ強いウォタさん!出番ですよ!!お前が大好きなクライマックスにカッコよく登場ってやつが待ってるぞ!」
イノチがそう告げると、隅の方でいじけていた青い長髪の男が突然むくりと立ち上がり、嬉しそうな笑みを浮かべて駆け寄ってきたのだ。
「どこだ、イノチ!我に相応しいカッコいい登場の場と言うのは!」
今までいじけていたのは何だったのか。そう思わせるほどの豹変ぶりだが、イノチは気にすることなく爆発音のした西側を指差して「あっち。」と告げる。
「クハハハハ!ついに我の出番だな!イノチ、ここはお前に任せるぞ!」
ウォタは嬉しそうにそう告げると、近くの窓から飛び出して行ってしまった。それを手を振って見送るイノチに対して、アルスは問いかける。
「い…いったい…何が起きてるんだ!お前たちは何がしたいんだ!」
イノチはその問いに笑う。
「何って…今から神様たちをぶっ飛ばすんだよ。」
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる