285 / 290
第四章 全ての想いの行く末
56話 一つお手合わせ願います
しおりを挟むミコトはその光景に愕然としていた。
先ほどまで自分がいた場所と、その後ろの森の多くが消し飛ばされ、まっさらな大地へと変わり果ててしまったからだ。
その元凶である眼帯の男は、平然とした表情でこちらを見つめている。その視線に、ミコトは一瞬だけ身震いしてしまった。
「何…あの人は…」
『……』
ミコトは目は逸らさずにそう呟いたが、期待していた回答はゼンから返ってはこなかった。
それよりも、繋がっている彼の心から恐怖心が伝わってくる方が心配だった。
ミコトは再びゼンに声をかける。
「ゼンちゃん…大丈夫…?」
『あ…あぁ…だが…ミコト、急いで逃げるぞ…。メイにもそう伝えろ。』
ゼンの思いもよらない言葉に驚いたミコトは、目の前の男へ改めて視線を向けた。
確かにこの威圧感には、違和感を感じる。ヴィリやヴェーたちとは全く違う異質さが、この男からは感じられるのだ。
一言で言えば、"怖い"…そう本能的に思わさせられるほど、その視線は悍ましいものだった。
だが…
「ダメだよ…逃げるなんて…」
『なっ…』
ミコトの言葉を聞いて、ゼンは言葉を失う。
これだけの殺気を浴びせられているのにも関わらず、ミコトの心は折れていないようだ。
だが、ゼンは説得するように、ミコトに告げる。
『気合いでどうにかなる相手ではないんだぞ!あれは主神だ!ウォタの奴を殺した神と同等の力を持つな!』
「あの強さ…なるほど。そうもしれないけど…けど、私は逃げないよ。」
『しかしだな…!殺されては…』
だが、ミコトは男を睨みつけたまま、黙ってしまった。そんな彼女に唖然とするゼンとは対照的に、男は口元で笑みをこぼすと小さく「ほう…」とつぶやいた。
男の視線からは依然として鋭さを感じ、重圧がのし掛かったかのように体が重い。だが、ミコトは気合いを入れ直すと、負けじと男へと飛びかかった。
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
オーラを乗せた右拳を、自分の顔めがけて振り抜くミコトに対し、男は無表情のままその拳を見つめていたが、当たる直前になって、とっさに首を右へ傾けてそれをかわした。
「…なんだ?なぜお前の拳は私に届く…?」
かわした拳に視線だけ寄せたまま、男は訝しげにミコトに告げるが、ミコトは構うことなく、今度は左足で蹴りを放つ。
だが、それは簡単に受け止められてしまった。
「お前…ランクシステムの縛りはどうした…?それに…絶対防御システムはなぜ働かない…」
少しだけ驚いてそうこぼす男に対し、ミコトは何度もパンチと蹴りを繰り出した。しかし、平然とした顔で男はその全てをいなすと、ミコトのみぞおちへ掌打を放つ。
「ぐっ…!!」
予想はしていたが、想像以上の衝撃に思わず声をこぼすミコトは、なんとかうまく受身をとって男との距離を取った。
感じる痛みに腹部をさすりつつ、ミコトは相変わらず強い視線を男へと向ける。
「あなたは…いったい誰なの!?」
そう問いかけるミコトに対し、男は何かを考えるように斜め上に視線を寄せる。そして、静かにこうこぼした。
「人間に名乗る名はないが…まぁ、ここまで乗り込んだ勇気に免じて、"お前たち"教えてもいいな。」
独り言なのか…
いまいち掴みどころのない言動に、ミコトは眉を顰める。
だが、次の瞬間…
「私は北欧を統べる者…オーディンと言う…」
いつの間にかミコトの目の前に現れた男は、彼女の耳元に顔を寄せてそうつぶやくと同時に、右手で首を掴み上げたのだ。
「なっ…!?がぁ…!!」
苦しさに足をバタつかせるミコトだが、その手は離してくれる気配はない。苦し紛れに右脚で男の頭へ蹴りを打つも、左腕で簡単に防がれてしまう。
「威勢は良い…ゼウスも面白いことを考えるものだな。確かに暇つぶしにはちょうどいいか…」
オーディンと名乗った男は、そうつぶやいて口元で笑った。
ミコトはジタバタと足を振るが、オーディンは首を掴んだ手を緩めることはなく、逆にその握力を強めていく。
「ウグッ…ガ…」
『ミコト!大丈夫か!?』
苦しそうに顔を歪めるミコトへ、ゼンが焦りの混じった声をかけた。それに気づいたオーディンは、少し驚いてミコトの目を覗く。
「ハハハ…竜種と混じってるのか…」
乾いたように笑うオーディンを、ミコトは苦しさに歪めた瞳で睨みつけた。だが、呼吸が全くできず、意識が飛びそうになるのを必死に堪えていることしかできなかった。
「まぁ…こんなもんか…」
オーディンはそう言うと、まるで興味が失せたかのようにミコトの体を軽々と宙へ放り投げる。
浮遊感の中に感じた自由…ミコトは反撃に出ようと試みたが、なぜか体が動かなかった。手も足も、体の何もかもが動かせず、ただただ宙を舞うしかできないのだ。
焦るミコトを見たオーディンは、鼻を鳴らして笑うと、先ほどと同じように右手をミコトへと向けた。
(ま…まずい…!さっきのが…また来る…このままじゃ、死ぬ…)
唯一、動かすことができた視線をオーディンへ向け、自分の今置かれている状況を理解したミコトは、自身の死を覚悟する。すでにオーディンの右手には、真っ黒なオーラが収束しており、今にもそれが放たれようとしている。
絶体絶命…
その言葉が相応しいほどに絶望的な状況の中、ミコトは少し離れたところから聞こえてきたある声に気づく。
そして、声が聞こえた方へと視線を向けた瞬間、自分とオーディンの間に現れた男の姿に目を見開いた。
「御方よ!女子には優しくせねばなりませんな!」
青く長い髪と揺らめく尻尾…
「ウォタさん!」
ミコトが叫んだ瞬間、ウォタが横顔だけで笑顔を向けた。だが、オーディンは構うことなく右手のオーラを撃ち放つ。
ゴウッという音とともに、漆黒のオーラがウォタとミコトへと襲いかかった。
しかし…
「かぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ウォタがそう叫んだ瞬間、彼の周りに発現した青いオーラがミコトまでをも包み込み、向かってくる黒いオーラの衝撃から二人を守ったのだ。
黒いオーラは空を駆け抜け、大気を吹き飛ばす勢いで遠くへと消えていく。
それを見ていたオーディンは表情こそ変えないが、訝しげな瞳をウォタへと向けた。
「こいつも竜種か。しかし…アクアドラゴン?死んでアヌビスが傀儡にしたと聞いたが…」
その疑問に、ヴェーとヴィリにチラリと視線を向けたが、二人は一瞬ビクついて知らないと何ども首を横に振った。
オーディンはそれを確認すると、再びウォタへと視線を戻す。ウォタはと言うと、抱き上げたミコトをゆっくりと地面に下ろしているところだ。
「お前…本当にあのアマテラスの僕か?」
「疑う余地などないのでは?」
不敵に笑っているウォタに、オーディンは小さくため息をついた。
確かにあれはアマテラスの"おもちゃ"のはずだ。アクアドラゴンで間違いはない。
だが、あれから感じられる力には、どこか違和感があることも、また事実だ。
本当にこのバシレイアと言うシステムの中の存在なのか…
そう思わせるほどに、目の前の男は生き生きとしているように感じられた。
ふと、ウォタが口を開いた。
「北欧の主神、オーディン様と見受けられますが…お間違いないか?」
「いかにも…なかなか博識な男だな。」
「ハハハ!アマテラス様にいろいろと教わっておりますからな。」
それを聞いたオーディンは、「余計なことを…」とつぶやいた。それを見ていたウォタは、小さく笑みをこぼす。
「ところで…御方の皆さまがこうも揃って世界に降り立つとは…何かあるのですかな?」
シンプルで画策のない質問に、オーディンもフッと笑みをこぼす。
「ククク…シンプルな奴だな。まぁ…何かあるかと問われれば…何もないが、答えだな。」
「ふむ…謎解きですか。」
「それもまた…面白いかもな。」
その瞬間、オーディンは不規則な動きでウォタとの間合いを詰めると、死角から拳を撃ち抜いた。
しかし、ウォタはそれを軽々とかわす。
その動きに驚くオーディンに対し、ウォタはニヤリと笑って構えると、こう告げた。
「オーディン様!一つお手合わせ願います!!」
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる